かるがも行進局/緩やかな時の中で


-虚言の代償……-


 そこはどことなく暗く、日の光に恵まれていない所だった。
 切り株の円卓を囲む数人の顔は決して穏やかではなく、それは日の光がどうという問題ではない。彼らの顔を歪めさせているのは、もっと別な理由である。
「なんとかしなくては……」
 一人が、そう言った。
「だが、どうしろと」
「問題は山積みであるというのに」
「何と何をすればいいんだ?」
 誰もが思っていることをそれぞれが口にし、やがて黙り込む。
 全員がため息をつき、思い出したかのようにまた違う誰かが「何とかしなくては」と言う。
 後は繰り返しだ。答えの出ない議論ほど無駄なものはないが、何もしていないほうが不安に押しつぶされてしまう。形式だけでも、ただの愚痴り合いになってしまおうが、こうして話し合ったほうがまだ気が楽になるのだ。
「緩やかな時の中で、我々も随分と衰退したものだな」
 一人が悲しげに言ったことに誰も否定しない所を見ると、全員が同じ意見を持っているのだろう。
 これから先の不安と、現状として形になっている恐怖。
 そのどれもが彼らの心に影を落している。
「やはり、最大の問題は『奴ら』なのではないだろうか」
「そんなことはわかっている」
「そのためには、どうすればいいと思う?」
「我らは非力だ。奴らに立ち打つ術など……」
 問題は明確になっているのだ。話し合うべき内容も、決まっている。
 しかし、答えが――選択肢すら出てこない。
 あるとすれば、このまま『奴ら』の蹂躙を見過ごし、自分達が絶えていくしかない。
「故郷を捨て、逃げ出せば命だけは助かるかもしれない」
「死ぬか、逃げるか……二つに一つか」
 その二つしかないのならば、生きる方が良いに決まっている。
 故郷を捨てることに躊躇いもあれば、別の不安もあるのだが、他の手段もなく待つのが死であるというのならば仕方が無い。
 それ以外の答えが見出せず、それぞれが沈黙してしまった。
「な、なあ……でも、さ」
 円卓を囲んでいる一人が、もごもごと言いにくそうに沈黙を破った。
 当然、皆の視線を受けることになる。
 それでも震える声で続けた。
「『奴ら』がいなくなれば……」
「そんなことは当たり前だ」
「しかしここから出て行く気配など、まるでない」
 だからこうして身を潜めての話し合いをしているのだ。
「出て行かせるんじゃない。や、やっつけるんだ」
 その言葉を聞いて、全員の顔が呆れと哀れみの表情に変わる。恐怖と不安に押しつぶされ、気が狂ってしまったのではないかと思われても仕方が無い。
「無謀なことを」
「死に急ぐだけだ」
 無茶な事くらい、言った本人も解かっている。
 だが、あくまでそれは自分たち自身の力量だった場合だ。
「言い方を間違えた。『やっつけさせる』んだ」
 円卓を囲んでいる全員の耳が、ぴくりと動いた――。



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