-異者の散策……-




 ラーティア王国。
 その国は、世界最大と謳われる国であった。
 大陸の一般的な世界地図はこの国が中心となっており、東西南北に諸国があることから、中央国とも呼ばれていた。この国を通らなければ別の土地へ行く事が叶わないことも多く、そのおかげで発展したという声は、意外に少ない。
 それというのも、この国が世界最大と云われる所以の大部分は、『神子』の存在にあった。
 神子は世界に一人しか生まれない人間であり、一人が誕生したならば数百年は神子が生まれることはない。そして、代々ラーティア王国ではこの神子が多く見受けられた。時には騎士団の団長が、時には宰相が、時には――王子が神子として誕生することも、ラーティアの歴史にはあった。
 そして、シック=ラーティア=ルーラルは王家の人間でありながら神子として生まれた。
 神子はラーティア国王と同等の権威を持つことができるが、彼に王位継承権は与えられていない。神子はその特異な性質から寿命が長く、それを利用して独裁者になることを阻止するための処置なのだろう。
 神子は風の魔法、癒しの魔法、束縛の魔法を使うことができる。
 神子が重宝されるのは、世界一般として治癒魔法が禁呪とされているからだ。


 パタン、と小気味良い音を立てて、『彼』は本を閉じた。そこに綴られていた文字は、読み上げた本人以外は何が書かれているかなど分かるはずがなかった。
「これが貴様らの世界の概要で良いのかね?=v
 彼の質問に対して、三人は彼を睨んだまま無言を返した。
「こちらの質問に答えないで、そちらの問いには答えろと?」
 答えではなく、質問を質問で返したのは本を読み上げた彼とは違い、人間であった。緑の瞳と髪を持つ人物の名はシックという。先ほど彼が読み上げた中で出てきた、神子その人である。
 シックの質問は、他の二人が言いたい事と同じであった。
「クク。答えてやっても良いが、それで理解し納得するとは思えんがな=v
 シックの目の前にいる彼は、明らかに人間ではなかった。それというのも、肌の色は灰色で、頭髪の類や目すらなく、漆黒の外套を纏っている彼が、人間では有り得ないほどの瘴気を有しているからだ。
「もう一度、聞きます。お前は……誰だ?」
 声を低くしてシックは何度目かになることを問うたが、彼はまたくつくつと笑った。
「名でも紹介したら納得するのかね。わたしの名は、ネクロゼイム。霊を司る、魔軍の将=v
 ネクロゼイムは、持っていた本を放り投げながら、ようやくシックの問いに答えた。


 神子というだけで、シックは一般の人とは違う扱いを受けて来た。神子である事を利用しようとする者もいれば、取り入ろうとする者もいた。また、命を狙われることさえあった。神子の命を生贄に、失った命が元に戻るという噂の所為である。
 命が戻るというのはでたらめであるが、人はどうしても神秘の力にすがりたくなるものらしい。
 そのため、神子には護衛役がついていた。国から騎士団長をつけろ、もっと数を増やせと云われていたが、シックの護衛はただ二人。アルトという名の女性と、ジスターという男性である。
 アルトはシックと同じ十五の歳だが、強力な魔法を使うために渋々認められている。ジスターは魔法こそ使えないものの、強靭な肉体の持ち主であるためか文句をいう者は少ない。
 いつもは城暮らしだが、そこにいては息が詰まる、ということ言い分にしてしょっちゅう城を勝手に抜け出しては護衛役の二人を伴ってあちこちに行っている。今日もいつも通り、二人と共に、シックはラーティア王国近郊の森を散策していた。
 その時である、急に何かが光ったかと思うと、青と銀の光の渦が現れ、その中に引きずり込まれてしまった。気がついたら、森ではなく洞窟の中で、目の前には人間ではない何かがそこにいたのだった……。


 ネクロゼイムがいた洞窟と違って、澄み切った青が上空を覆っている。
 シックはそれを見上げながら、ため息を一つ。
「どうしたですか、シック様?」
 横からかけられた言葉に、シックは空に顔を向けたまま、視線だけを横に移した。そこには、桃色の瞳と髪を持ち合わせた、シックより一回りほど小さな女の子が立っている。
「あの洞窟の中で起きたことが夢だったんじゃないか……そう思ったんです」
「はぁ。でも皆が同じ夢を見るですか?」
 その言葉で、シックは改めてあれが現実であったことを思い知らされた。  ネクロゼイムはシックたちをこの異界の地に召喚したと言っていた。元の世界に戻りたければ、やって欲しいことがある、と。
「世界ノ匂いガ、違ウ……」
 ローブで全身を隠している男――ジスターまでもが現実を突きつけること言い、シックは再びため息をついた。
「仕方ありません。早いところ終わらせて、この妙な世界から脱出しましょう」
 言いながら、シックは地図を開いた。この世界――ルビスフィアの地図だ。ネクロゼイムは何かの魔法をシックたちに施したのか、見知らぬ世界の文字でも解読はできた。
 ネクロゼイムの依頼は、至って簡単なことであった。
 この地図に描かれている道を通って欲しい。それだけなのだ。それを言う際、必要になるだろうと、この世界の貨幣を渡された。この世界の価値観がどれほどなのかはわからないが、大金であることはなんとなく解かった。
 外に出た途端、地図のスタート地点として描かれている場所にシックたちは立っていた。振り向いても、洞窟は無い。周りには、普通に人間達が歩いている町並みの風景が広がっていたため、シックは先ほどの希望に似た疑念を抱いたのだ。
「ここから、駅馬車に乗るのか」
 地図の印の横に、いくつかの行動手順が書かれていた。まるでオリエンテーリングだ。
 探すまでもなく、駅馬車はすぐに見つかった。旅客用の馬車で、軽く十人は乗れそうだ。
 アルトとシックが右端から座り、ジスターは左端に座る。シックたちが最初に乗り込んだらしく、馬車の中には他の客はいなかった。出発時間になるか、満員になるまでに、少しずつ増えていくのだろう。
 予想通り、一人、また一人と客が乗り込んできた。その客らはどちらもジスターが座っているほうに腰を下ろし、見た目として若い男女が並んでいる所を遠慮でもしたのかもしれない。
 満員になるより先に、出発時間になったのか、御者が出発準備を始めた。十人乗りなのだろうが、その半分の五人しか乗っていない。そのうちの三人はシックたちである。
「おーい、待ってくれ!」
 御者が自分にかけられた言葉ではないと思っているのか、何の反応もなしに準備を進める。
「待て! 待ってくれって! そこの馬車ぁぁ!」
「んー?」
 ようやく気付いた御者が、声の方を振り返った。シックたちは御者の素振りしか見えないため、声の主は判明できなかったが、そのようなことをいちいち気にはしてられない。どうせ駆け込み乗車の類だろう。
「まだ席はあるのか?」
「何人だい」
「五人!」
「じゃあさっさと乗りな。後五人だ」
「ありがてぇ。おぉい、乗れるってさ!」
 声の主が一番に入り込んできた。御者に話しかけていたのは、燃えるような赤い髪を無造作に伸ばしている男だった。やや遅れて、他の四人が入ってくる。
 一人は赤髪の男とは対照的に青い髪の女性。そして、黒髪で糸目の男と、金髪で着ている鎧が無駄に煌びやかな美男子、そして目つきの悪い黒髪の男だ。赤髪の男と青髪の女はジスター側に座り、他の三人がシックとアルト側に座ろうとした――が。
「むぅ、すまんがもちっと詰めてはくれぬか?」
 糸目の男が、申し訳なさそうにシックに言った。
「え……」
 アルトが一番端にいるのは、その隣にシックが座ることでアルトの横にシック以外の人間が座れないようにしているのだが、言われて見れば、シックとアルトの間に半人分の隙間が空いているのだ。十人で満員となるこの馬車で、その空きは致命的だ。
「……わ、わかった」
 言われた通り、シックがアルト側へ詰めた。
 全員が座ると、思った以上にきつい。それというのも、シックたち側に座った三人のうち二人が鎧を装備しているためだろう。必然的に、シックとアルトはやや密着状態にあった。
「…………」
 声にならない声で、シックは顔を赤くしている。
「変なとコロデへタれだナ、しックモ……」
 ジスターが呟いたからかいとも皮肉とも取れる言葉に、返す余裕さえシックにはなかったという。

 シックたち後に乗り込んできた二人はただの旅客らしいが、飛び入りの五人はどうやら冒険者らしい。武器は金髪の騎士しか持っていないことを不審に思いながらも、これ以上席のスペースが圧迫されないのならばそれでよしとする。
 また、馬車内では五人の冒険者たちのみが会話を繰り返しており、迷惑になるような音量でも内容でもなかったうえ、それぞれの名前が判別することができた。
 御者を引き止めた赤髪の男がエン。隣に座っている青髪の女性がルイナ。シックの隣に座った糸目の男がファイマ。金髪の騎士がエード。そして目つきの悪い男がミレドというらしい。
 エードが、所々でルイナにアピールするような素振りを見せていたが、当の本人は無表情であまり乗り気ではないようだ。その報われない様子を横目に見ていたシックは、ふと逆の向き――御者のほうを振り返った。
 何故そうしたのかは解からない。無意識のうちであった。だが、それは予感だったのかもしれない。
「シっく、アると、近クに敵ガイるゾ……」
 ジスターがぽつりと呟いた。それこそ、シックとアルトにしか聞こえないほどだった。
 その途端、馬車が一際大きくがくりと揺れた。
「な――」
 馬が高鳴きすると共に、馬車が止まる。
「なにが起きたんだ!?」
 旅客はおろおろしているだけだが、他はそれぞれ立ち上がっている。シックたちと、五人の冒険者である。
「囲まれて、います」
 ルイナが、一定の音量でそんなことを言う。
「何にだよ」
 言いながら、エンたち五人が飛び降りる。シックたちはどうするか迷ったが、御者の方から外の様子を窺った。そこには、何人もの人間がこの馬車を囲んでいるようだ。どれも体格ばかりは良いが肌の色は健康とは言いがたく、古びた剣や斧をもっているうえ、服装もまっとうな暮らしをしている者とは思えない。
「駅馬車が襲われることはよくあるのですか?」
 シックの問いに、御者は震えながら首を横に振る。
「そんなことはない……はずなのに」
 このようなことに遭遇したのは初めてなのだろうか、シックたちよりも御者のほうが慌てている。
「仕方ありませんね」
 エンたちとは逆の方から、シックたちは馬車を飛び降りた。指令地図の中には、何かに襲われた場合は己の力で撃退すること、というまるで襲われることが前提のようなことも書かれていた。もしかしたら、このならず者たちもあのネクロゼイムが用意したのかもしれない。
「僕ひとりで充分です。アルトとジスターは下がっていてください」
 シックの余裕に対して、二人は聞こうとしなかった。
「アルトはシック様の護衛です」
「ソうイう事ダ」
「では、三人がかりで手早く終わらせましょう」
 言っても聞きそうにないので、シックも半ば諦めて認める。それに、三人でかかれば早く終わることも確かだ。
 シックは神子の力を使い、風を操ろうとした――が、すぐに違和感に気付く。
「……え?」
 風を操ることが出来ない。常に味方であった風が、まったく答えてくれないのだ。
「シック様、大変です」
 アルトも恐慌状態になりかけながら狼狽した。
「森の声が、聞こえません!」
 アルトは悪魔の森に封印されている七魔星という悪魔の魔力を借りて戦う。シックの味方が風なら、彼女の味方は悪魔なのだ。だが、その力が具現されることはない。
「だったら……!」
 風の魔法が使えないなら、束縛の魔法だ。光の輪で敵の四肢を縛り動きを封ずるそれは、四肢縛道と呼ばれている。それを試みるが、やはり効果を発揮しない。ただ手を挙げるだけのように自然に行えた行為が、突然封じられたような感覚に陥る。
「そんな馬鹿な!」
 ならず者たちは、相手が無力と判断したのか果敢に攻め出してきた――。


 一方、エンたちは苦戦こそしなかったものの、決め手が欠けていた。
「何なんだよ、こいつら」
 エンが再び、同じ相手を気絶に追い込む。しかし確実に気絶したと思った相手は、すぐに起き上がり再び攻め出してくるのだ。
「いっそのこと殺すか」
 ミレドが物騒なことを洩らすが、ならず者とはいえ相手は人間である。エンとしては、他の者もミレドを除いてそのようなことは避けたかった。
「むぅ。いくらなんでもおかしいのぉ」
 ファイマも異変に気付き始めていた。そう、相手は人間なのだ。それなのに、まるで魔物を相手にしているかのようだ。細い糸目の片方を薄っすらと開けて、注意深く相手を観察する。すると、先ほどとはまるで違う何かがそこにあった。
「ふむ……魔物が取り付いておるようじゃな」
「わかるのか?」
 向かってきたならず者を蹴り飛ばしながら、エンはファイマに訊ねた。
姿消呪文(レムオル)じゃよ。首筋にちっこいのが付いておるわい」
 ようやく事態を悟って、ファイマが皮肉な笑みを浮かべる。
「エン、これを……」
 対処法を見出したのか、水龍の鞭で幾人かのならず者の動きを封じていたルイナが、小瓶をエンに渡す。
「あいつらに投げれば良いのか?」
 エンとしてはルイナの言わんとしていることを瞬時に理解したが、念のために確認した。ルイナもこくりと頷く。
 言われたとおり、エンは小瓶を勢い良く上空に放り投げる。
「壊して、ください」
「俺様かよ!?」
 ルイナに言われ、ミレドが文句を言いつつも持っていたダガーを、放物線を描いている小瓶に向かって投げる。見事にそれは命中し、小瓶の中身が散乱した。中身は粉のようだったが、空気に触れた途端に霧となり、ならず者達を包み込む。
 霧が晴れると、そこには先ほどまで見えなかったものが見えていた。
「ダークアイだ! いや、しかし小さすぎる」
 普段はダンジョンの天井に張り付いている、目玉のモンスターだ。だが、エードが驚いたとおり、その大きさはならず者達の首筋程度の大きさしかない。本来はもっと多きはずだ。
「変種じゃろうな。人間に寄生して、襲い掛かってきておるのじゃ」
「こいつらが操っていたのか」
 媒体の人間をいくら倒しても限が無いのは当たり前だ。もともと気絶しているのだから。
「だったら――」
 エンは、火龍の斧を構えた。


 シックとアルトの異変に気付き、ジスターは素早くならず者達を殴り飛ばして行った。ジスターのローブの下は、人間とは思えないほどの肉体が隠されている。ジスターはれっきとした人間であるが、皮膚はまるで鋼鉄のように硬く筋力も並の人間ではない。
 彼に殴り飛ばされて、無事な者はいないはずだが、いくら攻撃を加えても、ならず者たちの勢いは止まらない。
「どウなっテイる?!」
 これにはさすがにジスターも焦りを感じたのか狼狽した。
「普通の攻撃じゃダメなのでしょうか」
 魔法が使えれば――。そう考えながらも、シックは護身用の細剣(レイピア)を抜いた。アルトを庇うような位置に立つが、こうも囲まれては庇いきれない。もとの世界で魔法が使えたとはいえ、剣の鍛錬もそこそこにやっていたのだ。だが、そこそこにやっている程度の腕前では、太刀打ちできそうになかった。
「きゃあっ」
 背後側から、ならず者たちが襲ってきた。間が悪くシックが前方に注意した途端である。アルトが寸でのところで躱すが、あやうく刃がその肌を裂くところであった。
「あんた、何アルトに手ぇ出そうとしてんの、殺すよ?」
 後手に回ってはそれこそ無駄に終わってしまう。躊躇うことはない。どうせ異界の者なのだ。どうなろうと知ったことではない。そう区切りをつけて、シックはならず者の喉に細剣を突き込もうとした。
「シっく!」
「!」
 ジスターの声に、シックがすぐさま反応する。アルトを狙ったならず者ばかりを気にしていた余り、真横から近付いて来ていた相手を見逃していたが、ジスターのおかげでそれは取り戻せた。
 とはいえ、それが起死回生の手段になるわけではない。ならず者達は決して強いわけではないが、弱いというわけでもない。事実、さすがのジスターも徐々に、しかし確実に疲労が溜りつつあった。
「何がどうなっているんだ!」
 シックがどうにもならない事態に悪態をついたその瞬間、その横を何かが過ぎった。
 たった一瞬で、何が横切ったのかを理解するまでに数秒を要したものの、目の前のならず者が数人倒れて、ようやく知った。
「あいつらは……」
 赤髪の男――エンたちである。彼らは素早く行動し、次々にならず者たちをなぎ倒してゆく。そのならず者たちが、再び起き上がることは無かった。よく見れば、彼らはならず者たちを直接攻撃していない。
「『精密』のフレアード・スラッシュ!」
 どこにそんなものを持っていたのかと聞きたくなるほどの斧を掲げ、エンがならず者には当たらないぎりぎりの角度から振り下ろした。その後、何か妙なものが切り離された。目玉に触手が生えたもので、それがなくなればならず者たちが動くことはなくなっていた。
「よぉ、大丈夫か?」
 火龍の斧を肩に担ぎながら、エンが朗らかに言う。その質問が、自分たちにかけられたものであるということに気付くまでやや時間がかかった。
「あ、あぁ……」
 魔法が使えないこと自体が大丈夫ではないのだが、少なくともならず者たちの脅威は去ったようだ。それに対してならば、もちろん肯定である。
「まだ動いているやつがおるぞ」
 ファイマの警告に、全員の顔が引き締まる。
「全部取り除いたはずだぞ」
 言うなり、エンは火龍の斧を構えた。
「ちくしょおおお!」
 ここにきて初めてならず者が叫びながら武器を振りかざした。どうやら取り付かれた魔物が離れ、正気に戻ってもなお襲い掛かってくるつもりらしい。もしかしたら、もともと意識があったのかもしれない。
「しつこいんだよ!」
 見れば、先ほどアルトを襲ったならず者である。
 今は普通の攻撃でも相手は倒れるはずだ。だからだろうか。先ほどの鬱憤を晴らすように、シックが死傷にならない程度に勢い良く斬り付け、ふらついた所にアルトが短剣を投げそれが太腿に命中し、悲鳴を上げたならず者をジスターがとどめと言わんばかりに顔面を殴り飛ばした――。


 洞窟内は静まり返っている。
 あの後、馬車は何の問題もなく別の街へと着いた。そこから地図の通りに歩くと、また瞬間的にここに立っていたのだ。
「ほぉ、無事に戻ってこれたか=v
 ネクロゼイムはシックたちを一瞥すると、興味なさげに言った。
 その皮肉めいた言葉に、シックたちはもう慣れてすらいる。
「魔法は使えなかっただろう。この世界と、貴様らの世界とでは魔法の成り立ちから構成までがまるで違う。いくら異界で神子と呼ばれようとも、この世界では無意味だ=v
 ただ、ネクロゼイムの様子が前とはやや違っていた。
「貴様らの魔法を、この世界でも使用できる可能性が無いわけではない。その研究の一歩として窮地に追い込んでみたが、どうやら別の冒険者が我が実験体を斃してしまったようだな=v
 瀕死にでもなればまた違ったかもしれんが、と続けていったネクロゼイムは、どこかつまらなさそうである。
「だがもう良い、貴様らは帰れ。暇つぶしは終わった=v
「勝手に呼び出しておいて、随分な言い草ですね」
「究極破壊魔法の準備が整った。これから忙しくなるのでな、貴様らに構っている時間はなくなった=v
 言うだけ言って、ネクロゼイムは準備を始めた。シックたちの足元を光が走り、それは魔法陣の形を作る。
「元の世界には戻しておいてやる=v
 ぱちん、とネクロゼイムが指を鳴らすと、シックたちはその場から消えた。
「さて、東大陸(ルームロイ)へ赴くとするか=v
 ネクロゼイムはこれから起こることであろう事柄に心を昂ぶらせながら、その洞窟を後にした。
 異世界の住人の漫歩は、もう終わったのだ。


〜fin〜



……はい、お客様を小説に出そう企画作品『異者の散策……』でした。
・ここで一言。
提示された初期設定をかなり弄繰り回してしまった気がしてならない。
そもそも設定を明確にするだけで相当な量になってしまうため、
今回の話の必要最低限のことしか書いてません。そのうえ設定付け加えてます。
ここはどうなっているんだろうと気になった点など、勝手にやらせてもらいました(ぇ
次から(やるとしたら)募集の方法を変えよう……。
・今回、要望として味方として出してほしいというのがありまして。
前回が前回でしたからね。
今回……味方………………か?(聞くな
敵ではない。これは確実(なにかおかしいが
あんまし接点がないけど。エンたちと関わってもらいました。
・今回の話の位置は、珍しく精霊探しの時ではありません。
外伝はたいていその時系列の話なんですがね。今回は違います。
炎水龍具本編44章の4行目。
『駅馬車で東へと進む中、道中魔物に襲われることもあったが、』
この時の話です。ある意味では、今回の外伝はここの話を明確化したもの。
ただ、視点は専らシックたちです。途中、エンたちメインのパートもありますが。
・んで、炎水龍具に根暗ゼイムが初登場。
いや、名前だけならリメイクした本編に出てるけど。
風地で初登場だったのですが、こちらでも姿を出しておこうかと。
時系列関係ではまだネクロゼイム死んでませんからね。お間違えないように。
・今回、ゲストキャラは魔法が使えないという制限を設けてみました。
前々回のゲストキャラはエレメント使ってましたが、その辺は気にしてはいけません。
むしろエレメントを使わせるつもりが普通にこちらの魔法使ってたし。
前々回と同じことするのもどうかと思い、今回の制限に。
前回? 前回は魔書の力ってことで(ぇ

 

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