-8章-
VS狩人
「へぇ〜。人って、かなり多いんだな……。ヒアイ村の何倍だろ?」
大会会場に来て、エンは辺りを見まわしながら驚く。田舎者丸出しだ。
「賞金や、賞品は、あるのですか?」
エンと違い、冷静なルイナが肩にかけた自分のカバンを整理しながら聞いた。
「以前と同じなら、賞金は五十万ゴールドだけど……賞品は毎年変わるんだ」
「五十万!? そんなに貰えるのか……」
この世界での貨幣価値は既に聞いているので、その値の凄さは充分承知している。
「優勝すればの話しだよ」
もう貰うつもりでいるエンを宥めるため、ロベルはあえて諦め口調で言ってみた。あまり効果はなかったようで、エンは相変わらずそんな大金どうしようかなぁ、などと言っている。
「五回優勝しま、したよね」
ロベルのことを言っているのだろう、エンは図書館で読んだ記録を思い出す。
「てことは……五十万が五回分で……百五十万ゴールド!?」
「計算、間違って、います」
どうもエンは計算が苦手であった。ちなみに答えは二百五十万。
「はは、エンらしいじゃないか。そうだ、これ見ておいて。試合の順番だから」
ロベルから、試合順が書かれた紙をに渡されて、エンは助かったと思いをし、しかしマズイとも思った。第一試合がエンなのだ。助かったと思ったのは、ルイナとは決勝まであたらないことだ。マズイと思ったのは第一試合の時間が今からということ。
「第一試合が間もなく始まります。第一試合に出場する選手は、ただちにリングに上がってください」
アナウンスが入り、エンは慌ててリングへと向かった。
一辺が約50mほどの正方形リング。それを囲むように観客席が設けられている。
ルールはロベルから大体聞いた。
其の一。一対一で、自分の武器を使って相手を戦闘不能にすれば勝ち。
其のニ。魔法アイテムの使用は有り。
其の三。ウェチェンジは何度も可能。
其の四。棄権可能。
其の五。今回は5回勝ち抜けたら優勝。
其の六。相手を殺したら反則負け&重罪。
「(他になんかあったような気がするんだけど……ま、いっか)」
エンは相変わらず軽い。軽すぎだ。もし重大なことを忘れていたなら、反則になる可能性もあるというのに。
「それでは、ソルディング大会の記念すべき第一試合、エン選手対ラゴ選手。始め!」
審判の合図がかかり、観客席のほうが一気に盛り上がる。
「(記念すべきって……記念するほどのことなのか?)」
審判が普通に言ったことを、エンは驚いた。しかしそんなことはどうでもいいようだ。相手はすでに武器を召還している。エンはやっと試合に気を向けようとし、初めて相手を見た。ルールを思い出そうと必死で、相手を見ていなかったのだ。
毛皮のマントを纏い、エンより小柄な青年だ。手には、ビッグボウガンが召還されていた。
「百発百中! どげん速か鹿も仕留めったオラの矢ぁ、くらぁがいいべ!」
エンとは違う田舎者丸出しで、訛りのあるラゴは、遠い間合いからしかけてきた。
「マズイ。エンは接近戦専用武器しか召還できない。あんなに遠いと、エンの攻撃はあたらないぞ」
観客席でエンの試合を見ていたロベルが、素早く状況を判断する。その隣には、無表情のルイナが座っており、こちらも冷静――であるのかどうかは解からないがいつも通り無表情だ。
「大丈夫、ですよ」
ルイナはただそれだけを言った。
「オレは鹿じゃねぇっての!」
ビックボウガンの矢をマントで防ごうとしたが、守備効果のある毛皮のマントと違い、エンのマントは旅用、つまりただの防寒具に等しい。あっさり破れてしまった。しかしそれで軌道が変わり、運良く鋼の鎧に当たったので、怪我をすることはなかった。
「新品のマントがぁ…」
自分のせいである。
「ふん。次はぁ、その真赤なゃ髪でも狙っちゃるけんの。外れて顔ぉ当たっとて、オラは知らんけんな!」
「百発百中じゃなかったのかよ……」
「うっせ! そげじゃぁ、おめぇの望みどり、顔ぉば狙っちゃるたい!」
ラゴがエンの顔を狙い、ビッグボウガンの矢を放つ。
「なんなんだよ、たくっ」
咄嗟にエンが武器を召還した。ヒノキの棒でも、バーニングアックスでもない。盾を召還したのだ。
その盾で顔面に迫る矢を防いだが、盾を突き破り、刃が目の前で止まったの無理は無い、エンが召還したのは『下級』の盾、皮の盾だ。
「ふん、『下級』召還しかでけんおめぇが、ゾルディング大会に参加するげな、間違っとぉべ」
「悪かったな!」
エンが盾から武器に変えた。それはバーニングアックスではなく……
「おめぇ、ざけとっんか!?『下級』中の『下級』、ヒノキの棒でねぇか」
エンはヒノキの棒を召還したのだ。最弱の武器を召還したにも関わらず、エンは笑っていた。
それは、勝利を確信した笑み。 |
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