-5章-
最弱武器



 ロベルは何度もウェチェンジを使い、だいぶ疲れてしまったようだ。
 その間に話してくれたことで、冒険者のしくみがだいぶ分かってきた。
 ウェコールを使った時は、召還者の精神力と集中力で、独自の武器を生み出せる。その時の集中力と精神力が高いほど、高度な武器を扱うことが出きるそうだ。
 ウェチェンジは、場所、時、場合を考えて武器を変化させること。
 例えば、相手が一体なら剣、複数ならムチ、避け切れそうにないときは盾と変化させる。しかし、剣と盾を同時に持てないのが難点らしい。
 ウェチェンジを使うと精神力を使うので、何度も変えると、今のロベルのように疲れてしまうのだとか。
 だからなのかもしれない、近づいてきた殺気に感づくことができなかったのは……。
「オレも使えないのかな?」
「冒険の契約をすれば、誰でも使えるよ。でも精神力や集中力がないと、たいした武器は召還できない」
 瞬間、蛇のようなものが高速で移動するように見えた。なにかが宙を飛んでいき、ロベルとエンの間をすり抜け、その後ろにいた、先ほどとは違うスライムを、勢いよく打ち据える。
 ロベルは一瞬なにが起きたのか分からなかったが、スライムと逆の方向を見ると、そこにはムチを握ったルイナがいるではないか。
「便利な、世界ですね」
 相変わらずの無表情でルイナは言った。
「ルイナ?!」
「エン、あの時のこと、覚えていま、せんか?」
 右腕を見せながらルイナは涼しげに言った。最初はなんのことだか解らなかったが、ここに来る前、青い渦に右腕を貫かれたことだと解釈し、すぐに自分の右腕へ視線をやった。そこには、盾の上に二つの剣が交じり合う紋章が浮かんでいる。ルイナの右腕にも浮かんでおり、それはロベルのものと全く同じものだった。
「……『鋼のムチ』、か。ムチ系では『一般級』に部類されるものだね」
 ロベルもただ唖然とするしかなかった。
 殺気を感じ取ることもできなかった自分にも驚いたが、いま話を聞いただけで、いきなり使いこなしているようにルイナが平然としていたからだ。

「そうだ! ロベル、オレたちに稽古つけてくれよ」
 魔物に見つかりにくい場所で休憩していると、唐突にエンがそんなことを言い出した。
 ロベルやルイナのように武具召還ができるらしいと解かった今、それを試したくなるのも当然だろう。
「そうだな。もしかしたら危険な場所に君たちが帰ることのできる方法があるかもしれない。強くなってもらわないとね」
 ロベルが微笑みながら承諾し、すぐに稽古にとりかかった。
「よし、じゃあウェコールをやってみて。集中するんだよ。最初は、口で言いながらのほうが召還しやすいからね」
「おう! いっくぜー、ウェコーール!!」
 エンの手から光があふれ、次第に強くなっていく。
「できた!」
「まだ気を抜いちゃダメだ! 完全に召還される前にイメージを崩すと……」
 ロベルのアドバイスは遅かった。既にエンの手には、ただのヒノキの棒が握られている。
「あ、あれ?」
「ダメだよエン。ウェコールをするときは、雑念が入ると変な武器になってしまうから」
「わ、解った。もう一度やるよ」
 エンはヒノキの棒を消し、もう一度集中する。消すのは簡単に出きるが、召還するのは難しい。
 何度か試してみたが、やはり最弱のヒノキの棒からは成長しなかった。
  一度召還できたものはその後も召還しやすく、ウェコールは最初が大事だと言われている。
 エンの場合、最初がダメだったが。
「仕方ない。少し休憩しよう」
 何度も精神力を使い、さすがのエンも疲れ切っていた。無理に精神力を消費すると、生命に関わる。ロベルが入れた休憩のタイミングは、ちょうどよいと言って良いだろう。
「そういや、ロベルが来てくれなかったら、オレって丸焦げになってたんだよな」
 今更ながら、恐怖という感情が出てきた。
「なにか、ものすごい邪気を感じてね。それに向かっていったら、途中に君たちがいたんだ」
「……オレたちが邪魔しちまったのか。わりぃな」
「いや、いいよ。気のせいだったようだし。君たちを救うこともできたからね」
 休憩が終わり、再びエンの召還特訓を始めようとすると、スライムとは違う魔物が、エンたちに近づいてきた。見つかりにくい場所とはいえ、さすがにウェコールによる幾度の光に反応したようだ。
「……エン、気をつけろ」
「へ? なにを?」
 魔物の殺気を全然感じ取っていないエンを見かねたのか、ルイナが口を開いた。
「北北西、10m先の、木の後ろです」
 やっとエンがなんなのかに気付いた時には、魔物は姿を現していた。

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