-13章-
準決勝戦



 さすが三回戦ともなると順番が早い。エンの試合から二,三時間経ち、もうすぐルイナの試合だ。
「ルイナが、いない?!」
 しかし、もうすぐ試合だというのに。今日一度もルイナは姿を見せていないのだ。
 観客席は昨日と同じであるし、ルイナに限って迷うなどあるまい。
「部屋は見なかったのか?」
「エンの話を聞いていたら、開けづらくって……」
 自分でルイナの部屋の恐ろしさを語ったことを思い出した。確かに、エンが一番恐ろしさを知っている。
「……緊急事態だ。オレ、ちょっと行ってくる!」
 言うなり走り去ってまったエンを見送り、ロベルが会場全体の気配を探り始める。以前より明かに妙な感じがするのだ。それは選手が少なくなっていく度に強まる。
「(何もなければいいのだが……)」


「ルイナっ!!」
 ノックもせずにルイナの部屋へ入ると、足で何か糸のようなものをを切った感触がした。
「(まさか……?!)」
 エンの予感は的中。咄嗟に後ろへ避けると、避ける前の場所に液体がこぼれる。その液体は一瞬で蒸発し、宙へと消えた。
「(へ、へへ……借り物の部屋にまで罠を仕掛けるとは…流石ルイナだな)」
 感心している場合ではない。罠に気を付けながら進むと、ベッドの近くに誰か倒れている。
「ルイナ!? なにしてん………! だ……」
 我を忘れて駆け寄ると、どこからともなく岩が落ちてきて頭に直撃。罠の一つである。危うく気絶するところだったが、なんとか立ちあがる。すると、今度は床が抜けた。床がもろいのではなく、ルイナが仕掛けた落とし穴だ。それをギリギリのところで、なんとかかわすことができた。

「おい! ルイナ!! 目ぇ覚ませ!!」
 数メートルしかないのに、やっと辿り着いた。という妙な達成感と共に焦りも感じた。まさか死んだのでは……という考えが浮かんだのだ。
「………エ、ン……?」
 ゆっくりと目を開け、ルイナは少しづつ記憶を取り戻す。
 薬の調合をしようとし、謎の紫の小瓶を開けたら眠ってしまった。そして今、目覚めたのだ。


「ルイナ選手が時間になってもこないため、この試合は、キガム選手の不戦勝といたします」
 アナウンスが入り、ルイナは不戦敗になってしまった。その数分後、エンとルイナがリングに辿り着いたというのに。
「間に合わなかったな……」
「……」
 しかしエンも多少なりともほっとしていた。このまま互いが勝ち残れば決勝戦で戦うことになってしまうし、もしルイナが負けるとしても、そんな光景は見たくない。不戦敗でよかったのかもしれない、と。
「続いて、第4回戦を始めます。選手はリングに上がってください」
 アナウンスが再び入り、ちょうどリングの近くまで来ていたエンがリングへ上がる。エンとしては、今日準決勝があることを忘れかけていた。
「ルイナが負けたからには、オレが優勝しなきゃな」
 肩を回しながら、相手を待った。どうせならルイナの相手みたいに不戦勝をしたかったが、どうやらそれはないらしい。準決勝の相手がリングへと上がった。

「準決勝第一試合、エン選手対ファイマ選手、始め!!」
 相手はエンよりやや背が高く、精霊の鎧で身を固めている。マントも魔力を込められた特殊なものだろう。頭には兜ではなく、帽子をかぶっている。これら三つの防具がどれだけ貴重なものかはエンには解るはずがない。
 目がやけに細く、開けているのかどうかさえも、わからない。
「先手必勝!」
 いつも通りバーニングアックスを召還し、いつも通り特攻をかける。こういうのを『馬鹿の一つ覚え』というのだろうか。
 それに対し、ファイマは右手をゆっくりとエンに向ける。
「フ……。気の早いヤツじゃのう。――大気に眠る破壊の精霊達よ、今その力を覚醒し、願わくはその刹那の破壊力を我に与えよ」
 呪文の詠唱だとわかっていれば、間合いをとるなどできたのだが、なにを言っているのか解らないエンは無謀とも言える特攻を止めない。
「響け、大地の轟音――イオラ=I」
 辺りの空気が目の前の空間に引き込まれたと思ったら閃光が走り、爆発した。
「な、なんだぁ!?」
 ギリギリで避けたエンだが、巨大な爆発は完全に避けることを許さなかった。
 足が焼け焦げ、血が流れる。しかも爆発の衝撃で立つことができなくなってしまっていた。
「イオラ=I」
 再び、巨大な爆発が起こる。今度は動くことができず直撃を受けてしまった。

「一度目はともかく、詠唱も無しにイオラを唱えるなんて……」
 観客席でロベルは愕然としていた。エンは魔法を防ぐ術を持っていない。それどころか、詠唱無しでイオラを唱えたファイマが不思議に見えた。
「……あの帽子、ではない、でしょうか?」
 一定の音程で喋る声、いつのまにか隣ルイナが座っていた。
「い、いつのまに……何処行っていたんだい?」
「後で、詳しく説明、します」
 ロベルとルイナはリングを見た。立て続けの爆撃呪文で、リングは土煙が上がっている。
「さっき帽子のせいかもしれないと言っていたね」
「はい」
「当たりかもしれない。もしかしたら、あの帽子……」

 数少ない上級防具。盾は召還できるが、マント、兜、鎧などの上級物は少ない。ファイマがかぶっていた帽子は、上級を上回る『伝説級』の帽子。
 山に住む精霊の力が宿り、それをかぶって呪文をとなえると山彦のように響いて効果が2回続く。その帽子を『山彦の帽子』と言う。


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