オイラはかみさまの言い付けを守る。
きらきら、太陽みたいに輝いてたかみさまの言葉を。
なんどかみさまの名前を呼んだだろう。
でもかみさま、今のオイラにはまっくらやみと、ドアの隙間からもれる小さな光しかないんだ。

朝が来たみたいだ。
匂いでわかる。オイラの鼻はこんな姿になっても健在だ。
緑柱石で出来たみたいにぴかぴかしてる葉っぱからたれる冷たい露の匂い。
鳥たちがせわしく動かしてる羽の匂い。
冷たい霧みたいな匂い。ああ寒いな。毛皮が無くなっちゃったからか。
こんな時母ちゃんが一緒にいたらなぁと思う。どんなに寒い日でも、どんな冷たい朝でも皆といると絶対あったかいから。

…さみぃ。余計寒くなってきた。
母ちゃんも、みんなももういないんだ。わかってるのに思い出しちまう。わかりきってるから思い出しちまう。
あの怪物に殺されちまったから…それから1人で生きようと思ったはずなのに。
自分の姿が変わっちゃったからか、こうしてまっくらな中食いもんもなしにつながれてるからか…不安でたまんない。

前までは人間のおっちゃんがたまに食いもん持って来てくれてた。
おっちゃんはオイラが足、怪我してて狩りできなくて腹が減って倒れて、その時拾ってくれたんだ。
でもおっちゃんが来てくれない。いつからかはもう忘れた。
オイラ忘れられちまったのかな…と思うとまた寒い。
おっちゃんがなでてくれるのは母ちゃんと同じくらいあったかかったのに。

こういう時はたのしいことやうれしいことを考えるもんだとむかーし母ちゃんが教えてくれた。
たのしいこと…
うれしいこと…
この冷たくて、重くて、痛くて、悲しい足のかせが取れて。
チャラ。
また雪みたいにまっしろな毛皮で草原をかけまわって。
チャラリ。
かけまわって、かけまわって腹減ったらいっぱい喰う!!
…、このくさり、硬すぎる。オイラのキバでもかみきれない。
のろわれてるみたいだ。
どうしておっちゃんは、オイラをこんなので繋いだんだろう。
おっちゃんはかみさまじゃないからか?

口からは今までしゃべってたことばが出てこない。
でも、オイラは母ちゃんに教えてもらったかみさまのじゅもんを言ってみる。
「かみさま、かみさま。どうかお助けください。かみさま。
 白いおおかみはこんなところで困ってます。どうかお助けくださいかみさま!」
はぁ。
オイラは悔しいんじゃない。
オイラは苦しいんじゃない。
オイラは、悲しいんじゃない…
オイラは寂しいんだ、かみさま。

…!
誰かのこえがする。近付いてくる。おっちゃんかな…?
「…ここで最後だね。」
「え〜、ここ絶対人いないわよっ!ボロボロの小屋じゃない!」
「まぁまぁマリベル。手掛かりくらいあるかもしれないだろ?」
「キーファの言う通りだよ。さっ。」
ここに入ってくる?!誰だっ!!
ギィィ。古い木のドアが開く。
冷たい空気と、ひかりかがやいたひと。
緑のころもを着た、かがやく…かみさま…。

「ガボッ!!」
オイラはかみさまに出会えた。

ただ1人、オイラを救ってくれる人を。

〜fin〜

 

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