-31章-
行け!




「それにしても。三人一組かぁ。オレとルイナだと一人足りないな」
「フフフ。ケンよ、やはり貴様はバカのようだ! ここに三人目がいるではないか。このコリエー」
「誰か組んでくれるやついねぇかなぁ」
 張り切って仲間に入ろうとしたエードをあっさりと無視。辺りを見回すが、他の冒険者たちは既に三人ずつ組んでいるようだ。新たな仲間は諦めるしかない。
 かくして、三人目の仲間はエードとなり、当然この後もしつこくついてきたことは、言うまでもないだろう。

 翌朝。早めに寝たので疲れはだいぶとれている。
 酒場の二階は宿屋のようなものになっていたので、寝台もしっかりと用意されていた。食事は当然お金がかかるが、美味いものばかりで安かったので、得した気がする。
「これから、武器仙人面会可能者を決めるイベントを開催する!」
 朝になってあらゆる者が集まり雑談していたのが、ファイマの一声でパタリと止んだ。エンがつけた傷の形跡など全くない精霊の鎧を着たファイマはこうしたことに慣れているのか、威風堂々たる態度だ。
「ルールは簡単! これから、三人一組の一組ごとに、ある紙を渡す。その紙に書いてあるものを五日以内に持ってくることができたら合格じゃ!」
 静まりかえっていたが、話が分かった瞬間、またざわつき始めた。
 要するに借り物競争をしろということだ。
「では、一組ずつ紙を取りに来い」
 これは早いほうが時間的に有利なので、慌てて並ぶ者や、それを退けて割り込みするものまで現れた。
「紙の内容を見るのは、全員一斉じゃ。慌てず慎重に来んか!」
 それを聞いて、それまで暴れていたものたちが急におとなしくなった。

 それぞれ紙を受け取り、配布終了。そしてファイマの言葉を待つべく、全員が静まる。
「……開けいっ!」
 その言葉に、全員が緊張した表情で渡された紙の内容を読む。
「人間用超しもふり肉一万トンだーー! って、い、一万トン!?」
「一億ゴールドだぞーって……一億ゴールドだとぉ!??!」
「薪五年分んん。……ん? 五年分ってどれくらいだ?」
 口々に言って確かめる人々のは、なんだか家庭用品やら単なる生活用具だったる気がするのだが。
 ファイマが言うには武器仙人は気まぐれで、このイベントを思いついたのも武器仙人らしい。本人は遊びのつもりらしいが……。
「(一億ゴールドなら簡単であるのに)」
「で、私たちのはなんなのだ?」
 ふと思いながら、エードがエンに聞いた。
「(薪五年分なら五日で十分なんだけどな)」
「え〜となになに」
 こちらもふと思いながら、改めて自分たちに課せられた物を見る。
「炎の……種?」
 紙にはそれだしか書いてなかった。しかも炎の種など聞いた事もないし、エードも首を傾げている。恐らくレアアイテムなのだろうが、誰もそれを知ってはいなかった。

「エン、お主たちはなんじゃった?」
 一通りの冒険者たちが去っていき、立ち往生していたエンたちにファイマが寄って来た。
「ちょうどよかった。なあ、炎の種ってなんだ?」
 紙を見せながら問う。そしてファイマはニヤリと笑い、説明した。
「師匠の気まぐれも、ここまでいくと尊敬するのぉ。炎の種とは、ここの裏山の頂上にある『零氷木樹』に実るものじゃ」
「零氷って。そんなのに『炎』が?」
 考えれば不自然な話である。零氷木樹というからには、氷の力を宿した聖樹のことだろう。なのに、正反対の力である『炎』の種が実るはずがない。
 だが、あっさりとファイマは答えた。
「氷の種のなかに、一つだけ混じって生まれるんじゃよ」
 つまり突然変異ということだろうか。まぁ一つだけというのも気になるが、確かにそれはそれで珍品的高価なアイテムだ。
「とにかく、裏山の頂上に行けばいいんだろ」
 話がややこしくなる前に、エンは結論をだした。そして、防寒具を纏い始める。
「裏山はここよりも寒いから、気をつけるんじゃぞ」
 その言葉で、やる気十分だったエンの動きがピタリと止まった。
 ルイナとエードはすでに準備ができ、出口で待っている。
「ケン! 早くしろ!」
「オレはエンだ!」
 一応指摘しておくが、早く行きたいという気持ちにはなれなかった。寒いのはどうも苦手だからだ。
「仕方ないのお。これはおまけじゃ!」
 そういって、ファイマは手を翳す。その手からやわらかな光が溢れ、エンたちを包んだ。
「これは?」
 すでに感じていた寒さが、その光のおかげでなくなった感じがした。
「熱寒半減呪文、フバーハじゃ。これで寒さの抵抗力が増すぞ」
「へぇ〜、ありがとな。じゃ、行ってくるぜ!」
 寒さが幾分か感じなくなったおかげで、やる気も復活したようだ。
 元気に飛び出し、ルイナとエードを引き連れて裏山を目指す。
 フバーハによる光の衣は、すぐに効果をなくしてしまうだろう。しかし、エンはそのことに気付きはせず、単なる思い込みで寒くは無いと思うことを、ファイマは想定していた。事実、その通りになるのだから彼の読みは当たっていたと言えよう。

 氷河山。エンたちが向かった山の名前である。
 魔物が多く棲む、危険な山としても有名な場所。
「お言葉通り、エンたちには炎の種を取りに行かせましたぞ、師匠」
 もうすでにエンたちは見えない。それでも、ファイマは氷河山を見続けている。
 そして、独り言のようなファイマの呟きに、無言で肯く老人がいた。

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