-28章-
地上の決闘?
〜金無しに訪れた希望〜



 港町アショロ。
 エンたちを乗せた船は、半壊しながらもここにたどり着いた。
「とりあえず、全員無事だな……」
 後ろの半壊した船を見ながらエンがぼやいた。

 あの爆発で、乱闘参加者は全員怪我を負ったが、ただの観客は無事だった。それというのも、ルイナが水のムチを使い、水障壁を作り出したからだ。おかげで、一応は全員無事だった。
 船体のあらゆるところに亀裂が走っているが、運良く沈まない程度のものだ。
 いつ沈むか解らない船は速度を落とし、なんとかアショロについた。その間、エンは人目に当たらないようずっと部屋にいた。こうなった張本人はエンであり、白い目で見られるのは解りきっているからだ。
 部屋に押しかけて恨みを晴らそうという者もいたが、ルイナの門前払いを受けておとなしく帰っていったとか行かなかったとか……。
 決闘相手だったエードはあの後行方知れずになってしまった。表向きにはエンが決闘に勝利したことになっているので、よほどのことがない限り現れないだろう。

「それにしても寒いなぁ」
 世界最北端とも言えるエルデルス山脈のふもとの町だからだろう。今は晴れているが、辺り一帯に雪が積もっている。エンたちが住んでいたヒアイ村は、温暖地域だったので寒さは苦手なのだ。
「財布の、中身も、です」
 ルイナの言う通り、財布は空に近い。
 ソルディング大会の優勝賞金、テルスから貰った報酬金。この二つで相当な額になるのは確かだが、船の修理代と慰謝料にほとんどが消えたのだ。

 金に困った状態では、何にでもすがりたいもので、例えば、『この猛獣と戦い勝てば一万ゴールド』というのを見たら、挑戦する他ないというものだ。
「さぁさぁ! このキラーパンサーに勝てば二万ゴールド! 二万ゴールドですよ〜〜!!」
 そう、このような呼びかけがあってほしいものだ……とエンの足が止まった。
「俺様が挑戦してやる」
「はいはい。挑戦料は一千ゴールド。お代はこちらね〜」
 どこかで見たことあるような筋肉隆々の男が、一千ゴールド払ってキラーパンサーと向かい合う。
 男は冒険者なのだろう、武器を召還した。それは『パワー系』に広く使われるパワーハンマーだ。
「うがぁぁーー!」
 やはりどこかで聞いたことのあるような雄叫びを上げながら男は猛獣に襲いかかる。
 それでもキラーパンサーはひらりとかわし、さらには氷の息まで吐いた。
 氷の息は男に直撃し、男は体中が氷付けになってしまった。
「俺様って……こういうのばっかりかよ…………」
 そういい残して失神。前にも氷漬けにされたことがあったのだろうか。

「はいはい! この魔物使いのリィダが育てたキラーパンサーに勝てる人はいませんか〜?」
 強そうな男が、強そうな武器を持って、強そうな猛獣と戦い、結局負けたせいか、挑戦する人がいきなり減ってしまった。
 ここで挑戦するのは、よほど力に自信がある者か、それかただのバカだ。
「……オレがやる」
 エンが言った時、誰もが哀れみの表情を向けてきた気がする。
 見た目は強くなさそうなので、ただのバカかと思われているだろう。
「はいはい。普通のキラーパンサーと一味違うよ〜」
「知らねぇ。どうでもいいから、早く闘わせてくれよ」
「オーケーオーケー。じゃあ参加料の一千ゴールドを出してくれ」
 財布の中身のほとんどを出す。
 これで残りはたったの数ゴールド……。

「キラパン、ガンガンいけぃ!」
 リィダは熟達した冒険者だろうか、一瞬でエンはただのバカではなく、それなりに実力者だと見抜いたのだ。キラーパンサーに指示を出したりしている。
 最初に動いたのはキラーパンサーで、四肢を使って攻撃を仕掛けてきた。
 きっちり四度。強力な破壊力を持った打撃――爆裂拳をさけて、エンはバーニングアックスを召還した。
「せーっの!」
 斧を振った時、ちょうどそこにはキラーパンサーの首がそこにあった。斬った瞬間、キラーパンサーの姿が揺らぐと共にその場から消える。
 幻惑呪文のマヌーサだ。
「炎の息!」
 リィダの言葉とともに、本物のキラーパンサーが炎の息を吐き出す。
「あちぃっ!!」
 直撃したものの、大した火傷は負わなかった。炎戦士の『職』は炎への抵抗力を与えてくれるため、これぐらいなら耐えることができるのだ。
 とはいえ、延々と耐えることができるということは、さすがないので炎を振り払った。
「(こうなったら魔法で……いや、駄目だ)」
 物理攻撃が当たりにくいのならば、魔法を使ったほうが効果的だろう。
 だが先日、船を壊してしまってから、エンは自らの魔法を使わないことにしようと思ったのだ。魔力が暴走すれば、無関係の人まで巻き込む恐れがあるから。

 とりあえず炎の息を吐き出した本物に狙いを定める。
「疾風突きっ!」
 リィダがまた指示を出す。
 この状況、前にもあった気がする。相手が疾風突きを繰り出し、なおかつ相手のほうが速い。
 疾風突きがエンに届く前に、その場で繰り出したエンの技が決まった。
「隼斬り!」
 バツ印に斬られ、おまけとばかりに吹き出した炎を受けたキラーパンサーは、倒れて動かなくなった。
「ああ?! キラパン!?」
 勝負はついた。観客たちが拍手し、リィダが泣きじゃくる。死んではいないようだが、戦闘不能状態にあり、しばらくは動けないだろう。
 それでも、しっかりと二万ゴールドは渡してくれた。
「なんとか、資金は大丈夫になりそうだな」
 二万ゴールドの入った袋を見つめながら、安心したようにエンが言った。
 ちょうど、雪が降ってきたのもこの時だった。

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