-27章-
船上の決闘4
〜大爆発(?)〜



「え〜い、なんなのだ貴様らは!? 邪魔をするな!!」
 エードでも大乱闘の渦に飲み込まれている。
「ケンはどこにいるのだ」
 名前を間違えているが気にすることは無い。
 エードが辺りを見回すが、エンらしき人物は見えず、変わりにまた一人自分に襲いかかってきた。それは無視しても構わない。この鎧には、とある結界防御魔法がかけられているのだ。
「見つけた!」
 そう言ったのは、エードではない。
「貴様、ケン!」
「オレはエンだ」
 エードが隙を見せた一瞬、エンの隼斬りが決まる。だが、やはり傷一つついていない。
「思い出したぜ。なんとかっていう結界魔法!」
 エンは確実にその名を忘れていた。
 スカラルド。――ソルディング大会で決勝の相手、キガムが使用していた結界防御魔法である。物理攻撃をほどんど受けつけず、効果があるのは魔法のみ。ベギラマを二発ほど打ち込めばあっさりと結界は破れてしまう。
「それがわかったところで、貴様は魔法が使えぬ戦士であろう」
 炎戦士の『職』が与えてくれる力は、炎に対する耐性と、炎を使う特技だ。元から覚えているのならともかく、これだけでは呪文の習得は出来ない。
「どうかな」
 しかしエンは、一つだけ魔法を使うことができる。
 一度、その場から間合いを取った。詠唱中に攻撃されないためだ。
「柔らかな熱を持つ炎の精霊よ その力を全力に変え、燃えつつ進め」
 メラの詠唱を、すぐに完成させる。
「ほう。一応は魔法が使えるか。だが……」
 エードのほうは、その詠唱がメラのものだとすぐにわかったが、悠然と構えるだけだ。
 もとよりメラは初歩攻撃呪文だが、ここは海の上だ。
「メラ=I」
 バーニングアックスを片手で持ち、もう片方の手を突き出して魔法を使う。
 手の前に魔力の炎が渦巻き、それは球を作り出していくごとに小さくなる。
 球ができそうになり、さらに小さく、小さく、小さく。
 そして、ジュッ、と、火のついたマッチを水の中に入れるような音と共に、情けないほどの煙が少し上がってそれは消えた。
「……あれ?」
 簡単に言おう。メラは失敗したのだ。
「やはり馬鹿だな」
「なに?」
「ここは海の上だ。炎の精霊力が弱いにかかわらずメラだと? 成功するほうに驚くぞ」
 エンが使う――というか、一般的に使われる精霊魔法。精霊に呼びかけ、精霊の力を借りて起こす現象が魔法だ。
 メラなどの魔法は炎の精霊。ヒャダルコなどは氷の精霊。バギなどは風の精霊。
 精霊にも営みというのがある。炎の精霊力が強い場所では暑いし、氷の精霊力が強い場所では寒い。水の精霊力が強いと池、湖、川、海なりができる。風の精霊力が強い場所では風が強く吹くなど。
 そして、その場の精霊力が強ければ強いほど、その力と反対の力をもつ精霊は働かなくなるのだ。
 だから、水の精霊力が支配する海の上で、炎の精霊に呼びかけたとしても、その場にその精霊がいないのだ。借りようにも借りられるものではない。
 もっとも、精霊を呼び出す『魔力』が高ければ、まだ威力が少し落ちる程度で済むのだが、エンは魔力の増減が激しい。だからベギラマが出たりしたのだ。だが今はメラすら成功していない。
「貴様、魔法が使えるのに、そんなことも知らなかったのか?」
 信じられないというような表情でエードが訊く。
「(し、知らなかった…………)」
 いや、ロベルから聞いたはずだ。地形や精霊の関係を、確かに聞いた。それを覚えておらず、忘れてしまっただけなのである。

 行き場のない突き出した手を、いい加減に下ろそうとした時である。なにか、違和感を覚えた。
「な、なんだ?」
 口に出して自問してみるが、それでわかるはずもない。
 急に手が痙攣したかと思うと、何かが飛び出した。熟達した魔法使いなら、『それ』が魔力が具現化したものだと理解しただろう。
 そして、飛び出した魔力は大きく光輝き、船を巻き込んで円筒形に天に上って行く。
 遠くから見れば、船に光線でも降ってきたのかと思えるほどの大きさで、それは白く輝いている。強大な、破壊力を持って…………。


 ――。
 闇が、とある気配を敏感に感じ取った。

 感じる――。
 やはり、間違いではなかったのだ。
 あやつは、我が――だ。
 フハハ。
 良い日だ。
 目的の物が、全て揃った。
 だが、アレはまだ足りぬ。
 あと少し開放することができれば、あやつは我の――になる。
 早く、早く来るが良い。
 なぁ――――――よ。
 いや、今は――か。

 闇は、笑い、しかし悔やみ、呼びかけ、嘆息した。
 光にはなり得ない闇、その闇が近づいてくる。
 不完全な光であり、不完全な闇がやがて訪れる。
 完全なる光に惹かれて、不完全な闇はやがて、究極の闇へと変わるだろう。


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