-26章-
船上の決闘3
〜大乱闘〜



 決闘の日。
 なんだかやる気が出ないのだが、逃げたと思われるのも癪なので今この場にいる。
「逃げずによく来たな」
 やたら煌びやかに輝く白金鎧(プラチナメイル)と、さらには白金製サークレット、白金盾(プラチナシールド)白金剣(プラチナソード)白金外套(プラチナマント)を装備したエードが言う。ここまで装備されると、煌びやかすぎで、光が反射して眩しい。目が、目がぁ……。
「お前が勝手に決闘させてんだろが」
 こちらはいつものように紅メッキ仕様の鋼の鎧と、ただの外套を装備したエン。
 ファイマに貰った山彦の帽子はルイナに渡している。魔法の使用度がルイナのほうが多いからだ。
「時間だな」
「そうだな……」
 喜んで言うエードに対して無気力に答えるエン。ここまで無気力さを見せておいて相手は何も言わない。よほどの物好きか、それとも相手を良く見るということをしないか……絶対に後者だろうが。
 そんなことを考えながらもしっかりと精神を集中させた。エンの手の周りに光が渦巻き、その光を掴むと、光は具現化。バーニングアックスが召還される。
 エードは剣を鞘から抜くだけだ。これにエンが驚いたことはエードは知らないらしい。
 何故驚いたか――は簡単である。昨日のエードの説明をほとんど忘れているのだ。魔物殺(モンスターバスター)は冒険者のように武具召還(ウェコール)武器変換(ウェチェンジ)ができないということを。
 そして、当然だが初期能力は冒険者よりモンスターバスターのほうが高いということも忘れているのだ。

 一度、儀礼に則り刃を合わせる。エードはニヤリと笑い、エンは嫌そうに溜め息を一つ吐いた。
「ゆくぞ!」
「いくぜ!」
 二人が一斉に間合いから離れると同時に、斬りにかかる。
「隼斬り!」
 一瞬で二振りしたバーニングアックスは、しかしすぐに避けられた。
「自由なる風の精霊よ 彼の者を切り裂かん」
 エードが早口で呪文の詠唱を完成させる。
「バギ=I」
 発生した小さな竜巻に、エンが数メートル吹き飛ばされた。
「ちっ。魔法か」
 吹き飛ばされたときに切ったのだろう。数カ所から血が少量だが流れる。
 ふと気が付くと、いつのまにか観客が増えてきていた。
 何事かと見ている者、このことを知っている者……とにかく演劇の時と同じくらいの人が集まってきている。

「何事ですか?」
 外に出てきて、驚いたテルスがそこら辺にいた観客の一人を捕まえて聞き出す。
「なんでも、決闘らしいよ。ルイナさんを賭けた戦いだそうだ」
 この者の情報は間違ってはいなかった。
 それでも人の噂というのは恐ろしいもので、少しずつ違う方向へと変わっていった。
 ルイナを賭けてエンと貴族が決闘から、ルイナを賭けた貴族同士の戦い……などと噂されて、挙句の果てにはエンに勝った者はルイナを嫁にできるというものになった。
 そして、その噂を信じたものが一人、また一人と武器を手にしだした。

「ふっ。中々やるではないか」
「そっちこそ。なんかありやがるな、その鎧」
 何度か手応えはあったのだが、エードの鎧には傷一つついていないのだ。
 前にもこんなことがあった気がする。
 確かあれは――。
「うぉぉぉ! ルイナさんは俺のもんだーー!」
 少し前のことを思い出そうとしたとき、船乗りの一人が斧を持って割り込んできた。
 あやふやのまま伝わった最終的な噂を信じた者の一人である。
「だ、誰だお前は!?」
「だ、誰だ貴様は!?」
 エンとエードが同時に言葉を出した。
 目標はエンだったので、エードの剣と船乗りの斧を同時に受けとめた。なんとも器用な受け止め方で、エン自身、このようなことができたのが凄いと思っている。斧の刃で剣を受けとめ、柄の部分で斧を受けとめたのだ。
 柄も金属で出来ているので、剣と斧、斧と斧の柄との金属音が響いた。
 それが合図だったかのように、他の者たちが武器を手にしだした。この男の行動が、妙な噂を裏付けてしまったのだ。
「「「「「「「「おおおおおおお!!!!!」」」」」」」」
 男性軍全員出撃。そう思えた。
 多くの種類の雄叫び――かなにか――が聞こえたのだ。
 その数が多いことで、なぜか中には女性も混じっていた。
 手の空いている船乗りは、対海賊用の武器を持って、貴族たちは護身用か戦闘用かはわからないが細刀(レイピア)を持って決闘に割り込んできた。
 中には、前に『妻がいなければ嫁に迎えたかった』と言っていた貴族もいる。どうなっても知らないぞ。

「どうなってんだよ、これぇ!?」
 最初はエンが襲われたが、次第に近くにいる者に攻撃しはじめた。
 もはや、全員が敵である。

 大乱闘。

 いうなら、これが一番正しい表現だろう。
「覚悟っ!」
 貴族らしき男が細刀を突き出してきた。――って、あんた先日の『妻がいなければ〜〜』発言の貴族ではないか?
「この!」
 人間相手なので、殺すわけにはいかない。だからと言って、なにもしなければ殺されそうなので、あえて刃を使わずに蹴り飛ばした。戦いに慣れてなかったのか、あっさりとその貴族は転倒。後で奥さんに殺されないようにしなよ?
「やっぱり、受けるべきじゃなかったなぁ……」
 そうぼやいて、また二,三人を蹴り飛ばした。

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