-25章-
船上の決闘2
〜決闘前夜の魔物殺〜



 決闘は明日。
 受けるとは一言も言っていないが、今更あの男に言っても無駄だろう。
「ハァ……」
 今日で何回目のため息だろうか。
 決闘を明日に控え、今日やったことといえば素振りのみ。
 しかも、意味はないだろうが、やらないよりはマシといった程度。
「………ハァ」
 なんだか明日のことを考えるたびに、無気力になってきた。
 別に、戦うことが嫌なわけではない。
 相手がアノ男だというのが嫌なのだ。


「ところで、な〜んでお前がここにいるんだ……?」
 既に日が暮れており、そろそろ眠気に支配される時間だ。
 エンとルイナがそろそろ寝ようとしたときに、エードが入ってきたのである。
「少し聞きたいことがあったのだ」
 こっちは眠いのに、という表情をエンが見せても無駄。
 ルイナがそういう表情でエードを見れば、彼は遠慮してすぐに帰るだろう。だが、ルイナにそんなことを期待するだけ無駄だというものだ。彼女は常に無表情なのだから。
「それで、なんだよ」
「ルイナさんと、ついでに貴様の職業を知りたい」
「? 冒険者だ」
 いったん拍子抜けしたが、正直に答えた。
 しかし、その答えに拍子抜けしたのはエードも同じだった。
「違う。冒険職業だ」
「ん。ああ、オレが炎戦士で、ルイナが水魔道士だ」
 エンが言ったのは、冒険者の中で冒険職と呼ばれるものだ。
 それはダーマという転職店で変えたり、自分の力量などが分かったりする。
 戦士、武闘家、僧侶、魔道士を原点とし、あらゆる職業が存在するのだ。
 エンがソルディング大会でファイマに言った炎戦士というのは単なる思いつきだったが、実際にダーマで調べるとエンは炎戦士の『職』に就いていたのだ。
「……仲間はこれだけか?」
「ああ」
 エードは唖然とした表情で二人を見た。
「なんだよ?」
魔物殺(モンスターバスター)はいないのか?」
「なんだ、それ?」
 まもやエードは唖然とした。
「知らないのならば教えてやろう。感謝しろよ」
「はいはい。分かったから話してくれ」
 エードは一瞬ムッとしたが、咳払いのあとに淡々と話し始めた。

 魔物殺(モンスターバスター)
 その名のとおり、魔物を倒すための職業であり、魔物退治のプロフェッショナル的存在だ。
 探索、依頼、その他の方面を請け負うことができる万能タイプの冒険者と違い、魔物を斃すことで生きていくのである。
 冒険者と違う点はいくつかある。
 一つ。ウェコール、ウェチェンジができない。
 忘れている人もいるかもしれないが、ウェコールとは武器召還のこと、ウェチェンジは武器変化召還のことである。
 二つ。その職業となった時点でのステータス上がり方が遥かに大きい。
 冒険者もその職業となった時点で、身体能力が――個人差はあるが――人並以上に上がる。
魔物殺はそれの軽く五倍は上がるのだ。
 三つ。魔物を倒した時、魔物の屍が貨幣へと変わる。
 モンスターバスターとなって魔物を倒して金を稼ぐか、冒険者になって依頼を受けたり、遺跡を探って金を稼ぐか、どちらの職につくかを悩ませることが多い。
 冒険者となると、二度と魔物殺になれない。そしてその逆も然り。
 そのため、冒険者と魔物殺がパーティーを組むのが普通なのである。

「などあってだな」
「ああ……」
「その他に」
「ああ……」
 続きを言おうとして、エードはふと気づいた。
「おい」
「ああ……」
「聞いているのか?」
「ああ……」
「起きているのか?」
「ああ……」
「…………」
「ああ……」
「起きろっ!」
 エンは完全に聞いてなかったのである。もちろん、途中までは聞いていた。
「眠いんだ。また明日な」
 そう言って、エンは寝台の中に潜り込んだ。
 エンの隣にいたルイナは、すでに静かな寝息を立てている。
「……………」
 居場所がなくなったような気がしたエードは、無言のまま部屋を出ていった。

 それにしても、エンは気付いていないだろう。自分の職業が海上では不利になることを。エードは相手の職を探りにきたことを。


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