-38章-
闘士、昔語



 君はいつだってみんなの中心に存在していた。
 僕はその横にいて、君をずっと見ていたんだ。その存在は、眼が眩むほど明るすぎた。
 最初はそれでもよかったんだ。僕の横に君がいて、君の横に僕がいる。
 二人が揃えば、恐いものなんてない。そう信じていた。
 そう信じていたはずなのに。


 時は十数年前。
 場所は、炎の神を崇める民村――ヒアイ村。
 年に一度の祭り、『火祭り』の時期が近付き、村全体が賑やかになる季節になっていた。
 村はずれの森の中で、きょろきょろと辺りを見回す村人が一人。髭だらけの顔を渋い表情で歪ませている。
「う〜ん、どこに行ったんだ?」
 この辺りだと思ったんだがなぁ、とぼやきならが、その髭面の男は更に森の奥へ入っていく。目的の相手は一目みればすぐ分かるはずなのに、ちらりとも見かけない。この緑や茶色ばかりの森の中で、こうも見つからないという事は全く別の場所にいるのだろうか。
 そんな事を考えて、場所を変えようかとした途端である、ふと視界の中に別の色が移る。
「おぉ、ルイス! そこにいたのか」
「いたけど……どうしたの、タム?」
 ルイスはちょうど、狩用の弓矢を調整していたところである。これで獲物を狙っている最中だったら、タムの無遠慮な声は獲物を逃してしまっていたかもしれない。それ以前に、ルイスは見つけられなかっただろう。完全に気配も姿も消して狙えるのは、ヒアイ村で彼一人くらいのものだ。
「あれ? カエンは一緒じゃないのか」
「あいつならイノシシに正面から勝負を挑んでいたよ」
「マジか!」
「冗談だよ。川の方に行ってる」
 表情が冗談を言ってるようではないので、どうしても一度は信じてしまいそうになる。そもそもあまり表情や口数が豊かではないほうなので、少ない言葉では嘘か真か判断し辛い。
 ルイスが示した方向は、そう遠くは無い場所だ。この辺りにいるというのは、間違いではなかったらしい。
 タムは礼を一言だけ残して、すぐそちらに向かった。
「この辺か」
 呆れとも感心とも取れる苦笑交じりの呟きのタムは、その表情も何とも言えない。それというのも、明らかにカエンがいる痕跡を発見できたものの、それは無造作に脱ぎ捨てられたカエンの服である。大方、川で泳いでいたりするのだろう。
 それを証明するかのように、水音が一際大きく響いた。
 川の中に浮かぶ炎。そう表現できそうなほど、そこに現れた青年の髪は燃える赤色だ。
「おぅい、カエン!」
「んぁ? お、タムじゃないか」
 タムの呼びかけに、カエンが川の真ん中から手を振る。川幅も広く、深さもそれほどにあるはずだが、カエンは特に気にした様子もない。もしこれが金槌だったら絶望的状況なのだが、平然としているのでカエンは当然泳げるのだ。
「どうしたんだ?」
 川からあがりながら、カエンが問いかけた。
「……その前に一つ聞いて良いか。何してたんだ? 今日はそんな日でもないだろ」
 ヒアイ村は比較的に気候が暖かい。とはいえ、寒い風が吹く時もあるわけで、タムが疑問に思うほど今日は冷える。
「いやぁ、気持ちよかったぞ。さっきまでイノシシと熱い戦いを繰り広げてたからな。身体が火照っちゃって」
「冗談だって聞いたぞ」
「ルイスにか?」
「――なんだ、本当にイノシシに真正面から挑んだのかい」
 タムの後を追いかけてきたのだろう、ルイスが会話に割り込んだ。
「嘘から出た真ってやつだな」
「まあ、カエンならそんなことをやってると、半ば本気で思ってたけどね」
 タムとルイスにそんなことを言われて、これにはカエンも苦笑するしかない。
「それで……?」
 二人の視線がタムに向けられ、笑っていた彼もはたと思い出したかのように表情を変える。しかしその変え方は、別の意味合いによる笑みだ。からかうような、羨むような、悪意の無い笑み。
「そうだ、そうだ。さっき村長が話しているのを聞いたんだ」
「村長が?」
「ああ。次期村長の話さ」
 蓄えた髭をさすりながら、おどけるようにタムが言う。そしてにやにやしながら、カエンを見つめた。
「やったな、カエン」
 タムに言われて、しかし当の本人は理解していないのか眼を瞬かせるのみだ。
「なにをやったって?」
「君が次期村長。そういうことだろ」
 ルイスはとっくに分かっていたのだろう、呆れたようにタムの言葉を明確なものに変えた。
「オレが?!」
 ようやく意味を理解したカエンが、遅れて狼狽する。とはいえ、常日頃から皆が次期村長はカエンになるだろうと思っていたことだ。カエンの驚きは相当なものだが、他の者にとっては、ついにその時期がやってきたとくらいにしか思っていない。
「おめでとう」
 賞賛するようにも、からかっているようにも見える笑みをルイスが浮かべた。
「めでたいことなのか」
 それに対してカエンが困ったように頬を掻く。
「村長って要は責任者だろ。いろいろと面倒そうなんだけど」
「すぐ慣れるさ。最初はみんなの相談役くらいに思っておけばいいじゃないか」
「今とあまり変わってないな」
 カエンとルイスは、村長のところに持ち出される問題の話し合いに付き合わされることが多い。提案や解決方法など、ほとんど二人で最良の選択を行い、村長がそれをまとめて責任を負うというのが最近の形だ。
 何か問題が起きた時には村長のところへ行く、というのがヒアイ村では常識だが、そこまでする必要もないことだったら直接カエンに相談に乗ってもらうというのもしばしばである為、カエンが村長になろうがなるまいが、あまり変わっていない。
「そうだ。ルイス、お前が代わりに村長になればいいじゃないか。そしたらオレはのんびりできる」
 まるで景品か何かを渡すような軽い口調でカエンが言った。ヒアイ村にとって村長という地位の重大性を全く見出せていない発言だが、それもカエンらしいと言えばカエンらしい。
「君のほうが皆に好かれているだろ。それだけで十分さ」
「ルイスの言う通りだ。皆、お前に村を率いてもらいたいんだよ」
 そうかなぁ、と未だに自信なさげカエンは呟いた。
「改めて、おめでとう。カエン」
 微笑みながら、ルイスが手を差し出す。
「まだ正式に決まったわけじゃないけどな」
 カエンははみかみながら、それに応えた。
 二人が厚い握手を交わす。

 ――この時は、本当の善意しかなかった。
 友の存在を認め、その誇れる親友が、誰からも愛される人間であることさえ自慢できるほどだ。
 だけども、違っていた。
 どこか違っていた。
 何かが違うのに、それに気付けずにいた。
 分かっているはずなのに、分かっていない。
 そんな奇妙な感覚が、あるか否かさえ不確かであった。
 あぁ、しかし――。


「意味なんてあるのかなぁ」
 のんびりとした声が、山の中に通る。
「決まりごとだからね。誰かがやらないと」
 諌めるような口調でルイスに言われては、カエンも反論することはできない。
 今、二人はヒアイ村から北に位置する休火山に訪れていた。火山としての活動は停止しているものの、定期的に見回るのはヒアイ村に住む者の重要な役目である。
 信用の厚い二人は成人になってからずっと任されているが、特に目立った問題は今までなかった。それ故にカエンが不平を洩らしたが、これからもずっとこのままという絶対なる保障は無いため、やはり誰かが見回らなければならない。
「もうすぐ火口だけど、早めに休憩するかい?」
 ルイスの提案に、どうしようか、と考えながらもカエンは適度な場所を探して視線を移ろわす。
 そんな様子の友を見て苦笑していたルイスの表情が、途端に険しいものに変わった。
「……!」
 カエンも同じく、雰囲気をがらりと変える。ルイスの急変に対してではなく、二人は同じことに対してのことだ。
「カエン……」
「ルイス……」
 二人が、互いの名を呼ぶ。
「休憩は後だ」
 どちらがそれを言ったのかは分からない。もしかしたら同時に言っていたかもしれないし、言ったつもりだけだったかもしれない。ただ、二人が同時に駆け出したことは、紛れもなく真実である。
 猛スピードの駆け足は、二人を颯爽と火口まで運ぶ。
 火山の頂上に位置する火口は、大きな口を開けたかのように急斜面になっている。奥底にマグマは見えないが、その大口に落ちれば間違いなく待つのは死だ。そんな死の入り口に立っている者が一人。いや、立っているというよりも、ぶら下がっていた。
「あそこだ」
 火口の付近は意外に脆く、崩れやすい。村人ならばそれは周知の事実なので決して近寄らないが、そういった知識がない者は好奇心から火口を覗こうとする。その為に注意書きや、ロープで道を塞ぐなどしているが、それらを潜り抜けて来た行商人らしき男が、なんとか端を掴みながら落ちるのを堪えて火口にぶら下がっていた。
 落ちる際に悲鳴をあげ、カエンとルイスがわずかながら聞き分けられたそれは、幻聴でなかったようだ。
 男は恐怖で口が開かないのか、身体を支えるだけで精一杯なのか、滝のような汗を流している。
「おい、大丈夫か」
 こんな状況で大丈夫も何も無いか、と思いながらカエンが男の腕を持つ。
 現れた助けに、その男は目の端に涙を浮かばせて泣きながら笑みを浮かべた。
「わ、馬鹿! まだ力を抜くな!!」
 助けに安心しきったのか、それとも必死に掴んでいた男の握力が限界だったのか、カエンにかかっている重さが急増した。
「カエン!!」
 何とか引っ張りあげて後ろに放り投げた瞬間、ルイスの言い知れない表情と声がカエンの瞳に映る。

 あれ? なんでそんな顔しているんだ。

 一瞬、本気でそう思った。手を限界まで差し伸ばそうとしたルイスが視界に入り、遅れて理解した。
 カエンは行商人と入れ違いに、火口に躍り出てしまっていたのだ。
 ルイスの手が遠い。とても届きそうに無い。
 だがルイスの諦めも悪く、更に身を乗り出してカエンの手を掴もうとした。
「ルイス!!」
 落ちていく中で最後に見たのは、ルイスの足元が崩れ、彼もまた火口に落ち行く姿だった。

 そしてどうなかったのか分からない。意識は暗闇に、沈んだ。


 ――眼が覚めたのは、森の中だった。
「こ、ここは!?」
 カエンはがばりと身を起こし、五体が満足である事を喜ぶ前に錯乱しそうになった。あの火口に落ちたのだ。生きているはずがない。この森が死後の世界なのか、と思ったがそれにしてはやたら生前と変わりない。周囲も、そして自身も。
 ガサリ、と奥の茂みが不自然に揺れる。
「なん、だ」
 突如、全身の毛が逆立つような感覚に襲われた。その奥に存在するのは、まともではない。五感全てが、生命の危険を告げる警報を鳴らしている。ここが死後ならば生命の危険もないだろうが、逆に確信してしまった。ここは死後の世界ではないことを。そしてこのままでは、本当に死後の世界へ赴いてしまうことを。
「ガァァァァっ=v
 茂みから飛び出してきたのは、二本の巨大な黒角を頭に生やした獣である。毛皮はふかふかしていそうだが、その角はとてつもない殺傷力を秘めているのは嫌でもわかる。沈黙の羊、という魔物なのだが当然カエンの知る所ではない。
「――?!」
 ヒアイ村の森にいるような獣の類ではない、殺意を持った塊が襲い掛かる。堪らず叫び声を上げた。いや、気が動転しすぎてそれが叫びだったのかさえ分からない。ただひたすらに逃げろと頭の中で本能が警鐘を鳴らしている。
「危ない!」
 逃げられないと思った瞬間、天の声が聞こえたかのようだった。
 魔物ではない、真っ当な人間の声と入れ替わりに、カエンの横を何かがすり抜ける。
「せぇぇぇぇい!」
 思わず振り向くと、カエンより小さな、まだ少年と言えそうな男が恐るべき魔物に素手で立ち向かっていた。なんて無謀な事を、と思う暇などなかった。既に、その少年は沈黙の羊を小柄な身からは信じられない腕力で投げ飛ばしていたのだ。
 巨大な羊は宙で一回転して、地面に叩きつけられた。一度びくんと大きく脈を打ったかのように跳ねて、すぐさま起き上がろうとする。
「後は任せろ」
 最初に聞こえた声が呆然と立ち尽くしていたカエンのすぐ後ろから聞こえた。
 少年はその場から退き、入れ替わりにその男が突っ込む。
 何が起きたのか解からなかった。気が付いたら巨大な羊は姿を消し、カエンの前に立つ男の足元に硬貨らしきものが転がっている。彼は手に持っている鋼の剣を振って付着した血を払い、ゆったりと鞘に収めた。
 カエンと同じくらいの歳であろう青年は、鎧に外套という、『この世界』では極ありふれた格好ではあるが、カエンにとっては理解できないものだ。
「ふぅ、大丈夫かい?」
 話しかけられて、頭の中で整理が追いついてないカエンは、命が助かったことだけは理解できたので素直に頷くしかできなかった。


 カエンとその青年たちが事情を理解するまで、相当な時間を費やした。
「異世界、か。そういう事もあるんだね」
 カエンを救った青年は感心するように言うが、それに対してカエンの顔が渋くなる。
「楽しそうに言うなよ。こっちは訳がわからないんだ」
 幾分か気安くなっているのは、カエンも大分落ち着き、今いる世界の仕組みを何となく理解したからだ。
 ――ルビスフィア。五つの大陸から構成される、カエンが済む世界とは異なる世界。
 カエンを救った青年は冒険者と魔物殺(モンスターバスター)の二人組みである。素手で沈黙の羊を投げ飛ばしたのは、武闘家のシェンと名乗り、こちらは冒険者だ。そして魔物殺にして魔法剣士のシーケンが目の前の青年である。
 二人は近くの街に雇われている冒険者で、最近になって凶暴化しつつある魔物退治を依頼されているらしい。その探索途中に沈黙の羊に襲われているカエンを発見し、今に至る。
 魔物や魔法の存在などカエンには信じ難いことばかりだったが、実際に襲われたこともあるうえ、シーケンから簡単な魔法を見せてもらった。そこまでされて信じないほどカエンは疑心暗鬼ではない。
「楽しそうだなー。オレも色んな所に行って見たいなぁ」
 シーケンと同じく、シェンが楽しそうに笑う。こうしてみるとただの少年にしか見えないのだが、カエンはあの巨大な羊を投げ飛ばしている姿を目の当たりにしているだけに、あまり笑えたものではない。
「これからどうするんだい?」
 そう聞かれて、すぐに思い浮かんだ言葉を口にする前に、ふと違うことが脳裏を過ぎった。
 何かを言いかけて唐突に黙り込んだのだから、冒険者組二人が共に訝しい顔を向ける。
「ん〜、元の世界に帰りたいって言おうとしたんだけど、違うな。帰る方法なんて難しそうだし」
「うん。確かに僕たちの世界のことなら君より断然詳しいけど、君の世界と行き来する方法なんてものはさすがに知らない」
 きっぱりと言う辺り、最初の言葉を口にしていれば二人も困惑していただろう。
「そうだろうと思ってさ。そこでだ、オレもあんたらの仲間に入れてくれ」
 カエンは迷いなく言って、シーケンとシェンは目を瞬かせた。
「オレは強くなりたい。この世界で生きていけるくらいに、戦える力が欲しい」
 何も戦えることだけがこの世界で生きる方法というわけではない。それくらいカエンにも解かっている。それでも、カエンは強くなる事を欲した。今、最も必要なことだからだ。
 シェンが不安そうな顔でシーケンとカエンを見比べた。カエンに対しては危ないから止めておけ、と言いたいのだろう。シーケンには、こんな素人を仲間に入れるのは足手まといだ、とでも思っているのかもしれない。
 シェンの不安そうな視線と、カエンの揺ぎ無い視線を受けて、シーケンは少し考え込んで顔を上げた。
「辛いかもしれないよ」
「覚悟のうえだ」
 カエンの即答に対して、シーケンが柔らかく微笑む。そして、右手を差し出した。
「そうか。じゃあ、これから一緒によろしく頼むよ」
「ああ!」
 力強く応え、握手を交わす。シェンはシーケンの意志に従うのか、彼が決めた途端に先ほどの不安そうな表情を消し去り、歳相応の笑顔を見せたのだった。

 カエンは魔物殺(モンスターバスター)の武闘家として戦うことを選んだ。いずれは一人旅の武者修行を考えていたので、魔物を倒すことで路銀を稼げるうえに、武具を必要としないこの組み合わせが最適だった。
 最初こそはシェンという武闘家の先輩が手本になったりしていたが、カエンにはもともと素質があったのだろう。あっという間に二人の実力に追いついていた。
 魔法戦士たるシーケンからは精霊魔法の理などを教わり、ルビスフィアのことがだいぶ解かってきた頃、カエンは仲間二人に別れを告げて、一人旅を始めた。
 目的は、三つ。
 一つは、元の世界に戻る方法を探すこと。
 一つは、それがどんな危険な場所にあるかわからないので、今よりも強くなること。
 そして、自分が生きているのだから当然、親友も生きているはずだ。
 最後の一つは、ルイスを探すこと――。


 ――目が覚めた時、そこは暗い森の中だった。
 生きている感覚があるが、本当に生きているのか疑問だ。死後のことなどその時にならなければ知りえないのだから、これが死後の感覚なのかもしれない。何せ、火口から落ちたのだ。生きているはずがない。
 むくり、とルイスは身を起こした。
「(生きている……?)」
 やはり死んではいない。
 近くを見回すが、カエンの姿はなく自分一人のようだ。
 真っ先にカエンを探して、改めて気付く。自分は今、カエンの安否を心配して周囲を見渡したのだろうか。
 いや、違う。やはり違う。
 カエンが死んでいることを期待して探したのだ。
 カエンが落ちそうになる瞬間を見て、初めて気付いた。
 あの瞬間、ルイスの中に芽生えかけていた何かが、一瞬で開花した。

 そ の ま ま 落 ち れ ば い い の に 。

 それを期待していた。行商人ともども、自分から落せばいいのではないだろうか。
 そんな考えが脳裏を過ぎり、初めて気付いた。
 今まで、カエンに嫉妬していたのだ。
 カエンさえいなければ、ルイスが村で一番になれていた。カエンさえいなければ、村の中心はルイスだった。
 いつも村の皆は二人を中心としていたが、カエンとルイスのどちらかとなればカエンに頼るだろう。
 気が付かなければよかった憎悪の心。
 カエンが落ちそうなった時、顔が笑みで歪みそうになるのを堪えるのに苦労した。
 唯一の誤算は、せめて手を差し伸べる格好だけは取ってやろうとして、自分が立っていた所までが崩れ落ちてしまったことだ。
「(……まだ生きている)」
 自分が生き長らえたのならば、カエンもどこかで生きているかもしれない。
 立ち上がり、誰もいない森の中をルイスは歩みだした。
 これは親友を落そうとした天罰なのかもしれない、と自嘲するように笑いながら。


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