-31章-
闘魔、邂逅



 砂漠を旅するための準備がろくにできていなかったため、エンたちは砂漠を少し歩いただけで戻るべきかと思うようになっていた。
「やっぱり、少し、無謀だったかな」
「当たり、前じゃない」
 言葉が途切れているのも、喋るだけで喉が焼けてしまいそうなほど気温が高いためである。ムドーの砦を出た時はそうでもなかったというのに、砂漠に入った途端、急激に気候が変化したのだ。
「水を……」
 言いかけて、エンは口を噤んだ。水を出してくれ、と言おうとしていたのは一目瞭然で、その相手はもちろんルイナだったのだろう。だが、この場に彼女はおらず、エンの願いは叶わないことだ。
「炎の精霊なんだから、しっかりしてよ」
「あのなぁ。限度ってもんがあるだろ」
 とは言え、イサよりはこの気候の中でも幾分かはましなのだろう。かつてエンもルビスフィアの砂漠を訪れた事があるが、その時と比較するとこんなものだったかな、と思えるくらいである。
 しかし、暑いものは暑いのだ。
「私も干乾びてしまいそうです……」
 さすがのしびおも弱音を吐き、適当な岩場の影に行ってひとまず休むことで満場が一致した。

 全く日の光が当たっていない岩の影はひんやりとしており、日向と比べれば天国のようだ。
 三人はその場に腰を下ろし一息つくと、少しは元気を取り戻した。
ここまで歩いて、特に何かが見つかるということはなかったのだから、これ以上の散策は一度打ち切ったほうがいいだろう。ムドーの砦まで移転呪文(ルーラ)で戻った後、万全な準備をして再び砂漠の探索を開始するという結果に至り、まずは砦に戻ろうと立ち上がったその時である。
「あれ……?」
 ルーラを使うための魔力を使う集中力を高めようとイサは目を閉じたが、エンの不審な声にそれを中断した。
「どうしたの」
 エンは目を細めて遠くを見ており、確信を持てないような顔で言った。
「いや、あそこ……人じゃないか?」
 イサはエンの視線を追いかけ、彼を真似て目を細める。人かどうかは判別できないが、確かにそれを思わせるような列があるように見える。つい先ほどまでなかったはずのものだから、元からあったものがそう見えているというわけでもなさそうだ。
「行って見るか」
 ここから追いかけても、充分に追いつける距離だ。あれが蜃気楼の類でなければの話だが、何もしないよりは価値があるだろう。もし相手が人ならば、何かしらの話も聞けるはずだ。
 イサは頷き、三人はその列へと向かっていった。


「魔物に見つかったのかと思い、寿命が縮みましたよ」
 柔らかい笑みを浮かべてそう言ったのは、この列の長老に当たる人物である。分厚い布で全身覆い、顔だけが肌を露出させているが、その肌は真っ黒に日焼けしている。深く刻まれた皺の割には、まだまだ活力が感じられるから不思議だ。
 エンたちが発見したのはやはり人間だったらしく、十名程度の放浪者であった。
「この辺りには魔物が出るのか?」
「えぇ、砂漠の魔物が数え切れないほどに」
 今、エンと放浪者たちがいるのは、先ほどまでエンたちが休憩に使っていた岩場の影だ。さすがに砂漠のど真ん中で閑談、というわけにもいかずにこうしているのだが、ちょうど相手側も適当な休息場所を探していた所だったらしい。
「我々はなんとか、魔物から身を隠しながら旅を続けています」
 その割には、あっさりとエンたちには発見されている。そのことを言うと、持ち歩いている聖水の加護で魔物に見つからないのであって、人間には効果がないのだとか。エンとイサの横にはしびれクラゲのしびおがいたのだから、ついに魔物に見つかってしまったと思うのも無理はない。
 それを言われると、さすがに肩身が狭いのかしびおは誤魔化すように視線を漂わせた。
 放浪者たちは全員が分厚い布で全身を覆っているが、顔だけは覗かせている。しかしそれも男性だけで、女性は目元のみだ。彼らなりの戒律らしいのだが、エンにとっては理解しがたいことである。
「何を目的でこんな砂漠を何年も……?」
 エンの疑問も最もだが、その問いに答える前に長老は一部を指摘した。
「旅をし始めたのは、ここ最近です。何年も、と言えるほどではありません」
 そう言われても、砂漠の旅姿が様になっているので、すぐには信じられない。しかし本当に、旅を始めて一年も満たしていないという。
「旅の目的は……あぁ、その前にお尋ねしておきたい事があるのですが」
 長老はどこから語ろうかと悩んでいる素振りを見せた後、思いついたようにそう言った。
「不思議な力を感じさせる、宝玉を見かけたことはありませんか。大きさは拳ほどで、鮮やかな黄色をしているものです」
 特徴を言われて、エンは頭の中でそれがどのようなものかを想像した。
 握り拳ひとつ分くらいで、不思議な力を帯びた、黄色い宝玉。
「(……ん?)」
 どこかで似たようなものがあったような、という考えに至り、隣のイサも同じように思い当たるものがあったのか小さく「え!?」と声をあげた。
「我々はイエロー・オーブと呼んでいたのですが……」
 長老の言葉で、二人の考えは確信に変わる。
「オーブの存在を知ってるのか?!」
「オーブの存在を知っているの!?」
 エンとイサが同時に驚きつつ声をあげ、見事に重なった。
 今度はそれに長老が驚き、気圧され気味ながらもこくりと頷く。
「イエロー・オーブをご存じなのですか?」
 体裁を取り繕うわけでもなく、長老は期待と驚きを込めてそう聞いた。
「いや、オレたちもオーブを探しているんだ」
 言いながら、エンは腰に結わえてる道具袋の紐を解く。そこにはヒアイ村で占い師と村長から譲り受けた炎神の宝珠(レッド・オーブ)が納められているのだ。
「これがレッド・オーブ。ブルー・オーブもあったんだけど、他の仲間が持ったまま別行動になっちまったんだ」
 レッド・オーブを取り出し長老に見せると、彼はエンの言葉を聞いているのか聞いていないのか眼を見開きながら赤の宝珠に魅入っている。長老の手は震えており、これ以上オーブに近付くのは恐れ多いと言わんばかりだ。
「おぉ、おぉ……オーブの導きか」
 長老は目を伏せ、両手を合わせて頭上に上げたまま三回の礼を繰り返した。彼らの崇拝形式なのだろう。信仰心によるものなのかは解からないが、何故か誠実さが伝わってきた。
 気が付けば、その辺りで思い思いに休んでいた他の放浪者もこちらに注目しており、レッド・オーブの存在に驚きながらも長老と同じように形式の決まった礼を始めた。
「そんなにこの世界では凄いものなのか?」
 ここまで崇拝されると、持っていて良い物なのかどうかさえ不安になってしまう。
「オーブは我々をお守りしてくださる存在なのです」
 長老は目を細めると、遠い空を眺めやった。
そこに、かつて見たものがあるかのように。

 長老の話はこうだ。
 かつて、長老を含めたこの放浪者は、島国の民だった。ムドーが砂漠と幾つかの島々が現れたと言っていたので、後者の部位に当たるのだろう。
 その島と島の間では盛んに船が行き交い、船を操り物資を運ぶ『運び屋』がそれぞれの島の生活を支えていると言っても過言ではないほどである。その辺りをやや熱く語っていた長老は、現役時代は優れた『運び屋』だったのかもしれない。
 中央に一つの大きな島があり、それを中心に小さな島々が点在する形になっているらしく、その中央島にイエロー・オーブは祭られていたのだという。
 しかし、人々に安寧を与えるイエロー・オーブはある日、忽然と姿を消した。
 誰かが盗み隠したという話が広がり、同時に人々は恐怖心を抱き始める。
 オーブが消える数日前、先ほどと同じような地震が大地を揺るがせていたので、疑心暗鬼に駆られるのも無理はない。それどころか、オーブの消失により人々はパニックに陥るしかなかった。
 その混乱に追い討ちをかけるかのように、魔物が出現しだしたのだ。
 今までなかったはずの場所に大陸が存在し、その大陸は砂に覆われ、そこから飛び出してくる魔物の前に、無力な人々は抵抗する術を持っていなかった。
「我々は島を捨て、砂漠に立ち向かいました」
 待ち構えるだけでは魔物の蹂躙を見過ごしてしまうことになる。イエロー・オーブの加護ほどではないが、魔物の目から逃れられる聖水を持って、今の砂漠を旅しているのだという。
 目的は、イエロー・オーブを取り戻すための手掛かりを得ること。しかしそれは砂漠にあるという確証などなく、雲を掴むような話だ。あくまでイエロー・オーブ探索は副産物に過ぎず、大きな目的がもう一つある。
「これは伝承なのですが」
 と前置きして長老は続けた。
 島によって生活や物資が様々である中、ある一つの言い伝えだけが共通して存在していた。

 ――灼熱の大地 砂に埋もれし神殿に 我らの願い祈りし時
           神の御使いが舞い降りて 願いと共に 空を舞う――

 灼熱の大地と砂に埋もれし、というのは今の砂漠と見事に一致している。それまではそのような大地がなかったのでただの語り歌としか思われていなかったが、現実に存在している。
 言い伝えの内容は、簡単に言えば、砂漠の何処かの神殿に願いを叶えてくれる神殿がある、ということだ。
 砂漠に埋もれているという手掛かりだけでは、この広い砂漠の中で見つけることなど不可能に近い。それでも諦めずに旅を続けているのだから、努力や根性は見事なものである。
 この神殿を探索している島の民は他にもいるのだが、その生死や旅の成果は全くもって解からない。他の民達も何人かまとまって行動を取っているはずだが、中には一人抜け出した若者もいるらしい。不毛な探索行に不満をもったのだろうが、その後の行方は誰も知らない。
「その願いの神殿が見つかったら、どうするんだ」
「もちろん、願いを祈ります」
 彼らの願いは、再び平穏な世界になるということ。
 どんな願いでも叶うという中で、それが最も望まれていることなのだ。
 それを聞いたイサは、故郷のウィードを想った。なんでも願いが叶うと言うなら、かつての、平穏の日々が続いたあの光景を、取り戻さなければならない。故郷の、生きていく土地の平穏を取り戻したいという気持ちが解かるだけに、この者たちに協力したいという気持ちが芽生える。
 エンはどうだろうか、とちらりと見やったが、気にするまでもない。彼ならきっと強力を申し出るだろう。
「――しかし」
 それよりも先に、長老の諦めたようなため息と共に出てきた沈鬱な言葉が場を支配した。
「しかし、もう遅かったようです」
 首を横に振りつつ俯く長老は、全てを失って嘆くかのようだ。他の民達も、次々と頭を抱えたりと、表情が一片していた。せっかくの希望が潰えたかのような、生気を失ってしまったかのような、それは即ち絶望である。
「何が……」
 どういう意味かわからない。彼らの急変に、エンとイサは眉をひそめる。しびおだけはいつも通りの表情だが、その張り付いた笑みが一瞬だけ強張ったかのように感じた。
「なにこれ?!」
 イサが声をあげ、エンは眼を見開いて、上空を見た。
 あれだけ強かった日差しが、みるみるうちに黒雲に隠れていく。砂漠のど真ん中であるというのに、辺りはどんよりとした闇の空に変わってしまった。これが、まともな現状ではないことくらい皆わかっている。
 エンは立ち上がり火龍の斧を召還、イサも飛竜の風爪を装着し身構える。
 長老を含めた放浪者たちはこの非常識な雲を見上げようもせず、うなだれたままだ。

「なんだ、マジュエルの奴、情報が違うじゃないか。俺は水と大地の野郎だって聞いてたんだがな」

 いつからそこにいたのだろう。銀色の瞳に、黄色の髪を持つ痩躯の男は、つまらなさそうに言った。
「炎の野郎と風の小娘は興味がなかったんだけどな」
「テメェは!!」
 声に、そして姿にエンは見覚えがあった。随分と前に感じる、魔王城での邂逅。忘れられるはずがない、勇者ロベルと最後に会ったあの場所に立ち、ロベルを死に追いやった張本人。
 魔王軍が誇る、四体の魔将軍。死魔将軍の名を冠する、雷魔将軍フォルリードの姿が、岩場の上にあった。
 どこからか雷鳴が聞こえてくる。フォルリードが司る雷が、暴れ狂っているのだ。
「ふん、あの時の続きでもするかい? 俺は別に構わないぜ」
 フォルリードが言っているのは、魔王城でのことだろう。ロベルの死に対して逆上し、フォルリードに勝負を挑んだ。途中から魔王が間に入り、エンがギガ・メテオ・バンを使ったことで有耶無耶になっていたのである。
 そのことはイサも魔書で知っている。今、二人が共通で思っていることは同じで、もしあのままフォルリードと戦っていれば確実に負けていた。フォルリードの立ち振る舞いは、傲慢や自尊心から来ているものではなく、明らかな実力の差を知っている者の余裕である。
「どうした? 来ないのか?」
 嘲り笑うフォルリードは、明らかにエンたちを挑発している。
 エンが視線だけを放浪者たちに向けると、変わらず彼らは無気力に座り込んでいるだけ。第三者の登場にすら、反応を示していない。逃げようともしていない彼らがいるこの場所で戦えば、巻き込むことは必然だ。
 さすがに十数人を守りながら戦うというのも、無理がある。
「イサ、しびお! そっちは任せた!!」
 言うなり、エンは一人走り出した。油断なくフォルリードから視線を逸らさずに他の者から離れる。彼もエンを狙っているのか、その眼は明らかにエンを追っているようだ。フォルリード自身、本音ではエンとの決着を終わらせたいのだろう。
「(ここなら!)」
 十二分に離れ、無力な人々を巻き込まないはずだ。思う存分に戦える。
「さぁ、行くぞ!」
 フォルリードは雷鳴の剣を振りかざし、岩場から跳躍して一気にエンに詰め寄った。
 それに対し、エンは振りかえりながら火龍の斧を握る手に力を込める。
「『連撃』の――」
「遅いんだよ!!」
 フォルリードの激昂と共に、全身に痛みが走った。先ほどフォルリードが雷鳴の剣を振りかざした時、その剣に秘められていた力を解放していたのだ。勇者のみが扱えるとされる雷撃の呪文たるライデインがエンの身体を貫き、動きを鈍らせた。
「っ!」
 高い金属音が鳴り響く。エンの首を真っ直ぐに狙っていた刃は、火龍の斧で受け止める事でその凶行を完遂させなかった。
「さすがにすぐには死なないか」
「当たり前だ!」
 ライデインの衝撃から立ち直りきれていないが、それでもエンが押し返し、フォルリードは背後に下がった。勇者ロトルのギガデインと比べたら、まだ耐え切れるほどだったようだ。
「メラズ=I」
 フォルリードが離れた瞬間を狙い、エンが一斉にメラを打ち込む呪文、メラズを放つ。多数の火球がフォルリードに降り注ぐが、しかし彼は避けようともせずに直撃を甘んじて受ける。
「な……?」
 エンは牽制のつもりだったのだから、それが命中するとは思っていなかった。
「なんだ、こんなものか」
 期待外れだったことを心の底から侮蔑するかのように言うフォルリードは、無傷と云うわけではない。あちこちからメラズによる損傷が目に見えているものの、ダメージは深刻でないようだ。
「炎の精霊力を得ているんだろう。もっと、もっと俺を楽しませろよ」
 狂気に満ちた笑顔を向け、フォルリードが迫り来る。
 エンは身構えるだけで、その場から動かない。
「――!!」
 空気が破裂するような音が響いた。それはフォルリードのすぐ横で起こり、衝撃は彼一人を軽く横に吹き飛ばすほど。
「なにしてんだよ、イサ!」
 非難するようにエンが名を叫ぶ。放浪者達を任せたはずのイサが、フォルリードを挟んだ位置に立っていた。フォルリードを吹き飛ばしたのは、彼女の風連空爆である。
「こっちの台詞よ! 死魔将軍相手に、一人で戦うなんて無茶に決まってるじゃない!!」
 放浪者達はしびおに任せて、イサもすぐにエンとフォルリードを追っていた。
 二人の因縁は魔書で知っているが、イサとて魔王軍が健在の時代を生きていたのだ。死魔将軍を知らないはずがない。
「二対一か、それでも俺は構わないぜ」
 風連空爆の衝撃から立ち直り、相手の数が増えたにも関わらずフォルリードは悠然としている。
「死魔将軍の恐怖を、存分に味わうがいい」
「余裕ぶっているうちに、炎に焦がされろ」
「あなたを聖なる風で、引き裂いてあげる」
 三者が同時に、地を蹴った。
 フォルリードの狙いはイサであった。エンの実力は先の攻防で見切っているのか、未知の存在を警戒したのだろう。
 背中が無防備になるが、エンの攻撃は小回りが利かず、もしフォルリードが一瞬にして姿を消したりするなどしたら挟み撃ちにしているイサに危険が及ぶ。そうなるとエンが攻撃を躊躇うかと思ったのだろうが、あいにくエンはそこまで頭が回らないようだった。
「『重激』のフレアード・スラッシュ!!」
「バカか貴様!」
 フォルリードはその場から方向を転換し、エンの攻撃を躱した。鋭く重い一撃は、反対側にいたイサへと振り下ろされることとなる。だがイサも、既にエンの間合いから離れていた。フォルリードが避けた方向に合わせて跳んだのだ。
「『颶爆烈撃掌』!!」
 風連空爆を拳に乗せて強力な一撃に変える奥義は、フォルリードを捉えた。これには予想していなかったのか、一瞬だけ顔を歪めるが、直後に怒りを露にしてイサを睨みつける。
「まとめて食らえ!」
 フォルリードが片手を挙げると、上空の暗雲から雷鳴が轟いた。
 絶大なる魔力がフォルリードを中心に巻き起こり、挙げた片手の上に、ばちばちと放電する球体のようなものが具現化する。その圧倒的な雷の塊を、イサは見たことがある。遠くから見ていただけだが、それでも地獄を連想させる雷は忘れ難いものだ。
 ジゴスパーク。
 その強大な雷が、自分たちに降りかかろうとしている。
 だがギガデインとは違う雷が身を焦がすより早く、エンとイサは異変に気付いた。
 地面が、震動しているのだ。
「フォルよ、何を遊んでいる」
 どこからともなく聞こえてきた声は低く、例えば空きっ腹には苦痛を与えそうなほど空気を振動させるほど。
 その声の主に呼ばれたフォルリードは、余裕の笑みを見せた。
「ガーディアか。今、まとめてぶっ飛ばす所だ。遊んじゃいねぇよ」
 フォルリードの返答で、声の主が誰であるかを理解した。
 死魔将軍として恐れられた魔物は四体。そのうちの雷魔将軍フォルリードは目の前にいる相手だ。そして、三人の足元にあるそれは、巨大な岩が砂の底から出現していた。一見して大地と間違えそうなほどではあるが、このような芸当が出来る死魔将軍は、その姿を見るまでもない。
 岩魔将軍ガーディアノリス。岩の力を司る死魔将軍は姿を見せないものの、威圧感はフォルリードよりも重い。
「やはり、遊んでいるではないか」
 足場の大岩が震動した。移動しているのだとわかった次の途端、出現した時と同じように揺れながら大岩は砂へと埋まっていく。
「ここは!?」
 再び地面が砂地に変わった時、エンとイサは顔面に蒼白の色を泳がせた。
 巻き込むまいと、離れたはずの放浪者たちの姿が、目の前にある。彼らはすぐそこで起きた奇異な現象に目を向けず、未だにうなだれたままだ。彼らを任せたしびおも、唐突なエンたちの戻りに慌てている。
「まとめるならば、不穏分子は全てまとめて除去しろ」
 やはり声だけのガーディアノリスが放った言葉は、これが夢でないことを告げる。
 エンとイサだけならば、ジゴスパークの雷から耐えるなり逃れるなりすることもできただろう。だが、この無力に死を待っているかのような放浪者たちを守ろうとすれば、どうなるかなど容易に想像がつく。
「なるほどな。ありがとよ!」
 フォルリードが、挙げていた片手を振り下ろした。


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