CollapsingDepartment-store
-注文の多い百貨店-


□ □ □ □ □ 5階 月洸家具店  □ □ □ □ □


 はぁ、という溜め息を思わずつきたくなってしまう。そりゃあ太陽≠ニ月洸≠カゃイメージが全く違うわよね。大手のT家具店に対して、うちは弱小企業の月洸♂ニ具店。しかも社長の言い分で、『太陽が昼間に営業しているなら、月は夜に営業だ!』なんて言い出したから、ここは夜間営業。夜間に家具を見に来る人なんていないって!
 ぼやいていると、自動ドアが開いて、見知らぬ人間が入ってきた。
「……あ、いらっしゃいませ。ようこそ月洸♂ニ具店へ」
 ここは店なのだから、見知らぬ人間は当然お客だ。ついつい忘れてしまうのは、それほどここにお客という存在がないということを理解してほしい。
「すみません。食器棚を見に来たのですが」
 このようなセリフ。ここに来てから初めて聞いたわ。
「食器棚ですか。ではこちらへ」
 お客様を食器棚のコーナーへ案内すると、そのお客は熱心に展示品を見始めた。もともと弱小企業とまで呼ばれるこの家具店、高価なものは置いていない。安いが、使い勝手が悪そうなものばかりである。なんでこんなところに就職しちゃったんだろ、私……。
「あ、これだこれだ」
「え?」
「あぁいえ。これ一つください」
 まるで野菜を買うかのようにあっさりとそのお客は言った。
「では、こちらに住所を。配達いたします」
「どうも」
 そのお客は代金を先に払うと、さっさと何処かへ行ってしまった。とりあえず、配達の処理を済ませて、あとは配達業者に頼むだけだ。
 数日後、あのお客以来、誰一人来ていない。またいつもどおり、座るだけの夜が続いていた……はずだった。
「き、君!」
 ここ、月洸♂ニ具店の社長が、転がり込む勢いで店内に入って来た。
「どうしたんです、社長?」
「し、ししょしょ食器棚! 品番**-*****の食器棚は?!」
「先日、買い取られましたが」
「あぁ! なんということだ……」
 社長が、べったりと地に膝をつける。
「どうかなさったんですか?」
「……。この会社の経営状態が良くないを知っているね? それで、まぁ手に出したら危険なところに手をだしたりとかして……。借金取りに追われることになりかけて……。それに関する重要書類をあの食器棚に隠しておいたんだ」
「なんだってそんな大切なモノを食器棚なんかに」
「まさか客が来るなんて思っていなかったから……」
 言い合いをしているうちに、その重要書類とやらは、渡してはならない人物へと届いたらしい。私は、どうやら食器棚と一緒に、この月洸♂ニ具店までも売ってしまったらしい。


↑1階上(6階)へ↑
↓1階下(4階)へ↓

戻る