CollapsingDepartment-store
-注文の多い百貨店-


□ □ □ □ □ 4階 家電製品(大)  □ □ □ □ □


 私が仕えている主人は、最近は怒ることが多い。何をそんなに苛々しているのだろうと、私は不思議に思う。しかし考えたところで、私は人間であり神ではない。他人の思考が簡単に解るはずがないのだ。
「おい、エイト。エイトはどこだ!」
 主人が私を呼んだ。すかさず、私は主人の下へと走る。
「お呼びですか?」
「うむ。聞きたいことがあってな。わしは、去年の今頃、何をしておったかの?」
 主人のいうことは、去年の同じ日付にどのような行動をしていたか、というものである。箇条的なことならばメモで済むのだが、主人は一つ一つの動作まで求めてくる。無茶な要求をしてくる主人に対し、私ははっきり言ってやった。
「わかりません……」
「なんだと?」
 わからないことをわからないと言って、何がいけないのだろうか。しかし主人は私の返答に憤怒したらしく、その形相は私の膝をガクガクと震わせた。
「もういい、下がっていろ!」
「了解」という言葉と共に、言われた通り、私は下がって行った。
 その夜。
 私はたまたま主人の部屋の側を通りかかった。主人が、客人に対して話している。
「エイトはもうダメだな。捨てるしかあるまい」
 なんだって?
「所詮は感情を持たない『モノ』だったということか」
 そんなことはない。私には感情がある。喜怒哀楽も、恐怖も……。
「それに、記憶能力が随分と低下している」
 さっきの質問のこと? いくらなんでも、質問自体が無茶苦茶だったのだ。答えろというのが無理に決まっている!
「やれやれ、決して安くはないというのに……うん? なんだ、エイト。そこにいたのか」
 主人が私に気付いた。主人が、一歩一歩私に近付いてくる。何故だろう、こんなに恐いのは。これ以上、主人が近付いたら、私は、私は……。
 カチリ。
「人型執事ロボットNo,8。ん〜、やっぱりメモリー回路に異常が発生していますねぇ」
 主人の客人が、私の身体を調べて行く……。
「次はナンバー9を持ってきてくれ。ナインというアクセスネームで頼むよ」
「メモリー回路を直せば、まだ使えますよ?」
「いや、どうせ感情を持たない失敗作に近いものだ。ナンバー9に期待する」
 嗚呼、私は人間ではなかったのか。そうだ、人間は悲しい時に涙を流すと言う。私は悲しい。しかし、涙は流れない……。


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