100000HIT記念リク 13/雪見(副都心・有楽町+α)

 

*雪見*

 

 

「うわー、外、すごい雪だよね。今夜は積もるかなぁ」
「暢気なこと言ってんなよ千代田!前は見えねーし寒いし…どーすんだよコレ」
「ははっ、東西、雪だるまみてー」
「黙れ!南北!」
「へぇ、そんなに降ってきたんですか?」
「ああ、久々の積雪だよ、どこもかしこもうっすらと雪化粧さ」
「どれどれ、ひとつ僕も…」
「──ハイ、副都心、キミはソファに戻って。まずはその熱をなんとかしなさい」
「……」

そう銀座に(超笑顔で)一喝され、さすがの副都心も大人しく待機用のソファベッドへ戻った。
もぞもぞと毛布にもぐりこむと、退屈そうな目で周囲を見る。

「…そんな顔してもダメだよ、副都心。微熱のうちにしっかり治さないとね」
「そうだよ。車両故障でも起こして遅延や運休なんてことになったらまたお国からお小言を喰らうだろう?」

有楽町にまでそうダメ押しされると、もう何も言えず、体温計を手に「あーあ」と寝返りをうつ。

「だるいだるいとは思ってましたが…まさかこんな具合悪くなるなんて」
「開業以来の疲れがたまっていたんでしょ?あとのことは有楽町に任せて、少なくとも今日一日は大人しくしていること」
「そういうことだ、副都心」
「…すいませんねぇ、先輩」
「心配するな、きっちり動かしさえしてくれれば問題ないから」
「はぁ」
「あはは、具合良くったって悪くったって、その“きっちり動かす”のが問題だよなー?副都心?」
「…病人に鞭打つのはやめていただけませんか、半蔵門先輩」
「副都心残念だったな!せっかく俺が雪合戦の極意を教えてやろうと思ったのに!」
「…雪合戦できるほどは積もってないよ丸ノ内。そして雪合戦をするなら終電後、ね」
「うん、ナイターか!さすがは銀座!それもいいな!」

はしゃぐ丸ノ内を見ていると、なんだか無性に悔しくなった。
なにしろ、昨今の地球温暖化で雪自体が希少だというのに。
そして何より、副都心として開業して以来始めての雪なのに。

「あーあ、見たいなぁ、雪…雪…」

運行状況などまったく考慮しないこの副都心の呟きは、皆が自分の持ち場に戻り一人取り残された控え室の天井に、吸い込まれるようにして消えていった。

 

「…あ…」

暗闇の中で、目が覚めた。
副都心は、一瞬自分の状況が飲み込めずにパチパチと神経質にまばたきを繰り返す。
そして思い出した。
自分は熱があって。
でも仕事があるからって部屋に帰らずに控え室で横になってて。
どうやらそのまま熟睡してしまったらしい。
いったい何時なんだろう?窓の外はもうすっかり暗くなっているけれど。

「あ、起きた」

突然声をかけられ、ぎょっとして振り返る。
見ると、給湯設備のところだけ明かりがついていて、そこにしゃがみこんでいるのは金髪の──

「…ゆうらくちょうせんぱい?…何してるんですか、ソコで」
「んー、いや、今来たとこなんだけどさ。お前があんまりぐっすり寝てるから電気つけるのも可哀想かなって」

答えになっているようでなってない。
でも、お人よしな笑顔がいつものようにすぐそばにあることで、何だか気分が落ち着いた。

「…雪…まだ降ってるんですか?」
「あー、もう本降り。でっかいぼたん雪。天気予報ではもうすぐやむって言ってんだけどなー」
「そうですか…西武さんや東武さんは大変なんじゃないですか?」
「はは、池袋は俺たちよりよっぽどベテランだからなー、雪なんてものともせず、さ。秩父と一緒にがんばってるよ。東上も今んとこ遅れはない。もちろん、俺たちも」
「…そうですか…」

そうだそうだ。
自分が半日寝ていたところで、運行に支障をきたすような人じゃない、有楽町先輩は。
自分が半日いなくたって早々に困るわけなんてない、あのタフな私鉄たちは。
そんなこと分かってる。そんなことは──

ひやっ

「…?」

ふと気付くと、闇の中から火照った肌に心地よい冷気。
そういえば、さっきから有楽町が冷蔵庫を開けて何やらしていた。
冷たい飲み物でも持ってきたのだろうか。

「電気つけるぞー」
「…どうぞ」

パチッとスイッチが入れられ、蛍光灯の光に思わず目を細める。
そしてふと顔を傾けて見たすぐ隣のサイドテーブルには──輝く真っ白な塊があった。メトロの控え室になどあるはずのない“物体”が。

「………先輩」
「んー?」
「…僕、熱が上がったみたいです…目の前に雪だるまの幻影が」
「どうだ、可愛いだろそれ?ここまで運んでくるの大変だったんだぞー。ソッコー冷蔵庫にしまっておいたんだけど、まだ全然溶けてないみたいだなー、良かった」
「雪だるま…冷蔵庫に?」
「だって、せっかく作ったのに見せる前に溶けたら悲惨だろ?」
「作った…って…先輩が?」
「発案者はなー、西武有楽町。お前が熱出して寝込んでて、雪見たがってるって言ったら『じゃあ、持って行って見せてやればいい』とかって。子供はすごいね」
「……」
「で、あの子が手伝ってくれて、せっせと作ったってわけ。サイズはミニマムだけど、細部にはこだわって作ったんだぞ」
「…なるほど、この首がやや斜めに捻じ曲がってるあたりとか、ですか?」
「だからなんでお前はそういう揚げ足ばっか取るの!もっとこう、顔を小枝で表現したとことか、首にバンダナ巻いてるとことか、そういうトコ評価しろよ!」
「…はは、冗談ですよ先輩…正直、あんまりよく出来てるんで驚きました…」
「…や、コッチも正直言うと、そういうディテールはぜんぶ西武有楽町の担当。俺は丸めて固めただけ」
「やっぱり」
「あの子もな、心配してたぞー、熱はつらいからって。早くよくなればいいって」
「…西武有楽町クンが…」
「西武池袋には怒られた。後輩が体調不良なのは先輩である俺のせいだって」
「…あの人はいっつも怒ってばかりですねぇ」
「あいつらしい心配の仕方だよな」
「……」
「早く元気になって出て来いよ。ま、明日はもう雪はほとんど残ってないだろうけど」
「…いいです、もう十分見ました、雪、は」

ふと手を伸ばして雪だるまに触れる。

指先に張り付いた氷の結晶は熱のせいかすぐに溶けてなくなってしまったけれど。
先輩が、自分に雪を見せるためにこんな地下深くまで雪だるまを運んで来てくれたという今日のこの思い出はなくならない。きっと一生。

「ソレ、頭に乗っけてたら熱引くんじゃないのかな」
「…真顔で結構ひどいこと言いますよねぇ、有楽町先輩は」

もし明日、雪が残っていたら、丸ノ内の言う通り雪合戦もいいかもしれない。
そうだ、西武有楽町を誘おう。断られたら拉致って。そしたらもれなく西武軍団がついてくる。
きっと楽しくなるはずだ。

そうほくそ笑んだ副都心の額に、「もう大丈夫みたいだな」と、安堵した声とともに手のひらがそっと添えられた。
有楽町の、ひどく冷たくてひどくあたたかい手、が。

 

 

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そして翌日↓

 

 

 

 


 2009/01/26→04/28(イラスト更新、ありがとうございました!)