*タワーズライツ*
「すごいですねー、見てみたいです!」
「ああ、そうだろうそうだろう。見せてやりたいものだ」
「何―?何のハナシー?」
東海道と長野がいつになく和気あいあいと盛り上がっているところへ、山陽がひょっこり顔を出した。
「名古屋駅がキレイにお化粧をするっておはなしを」
「例のアレだ、冬の風物詩」
「ああ──“タワーズライツ”な」
“タワーズライツ”は、毎年クリスマス前から正月明けにかけて、JR名古屋駅前のビル街を舞台に繰り広げられるイルミネーションイベント。
毎年趣向を凝らした装飾と演出が見物で、今年は確か『絵本』をテーマに幻想的な光の空間が広がっていたはずだ。
「キラキラ光ってすごくキレイだってお聞きして…いいなぁ、すごいです、うらやましいです、とーかいどーせんぱいっ!」
「ああ、あれは何て言うか──そう、アートだなアート!人智を尽くした光のアートだ!」
それならばコッチにだって神戸の“ルミナリエ”があるし、東京駅の“LIGHTOPIA”だって頑張ってんじゃん……などとは決して言わない。
だっていつもは小難しい顔ばかりの東海道があんなに瞳を輝かせて嬉しそうに語ってる。まるで自分の手柄のように。
そんなあいつの話に横槍を入れるのは、あまりにも大人げないってもんだろ?
「ま、そーだよな。駅前であそこまで規模のでかいイルミネーションもなかなか見られねーもんな」
「“タワーズライツ”の素晴らしさはイルミネーションだけではないぞ!飾りや仕掛けひとつひとつが芸術なのだ!今年のあの、クマちゃんを見たか?クマちゃんのオブジェ!明るい陽の中で見るとまたあの造形が一段と愛らしく見えるではないか!」
“クマちゃん”とか無意識に言っちゃってるあたりもう笑いの高波が押し寄せて来て超ヤバいんですけど。
必死の努力でその波を喉の奥でグッと押し止めると、山陽は「ウンウン」と首だけで相槌を打った。
──ダメ、今声出したら激笑いする。
「東海道、お話中ゴメン、ちょっとこの書類のことで聞きたいんだけど…」
「ああ、今そちらに行く、ちょっと待ってくれ秋田」
秋田、ナイスタイミング―!
山陽は心の中で親指をぐぐっと立てると、東海道が離れて行くのを見届け長野の頬に顔を寄せた。
「あのな、長野、いいこと教えてやろーか」
「はい、何ですか山陽せんぱい?」
「“タワーズライツ”は確かにすげぇ綺麗だけど、オレ、もっと綺麗なもんを見たことあるんだぜ」
「えっ!?それは何なのですか、せんぱい?」
山陽はにんまり笑い、さらに声を低くして囁くようにこう告げた。
「その“タワーズライツ”を誇らしげにじーっと見上げてる東海道の顔──その横顔がいっつもすげぇ綺麗だと思ってる」
「あ…それは」
「ナイショ。あいつには絶対言うなよー、殺されるかんな、ハハ」
「はい、分かっていますよ、山陽せんぱい」
そして、そんなとーかいどーせんぱいを隣で見つめてる山陽せんぱいのお顔もさぞかしキレイなんでしょうねぇ。
これこそナイショ、ナイショのおはなしですけど。
「──見てみたいです」
憧れの光の祭典は、いつしか憧れの先輩高速鉄道2人の姿に重なって──長野の胸をより一層ときめかせた。