*残像*
僕が線路内立ち入りとかくだらないことできりきり舞いさせられた日は、大体高崎も巻き添えで心中。もちろん、逆の日もあるのだけれど。
あんまりむしゃくしゃするから、終業後はどちらかの部屋になだれ込んでしこたま飲んで眠る。
たいていは僕の部屋じゃなくて高崎の部屋。
自分の整頓された部屋を汚されたくないっていうのはあるけど、何だか高崎のごちゃっとした部屋の方がホッとするから。特にこんな気分のときは。
なんだろうな。部屋、っていうより、巣、って感じ?
とにかく翌日の仕事のことも何もかもすっとばして飲めるだけ飲んで、1つのベッドになだれ込む。
それからあれこれふざけ合って、疲れ果てて眠って。
目覚まし時計をセットすることすら忘れたのに、それでも始発には余裕で起きられるから習慣って怖いよね。
あ、でも、高崎はまだ眠ったまま。いつもこんな感じ。
まぁ早々遅刻することはないだろうけど、昨夜の酒量を考えると…やっぱり起こした方がいいかな?
そんなことを考えているうちに、ほんの近くにあった彼の顔がうーんと歪むと、次の瞬間ぱっちり瞳が開いた。
「…なんだよ、オマエ…」
!?…いや、起きがけに人の顔見ていきなりそれはないだろう?
「おはようもナシに、あんまり失礼なんじゃない、高崎?」
「…だってよぉ…さっきまであんなこと言ってて…また」
「また?」
寝ぼけてろれつの回らない口で変なことを言う。
さっき?さっきって?──だってさっきまでキミは寝てて──
「…もしかして、夢の中のハナシ?」
夢を見てたの?僕が出て来る夢を?
すると、うーんと考え込むように眉間の皺を深くして、それから、黒目がちの目をゴシゴシっと。
まるで、瞼の裏の残像を拭い去るように。
そして、目の前の現実を確認するように。
「…うつのみや…」
──眠る前も一緒で、夢の中も一緒で、起きてからもこうして一緒で。
ああ、僕はずっとキミの中にいることになるね。
僕はいつもキミの心にいるんだね。
そう自惚れていいよね?
「…はは…おはよ」
ようやくさっきまでの自分の寝ぼけ具合に気付いたのか、自嘲するように照れるように笑うキミがほんのすぐそばにいる。
ほら、こうして触れることがたやすい距離に。
「おはよう、高崎」
「…くすぐってぇ」
ああ、そんな顔をするもんじゃないよ。
キミの夢を見られなかった自分自身が、すごく寂しくなるじゃないか。