100000HIT記念リク 02/ハロウィン(宇都宮・高崎)

 

*年中無休*

 

 

「うーん、甘い匂いがする♪」
「…おい、よせよ宇都宮!重いだろ!ンなくっつくな!」
「ああ、もうハロウィンの季節なんだねぇ」
「人の匂いでしみじみ季節を語るな!」

毎年毎年、10月31日、つまりハロウィン当日、高崎線のポケットはアメやらチョコやら小さなお菓子でパンパンに膨らんでいる。
それを目当てに、埼京や武蔵野が「お菓子くれなきゃ、いたずらするぞ〜」という例の定番セリフでちょっかい出し、まんまとおやつをゲットする、というのも恒例の光景。

しかしもともと、何故に高崎がこのようにお菓子を持ち歩いているかというと──

「で?上越上官は今年もうまくかわせたのかい?」
「おうよバッチリ!今年は朝イチ!始発前!いきなり出くわして目ェあったからその瞬間に渡した!チョコを両手一杯に!」

そんな時間帯にチョコ大量にもらってもどうだろうとか思わなくもないが…
先手を打たないと、ハロウィンを口実に上越上官からここぞとばかりに目も当てられぬほどの“いたずら”をされてしまう。

──ということで、高崎にとって、ハロウィンは喰うか喰われるか、のまことにデンジャラスな行事なのである。

「…まぁ…部下であるボクらが上官であるあの人にお菓子を巻き上げられる図もどうかとは思うんだけどね…」
「何言ってんだ宇都宮!チョコで上越上官のちょっかいから逃げられるんだぜ!?些細な金で自由と平和が買えるなら安いもんだ!」
「…本当に、普段キミはあの人から一体どんな目にあっているんだい…」

まぁ、後日、3倍値くらいの差し入れが届くのが分かってるから良いけれど。
上越上官も、そういうところはきちんと上司らしく振る舞っているようだ。

「ま、良かったじゃないか、今年のハロウィンも平和に過ごせそうで」
「まーな。あと、肝心なのは…」

高崎は、宇都宮の手を取ると、七色の包み紙にくるまれた特大のキャンディを握らせた。

「ほい、やる。これでオマエもいらん悪戯すんなよ」
「…まだ例のセリフも言ってないのに…」

宇都宮は実に残念そうに呟きながら、苺味らしき真っ赤なそのキャンディを口の中に放り込む。

「まったくいつものことながら、面白みのない男だねぇ、キミは」
「何とでも。どーせろくでもねー悪戯いっぱい考えてやがったくせに」
「ここのとこ忙しくてそんなことする暇はないよ」
「おー、そりゃ結構なことだな」
「まぁ、今すぐ考えろって言われりゃ、10個程度なら思いつくけど」
「思いつくのかよ!悪魔かオマエは!」
「ふふっ、今更でしょ?」
「…まぁ…今更だけどな」
「それじゃ今更ながら言うけど、まさかボクがこんなアメ玉一個でごまかされるような手合いじゃないくらい承知だよね?」

宇都宮はおでこがぶつかりそうになるくらい近くまで顔を寄せ、高崎に向かって微笑みかけた。

「“Trick or treat”、さぁどうする?」
「どうって…今お菓子やったじゃんか!」
「“treat”ってね、“お楽しみ”って意味もあるんだよ。知ってた?」
「はぁ?」
「僕を楽しませてくれなくちゃ、ひどい悪戯しちゃう…かも♪」
「“かも♪”じゃねーよ!カワイコぶってんじゃねー気持ちワリい!だいたい、それってドッチに転んでも俺がオモチャになるだけじゃねーか!」
「あっはっは、カンがいいねー、高崎のくせに」
「こんの野郎!」
「……あのー、お取り込み中悪いんだけど」

はい?と、2人がそろって目を向けると、そこには毎度のうんざり顔でメガネを弄る京浜東北の姿があった。

「ここ、大宮駅。上官が多数いらっしゃるターミナル駅。真昼間からこんな目立つ場所でそういう行為はやめてくれない?」
「そ、そういう行為って何だよ!」
「だから、その…」

高崎が宇都宮の胸倉掴んでがっちり自分の方に引き寄せて。
でもって宇都宮がその両腕を高崎の首に回してにっこり笑ってるって。

──そういう行為のことだよっ!

「まぁまぁ、京浜東北。SLじゃないんだからさ、そんな頭から蒸気を出さないで」
「…そう思うならとりあえずその腕なんとかしたら?宇都宮?」
「だって今日はハロウィンだろ?」
「おわっ!?」

宇都宮は回した腕にぐいっと力を込め、嫌がる高崎を完全に自分の胸に閉じ込めた。

「ボクにオイシイものをくれない高崎に悪戯したっていいじゃない?」
「はなせー!うつのみやー!オレはやったー!アメやったー!はーなーせー!」
「ちょっと、宇都宮…」
「ご心配なく。信号機故障も車両故障も置石も人身も混雑遅延もなし。宇都宮線、高崎線ともどもいたって通常運行。それでも何か文句ある?」
「…いや、文句じゃなくて…」
「そう、良かった♪じゃあね♪」
「ぎゃ〜!たすけろ〜!けいひんとうほく〜!」
「……お疲れ」

抵抗も空しく、高崎は首根っこを宇都宮にがっちり掴まれたまま、ずるずると引き摺られるように視界から去って行った。

 

「“Trick or treat”かぁ…もう、早く廃れちゃわないかなぁ、こんな行事」

だって、お菓子をあげようと、何をどうしようと──結局、年中無休で悪戯される運命(?)なのだから──高崎は。

京浜東北はそんな哀れな同僚に心の中で手を合わせつつ、彼らのシンボルラインの如くオレンジと緑に彩られた構内の装飾を見上げた。

 

 

 

 


 2008/10/31