*そんな僕の憂鬱*
「ちょっと、宇都宮」
「ふーん、結構、度がキツイ」
「…返してよ、ボクの眼鏡」
手元の書類に気を取られて。
気づいたら背後に立っていたあの油断ならない男に、大切な分身を取り上げられていた。
ああ不覚…
「ねぇ、返してったら、仕事が進まない」
「うーん、どっしようかなー」
「宇都宮ったら!いい加減怒るよ!」
何とか取り返そうとするけれど、哀しいかな、歴然とした身長差に阻まれる。
「さーて、とじゃあ…そうだな、キスしてくれたら返してあげる」
「はぁ!?何言ってんの!?ふざけないでよ」
「本気」
さぁどうする?
と、宇都宮の黒い笑顔が迫る。
徐々に壁際に追い詰められて…あーもう。後がない。
──仕方ない──
ため息をひとつ落として。ちょっぴり背伸びをして。
ちゅっ
あいつの頬に軽く唇を触れた。
ぐいっ
「!?」
「ダメだよ、それじゃ…京浜東北…」
離れようとした瞬間、腕の掴まれ、そのまま壁に押し付けられる。
そして宇都宮の顔が視界いっぱいに──
ばふっ★
「……(ばふっ?)」
「はい、ここまで」
間一髪。
僕は手にした書類の束で自らの唇を死守した。
「ちょっとぉ…」
明らかに不服そうな目の前のキス魔から、すばやく眼鏡を奪い返す。
「…これって、ひどくない?」
「キミに言われたくないんだけど」
宇都宮の胸を押しのけ、しこたま強打した後頭部をさすりながら席に戻った。
「ねえ、僕にこんな冗談しかけてる暇があったら、早く高崎と仲直りしなよ」
「…何のこと?」
「分かってるよ、派手に喧嘩したんでしょ?」
「……」
「どうも僕は、自暴自棄の人に好かれちゃう傾向が強いみたいだから」
そう言ってやると、宇都宮は苦笑いしながらドアに向かった。
「ねぇ、京浜東北」
「…何」
「次はもっとちゃんとしよう、ね?高崎の見ている前で、さ」
超・どSな発言を残して、ドアが閉まる。
──そういうのって、架線切断並みに迷惑なんだけど──
と、ひとりごとのように呟き、さっきよりも深く大きなため息をついた。