*東金線は高速走行の夢を見るか*

 

 

「総武さん総武さんそーぶさーん!分かったっス!分かったっス!オレ分かったんですー!!!」

叫びながらJR千葉支社のオフィスに飛び込んできた東金は、息を整える間もなく目の前の御大将──総武線の膝元へと駆け寄った。

「ついに分かったんス!オレッ!」
「うっせーぞ東金!業務中に異音撒き散らすんじゃねー!お客様が不安になるだろーが!」
「す、すんませんッ!」
「さっきから分かった分かったってやかましい…一体何が分かったってんだ!?」
「そ、ソレなんス!オレようやく分かったんス!“ネックスより早いヤツいねー”ってのが間違いだったってことに!」
「!?」

総武は東金の真剣な眼差しに、読んでいた雑誌をパタリと閉じた。

(もしかして…ついに理解しちまったのか、あの“新幹線”の存在を)

仕方がない。
いつかはこんな日が来ると思って、ネックスの件については今まで肯定も否定もしてこなかったのだ。
総武はまるでサンタクロースの正体を悟った幼子に向けるような慈愛の表情で、東金に応じて見せた。

「うん、そうかそうか…で?ネックスより早いヤツって誰だった?」
“ネコ○ス”っス!」
「………は?」
「だから“ネ○バス”っスよ、総武さん!さっき外房たちとテレビ見ててこれだ!って思ったんス!あのバスならオレたちのネックスを抜く風のような速さに違いないって!」
「………」
「正直、電車じゃなくてバスなのがすっげぇ悔しいですけど!でもあの“ト○ロ”がバックについてちゃしゃーないのかなって」
「………東金」
「ハイッ、総武さん?」
「…良かったら一緒に晩メシ喰いに行くか?奢ってやんぜ、オマエの好きなモン」

そう言った総武の瞳はやはり慈愛の──いや、もはや哀れみすら含んだ温かな色に染め上がっていた。

「えー!?マジすか!?やったぁ!でも何で???」
「…いーんだよ。奢りたい気分なだけだ。オメーは難しいこと考えんな、な?」
「ハイッ、総武さん!いやー、やっぱ総武さんの懐のデカさはパネェっスね!さすがっス!」
「じゃ、行くか。他の奴らもいたら声かけてやんな」
「ハイッ、総武さん!」
「その代わり、今日はちゃんと野菜も食べんだぞ」
「ハイッ、総武さん!」

一方、満面の笑みを浮かべる東金の瞳があまりにも美しく澄み切っていたから──
総武はちょこっと涙が零れそうになるのを感じながら、愛しい仲間の肩を力強くポンと叩いて生暖かい外気に包まれた夜の構内へと足を向けたのだった。

 

 

 

 


END

 2010/7/24