*似たもの同士*

 

 

「武蔵野〜、む〜さ〜し〜の〜、どこ〜?出ておいでよぉ〜!」

迷い猫を探すように武蔵野を求め徘徊するワインレッドの同僚に、通りかかった高崎が怪訝な顔で声をかけた。

「なんだよ、武蔵野を探してんのかよ京葉」
「そう。知らない、高崎?」
「コッチにゃ来なかったけど」
「そうかー。残念。ちっ!」
「…お前の舌打ち初めて聞いたな」
「だってー、せっかく僕が新しく決まった夢の国ハロウィンイベントのコスを着せてあげようって思ったのに」
「そうか……思うに、しばらく帰ってこねーんじゃないかなアイツ」
「ぶぅ〜」

京葉はまるで子供のようにプリプリと頬を膨らます。
他の野郎なら目障りでしかないであろうこんな萌えポーズも、京葉だと何となく様になって見えるから不思議だ。さすが夢の国路線。

「しっかし、お前も懲りねーよな」
「何が?」
「いっつも“武蔵野”“武蔵野”って懐きまくってよぉ。でもっていっつもこんな風に逃げ回られてよぉ。あんまりしつこく追い回して、あいつに嫌われても知らねーぞ」
「えっ!?」

先ほどまでのふくれっ面が今度は一気に憂いの表情に変わる。
人差し指を顎に当て、至極真剣に考え込み始めた。

「ん〜〜〜〜んん……それは困る」

そしてずい、と高崎に顔を寄せると、まっすぐな瞳でこう続けた。

「だってね──武蔵野がもし僕をキライになったとしても、僕は武蔵野のこと到底キライになんてなれないから」
「…京葉…」
「高崎だってそうでしょ?」
「は?オレ?」
「宇都宮が高崎のことキライ〜って言ったら、高崎も宇都宮のことキライになれる?」
「……」
「なれる?」
「…そりゃ、お前」
「なれないでしょ?」
「……」

至極真剣な王子様に向かって、姑息なウソがつける高崎ではない。

「…まーな」

話題の片割れがいない気安さからかポロリと本音を漏らすと、途端、京葉の顔がパアッと笑顔に輝いた。

「でしょ?でしょ?ほら〜、いっしょ〜♪」
「ったく…仕方ねーな」
「うん?」
「オレたち」
「──うん!仕方ない!仕方ないから仕方ないよねッ♪」
「声デカい!デカい!他のヤツらにゃ言うなよー」
「YES、高崎線殿♪」
「ほんとかよ…イマイチ信用できねーな…」

 

 

* * *

 

 

「…出づらい…出て行きづらい状況になっちまったぞコリャ」
「…右に同じだよ…っていうかあんま押さないでよね、武蔵野」

実は。
ちょうど京葉と高崎が立ち話をしているほんのわずかな距離の死角に、潜んでいたのだ。
この会話の流れの当事者約二名が。

「うっせーな!オレが隠れてたトコに後から飛び込んできたのはお前だろが宇都宮!でかい図体しやがって!邪魔!」
「しーっ、しーっ」
「…ぐっ」
「ねぇ、それにしてもさァ」
「…何だよ」
「どうして愛らしい生き物っていうのはこう…ぐちゃぐちゃになるまで擦り潰してみたくなるんだろうねェ…(ため息)」
「──うつのみや!お前今後いっさい京葉のそばに近寄るの禁止!いいな!」
「…おやま」

 

 

 

 


END

 2010/6/23