時は流れる。
人の営みなどとはずっと離れたところで。
季節は巡る。
それが決して同じものではないと分かっていながらも。
同じ月、同じ日を迎えるそのとき、
心に残る想いは抗いようのない力で引きずり出されてしまうものだ。
「うん…やっぱり、ねぇ」
「ああ」
東京駅の上官専用室。
届けられるいくつかの新聞、流れるテレビ映像を前に、東日本の上官たちは顔を見合わせる。
「そりゃ大きく取り上げられるよねぇ、ここ二、三日は」
「仕方ねぇべなぁ」
「あの、ぼく──今でもわかりません──どうやって“今日”山陽せんぱいにごあいさつすれば良いか」
「……」
「……」
「……」
長野の疑問に、東北も、秋田も、そして山形も明快な答えを返すことができなかった。
それは少なからず全員が抱いている気持ちだったからだ。
「いーんじゃない、“いつも通り”で」
雑誌を顔に伏せソファに横たわっていた上越がのっそり起き出し、会話に加わった。
「山陽本人がいつも通りなんだからさ。それでいーじゃない。僕らが変に気ィ回さなくても」
「…上越せんぱい…」
「今日も一日、楽しくがんばろーよ。山陽がいつもそう言っているじゃない?」
上越のこの言葉に、皆一斉に大きく頷いた。
「…そうだな」
「うん」
「…だべ」
「ま、でも若干一名、“いつも通り”っていかないのもいるみたいだけど?」
上越は、テーブルの空いた椅子に視線を送り、苦笑いを浮かべる。
「ここ(上官専用室)に来ないで、わざわざ外のカフェで茶飲んでるヒト」
「……ああ」
「──山陽」
「おっ、おつかれー東海道…って、何やってたのお前」
「いや…朝の紅茶を…」
「ははっ、ンなもん、部屋行きゃ秋田が煎れてくれんじゃん?わざわざ金払って外の店で茶ァ飲むなんて、節約家の東海道ちゃんらしくないねぇ」
「…うむ…」
「……」
「……」
東海道と山陽は黙って肩を並べて歩き始めた。
カタカタと、冬の冷気が窓を叩く。
そのぶん、クリアに晴れ渡った空がガラス越しに眩い光を落とした。
「…山陽…」
「うん、何?」
「いや…」
「……」
「……」
「なぁ、東海道」
「…ああ」
「今朝もいつも通り、すべて順調、時刻どおりに運行中」
「──“いつも通り”か」
「うん、“いつも通り”」
「それは良かった」
「がんばろ」
「…コッチの台詞だな」
いつものように目覚めて
いつものように着替えて
いつものように走り始める。
それはとても幸せなことだと思う。
そしてそんな“いつも”を楽しむことができる自分は、本当に幸運だと思う。
たとえどんな想いに心が憂いても──
「今日も寒いなー」
「ああ」
「雪、気をつけてこうな東海道」
「当然だ」
“いつも”そばにいてくれる仲間がいる。
“いつも”俺を必要としてくれる場所がある。
そして俺は
「あ、山陽と東海道来た!」
「おつかれさまですー、せんぱい」
「あーあ、またうるさくなるぞ、こりゃ」
「…早速だが、日本海側の大雪被害の報告を…」
そして俺はうんと欲張りだから。
この幸運を決して手放したりするもんかと、固く心に誓うのだ。
毎年。
1月17日の今日──
Go-Round