「〜♪〜♪♪」
「…ごきげんだな、山陽」
マグカップ片手に鼻歌まじりで、思い出し笑いなど浮かべながらソファに腰を沈めている山陽に、東海道は怪訝な思いで尋ねた。
「何か良いことでもあったのか?」
「んー……あのさー、今日、広島から可愛い女子大生風のコが上りレールスターに乗車して来たんだけどさぁー」
「また女か」
「“また”!?…いやそーゆーんじゃなくてさ、そのコ、広島駅の改札で見かけたときからそらもうすっげぇ哀しそうな、今にも泣き出しそうな、ンな辛そうな顔しててさー」
「ほう?」
「つい気になって一緒に乗車して様子伺ってたんだけど…」
「確かに、そういう場合は実に危ないからな、飛び込みの可能性とか」
「ちょっ…オマエが言うとリアルに怖いからやめて!とにかくそのコに気を配ってたのよ。そしたらさ」
「そうしたら?」
「新大阪着いたとき、その女の子、笑ってたんだ」
「…笑って?…」
「そっ♪」
「それで?」
「いや、そんだけ。でもそれがまたすっげぇいい笑顔でさァ」
「車内で何かあったのかな」
「さーな。でもそんなのこの際どーでもいいや。笑ってたってトコが大事なんだからさ」
だってオレたち高速鉄道はさ。
みんなをシアワセにしなくちゃいけないんだよ。
そのために走ってるんだよ。
そうだろ東海道?
「……ああ、そうだな」
「だろ?だから、良かったなーって」
「……」
「〜♪〜〜♪」
「…山陽」
「んー?」
「私も一緒にお茶をいただくいても良いかな?」
「おードウゾドウゾ、ちょうど新しいのが入ってるぜー。カップ持ってコイよ」
山陽
なぁ山陽。
知っているか。お前は──
「東海道、ほらコッチ。煎れてやっから」
「…ああ、山陽」
知っているか?
今、お前がどれだけ“幸せ”そうな顔をして笑っているかを。
それはどんなに長く走ろうとどんなに速く走ろうとこれから先もきっとずっと
他の高速鉄道には決して真似出来ないこと。