*キミのもの、ボクのもの*
「…高崎、何だい、それ?」
「へっへー!“高崎線グッズ”だって、ほら!」
じゃーん、と勲章のように宇都宮の目の前にぶら下げられたのは、『高崎』とおなじみの駅名表示板を模した、コンパクトなキーホルダー。
「どう?」
「……どうって」
「でな、宇都宮線のもちゃんとあったからさ、一応ゲットしといた、ほらっ」
「……」
ダメ押しのように、今度はあまりにも見慣れた『宇都宮』駅の駅名表示板キーホルダーが差し出される。
…どうしよう、コレ。どんなリアクションが求められてるんだろう。
「まぁ…なかなか…よく出来てるんじゃない?」
「……」
「……」
「それだけ?」
「それ以上何を言えっていうの?」
「あー、まー、予想してた通りの反応だけどなー。つーことは、いらない?この『宇都宮』のキーホルダー」
「それをつけて喜ぶボクを高崎は本気で想像したの?」
「…いーや。真顔で拒否られるか、鼻で笑われるか、ノーリアクションか、のどれかと思った」
「答えは3番。で、満足した?」
「ったくお前は、こういう遊び心がわかんねーからな。自分の走ってる路線が商品化されてお客さんの手に渡るっていい気分しねぇ?」
「グッズが売れるより乗車率が増えた方がいいんじゃない?それだいたい僕たちには何も関係ないものじゃないか」
「へいへい、この話題終了―。ま、こんなこったろうと思ったけど」
と、肩を竦めてキーホルダーをひっこめる高崎。
あれ?思いがけず素直に引いたな。そんなにがっかりしたのかな。
せっかく買って来てくれたんだから、もうちょっと興味があるフリだけでもしてやれば良かったかな。
自分には珍しくそんなことを考えながら視線を向けると、高崎はなにやら手元でガシャガシャと──
「え?……高崎、それ」
「んー?」
「つけるの?それ?…2つとも?」
なんと高崎は、何の躊躇もなく『高崎』と『宇都宮』のキーホルダーを2つ並べて業務用の鍵の束にぶら下げていた。
「ああ、ちょうど鍵なくさねーように大きめのキーホルダー探してたんで」
「…いや僕が突っ込んでるのはそういうことじゃなくって…」
「十中八九お前は“いらねー”って言うと思ったけど、やっぱりだったな」
それが分かって買ってきたということは、最初から『高崎』だけじゃなくて『宇都宮』のキーホルダーを買う気満々だったってこと?
つまりイコール、こうやって一緒にぶら下げる気満々だったと?
このベッタベタな鉄道グッズというやつを?
「やっぱせっかく自分らの路線のを見つけたんだしなー、つけねぇと」
子供みたいに笑って鍵を腰に引っ掛ける。
“自分らの”って…
……
……
…それをあの直属の上司が見たら、絶好のからかい(というかイジメ?)のネタになるかとか、そういうことを考えないのかいキミは。
「…この天然」
「あ?何か言った?」
振り返った高崎の腰で、2つのキーホルダーが揺れてカツン、と音を立てた。
──こういうグッズって──実際、自分には何の興味もないけれど。
つまり、喜んで身につける相手がいてこそ初めて、その存在が意味を持つということで。
その証拠に、今、こうしてキミの姿を見ていたら──
「…やっぱりもらおうかな、僕も、その、キーホルダー」
「なーんだ、やっぱな!自分のメイン駅のって欲しくなんだろ?な?な?そう思ってた!……んと、ちょっと待てよ……ほい、『宇都宮』の、な」
高崎が鍵から外してくれた自分の路線のキーホルダーを受け取りながら、
僕にはその──『高崎』のをくれない?
……なーんて思ったことは絶対内緒。
そう心に誓って「ありがとう」ってお得意の誤摩化し笑顔で答えた。