*そんな僕の元気*
どうしたんだろう。
体、重い。
たまらない。
動けない。
あー、まいったな、まったく。
こんな事態を回避すべく、続々と新車両を導入しているというのに。
どうして僕はこう…
昔から…
……
……
早く起きなきゃ。
起きて、僕。
起きて。立って。
そうでなきゃ僕は──
「京浜東北」
「……あ……」
目を覚まして最初に視界飛び込んできたのは、天井の蛍光灯を遮る高崎の心配そうな顔だった。
「おい…大丈夫か?」
「…ああ…うん……ゴメン」
ソファの背もたれにつかまり、ゆっくりと体を起こす。
大丈夫。
イケる。動ける。
手が空を彷徨うと、探していた眼鏡が手渡された。
「ありがとう、高崎」
「本当にオマエってさー、時々いきなりバッタリいくから焦る」
「…ついててくれたの?…ゴメンね…こんなとこ宇都宮に見られたら、またキミとの仲を誤解されちゃうね」
「その心配はない」
「…なんで?」
「すでに背後にいっから」
「やぁ〜、京浜東北♪ようやくお目覚めかい?得意の持病が出たんだって?久しぶりだねぇ、ご自慢のエコ車両はどうしたっていうのさ」
「……」
にこやかに嫌味の爆弾を炸裂させる宇都宮に、今は言い返す気力もない。だるい。
だめだ、しっかりしなくちゃ…
「…起きる」
「おい、大丈夫なのかよ」
「ん…たぶん」
「んー、まぁそうだね、無理はどうかとも思うけど…いい加減こいつらも鬱陶しいしねぇ」
「こいつら?」
ちょいちょい、と宇都宮が指差す先に視線を落とすと…
「…けいひんとうほくぅ…」
「……」
「…おやまぁ…」
自分の足元に蹲るように、埼京と山手がしょんぼり座り込んでいるではないか。膝抱えて。
しかも埼京はすでにベソかいてるし、山手は普段よりさらに鬱状態に入っているし。
「山手なんて人形すら喋らないってんだから。ほらー、ったくオマエらが凹んでどーすんだよ!埼京も男のくせにべそべそ泣くな!」
「だってぇ〜〜〜」
「……」
高崎に叱咤され、涙目の2人が僕をじっと見つめる。
ああ、何かこれって…ダンボールに入った捨て犬を見つけたそんな気分。
「もう平気だよ埼京、心配かけてごめんね。山手も、遅延の尻拭いさせちゃってごめん」
「良かったぁ、けいひんとうほくぅ」
「……」
「キミはちょっと普段からこの2人を甘やかし過ぎなんじゃないの?ねぇ京浜東北?」
「…そうかもね…」
ようやく少し笑えるようになった。
でもね、宇都宮。
甘えられるのって、ボクにとってはそれほど悪い気がしないんだ。
何故って、それだけで自分の存在価値がある気がしない?
自分の居場所がある気がしない?
これってもしかしたらかなりずるい考え方かもしれないけれど…
「とりあえず、とっとと起きてもらわないとね」
「おい宇都宮!京浜東北は具合悪いんだぞ!オマエもちっと優しいコト言えねーのかよ!」
「高崎はいつもボクが優しくすると“らしくない”って気持ち悪がるくせに──それに困るんだよ、だって」
宇都宮はいたって真面目な顔で僕を見下ろしこう言った。
「京浜東北がいなくって、誰がボクたちをまとめられるって言うんだい?」
……
……それって。
それもいわゆるひとつの、甘えられてる、ってヤツ?宇都宮?
頼りにされてるって、少し自惚れてもいいのかな。
みんなが彼の言葉に頷くのを見ていたら、体のなかにぐん、と力が漲るのを感じた。
ああ、もう動ける。僕は。ほら。元気になれる。
みんなと一緒に走って行ける。