*笑ってる*

※注:この作品は、本家様「秋雨全線異常無し」で、宇都宮が東北上官と会った後1人きりで階段の踊り場に佇んでいた…というオハナシの後日談風味です。
信じられないかもしれないですが本当です。そのあたりを脳内で補完してよんでいただけると有り難いです。ムチャ言ってすいません。

 

「たーかさきっ♪」
「──ウゲッ!──」

声、いや、奇妙な音が人気のないホームに響く。
もうそろそろ最終も出ようというそんな時刻。
いつも以上に忙しかった1日がようやく終わると、ふと油断をした次の瞬間に…

「ほんと、いっつもスキだらけだね、君は」
「──うっ──宇都宮、テメーッ!」

締め上げられた喉元から搾り出すように抗議の声を上げると、自分の肩にどっかと顎を乗せ穏やかに微笑む宇都宮を睨み付けた。

「コノヤロー、ようやく人が一息つこうって時に!いきなり襲ってくんじゃねー!」
「襲う?やだなぁ人聞きの悪い、襲うんだったらこの程度じゃ済まないよ」
「…あー、そうですか、そらどーも」

無視って歩き出そうとするも、背後霊のようにぴったりとまとわりついた自分と変わらぬ体格が邪魔で、身動きが取れない。

「うざい!重い!動けない!──あーもうっ!何だってお前はオレにこうまとわりつくのが好きなんだっ!」
「だって高崎はボクのオモチ…いや、大切な心のオアシスだからさ♪」
「…言いかけた前半部分がすげー気になるんだけど?」
「あはっ、だからさ、一緒にいると楽しいってことさ♪」
「…ぐっ…苦し…満面の笑みで首絞める…な!死ぬ…ッ!」
「こうしてそばにいるとね」

耳元をくすぐるように、涼やかな声が響いた。

「不思議と安心するんだよねぇ」
「……ウソつけ」
「え?」

高崎の意外な反応に、宇都宮は柄にも無く戸惑うように眉をしかめた。

「何て言った?」
「お前ってほんとスゲーよな。平気でウソつく」
「どういうことさ?」
「だってお前って、肝心なときは…本当になんかあったときは…1人でいるだろ」
「……!?」
「気がつくとどっか行っちまって」
「……たかさき」
「いつも1人で決めて1人で片付けて」

 

いつだって1人。
そしてその間は、オレだって1人。

つまりはそういうことなんだ。

 

「…キミはそれが不満なのかい?」
「……」
「ねぇ、高崎、答えてよ」
「べっつにー」

 

オレはオレでしかない。
これ以上にもこれ以下にもなれねーし。
他の誰かにもなれねーし。

仕方ねーから。

 

「一緒の線路を走ってたって、最後は別々の場所に行くんだ俺たち」
「…高崎」
「それと同じことだろ?」

 

どんなに長く一緒にいたって。
大切なものを共有できるとは限らない。

そんなことが分からないくらい間抜けでも子供でもない。悔しいくらいに。

 

「…君がそんな哲学者だと思わなかったよ、見直した」
「ぬかせ」
「すごいこと考えるんだねぇ、高崎のくせに」
「このテメー!」
「あはっ」

宇都宮はいつだって、こうして人を小馬鹿にした口をきく。
でも少しトーンが下がったように思う。それがちょっと気にかかる。

「ね、今、ボクの中で君の株がすごい上がったよ、急上昇!」
「…あーそーですか、でもきっと明日には大暴落してんだろ、その株」
「あはははっ、ソレ正解!」
「…お前さぁ」
「ん?」
「たまにはちゃんと笑ってろよ」
「──」
「ンな作り笑いばっかじゃ疲れんだろ」

一瞬、宇都宮がオレの制服を握りしめる力が強くなった。
きっと無意識なんだろうけど。

「…ねぇ、高崎、知ってる?」
「んー?」
「時々、マジで君のことムカつくんだけど」
「へー」
「けっこうキライだし」
「わーったわーった、じゃあもう離せ」
「置石したいくらい」
「だーかーら!こえーよお前!シャレなんねーこと言うな!」

と、再び振り返った高崎の目に映った宇都宮の顔は──
いつもの張り付いた笑顔じゃなくて。心底面白そうに、楽しそうに輝いていて。

 

あ、なんだ、こいつ

 

今、笑ってる。

 

そう思える笑顔だったから──

 

「ん?何?高崎?ボクに見とれてるの?」
「…寝言言うんじゃねー!いいからマジ離せ、オレは休みたい!」
「じゃあ、このままおんぶしてって♪」
「…ぶん殴るぞテメー…」

 

だからさっきまでの不穏な発言もなにもかも帳消しにして。

結局、相手をずるずると引きずったまんま休憩室に向かったんだ。

 

みんなにはドン引きされたけど。

 

 

 

 


END

 2008/5/25 バトンありがとうございました!