*本日の議題は*

 

「本日の議題はァ──“そろそろ衣替えの季節ですね”──ってことで」

JR東日本在来線の皆さん、ただいま絶賛会議中。

「オンナのヒトが薄着になる季節だよねー」

と、一歩間違えはサクハラ発言も、京葉線がさらっと口にすると何故か爽やか。
皆が一斉にウンウンと頷いた。

「下心丸出しの馬鹿オトコが浮かれまくる季節でもある」
「ああ、痴漢対策?埼京線の?」
「ぶっちゃけ、“痴漢が出た”って車両を変えてもまたソコで別の痴漢に遭う、っていうのはどうかと思うよ、埼京」
「真面目な話、思い切って夏だけでも女性専用車両を増やしたらどうかな。前4両、後ろ5両くらい」
「…オトコの車両残んねーよ…」
「だーっ!もうっ!みんなして何だよ!何で痴漢話だとピンポイントにボクになっちゃうワケ?!」
「そうそう、ハイハイ、埼京をいじめる(弄る)のはもうやめてね」

まとめ役の京浜東北線が、脱線し始めた会話をたしなめる。

「今日の議題は痴漢じゃないの。これから夏場にかけての“冷房”調整について──」
「あーそうねぇ、その季節でもあったか」
「フツーそっちじゃん!」
「ハイハイ、落ち着いて埼京…まぁ話し合うって言っても、例年と同じでエコを意識した冷房温度の調節ってコトを確認したいだけなんだけど」
「って言ってもなぁ。いくら弱冷房車だって冷房弱すぎちゃ文句出るし」
「強すぎたら当然苦情が出るだろ?難しいよ」
「駅で、膝掛けの貸し出しとかしたらどうかな?」
「映画館じゃないんだから」
「そんなこと言って、毎年冷房の調整で文句がよく出るのは京浜東北じゃないの?」
「僕は3県を跨って南北に縦断するだろう?始発駅と終着駅で気温に差があって調節が難しいんだよ」
「どこの大陸の縦断列車だテメーは!」
「それ言い出したらキリないよ。僕なんて4県だし。だいたいさぁ、体感温度なんて人それぞれなんだから、乗客全員のニーズに合った温度調整ってこと自体にムリがあるんじゃないの?」
「まあねぇ」
「…なー、そうやって温度のことばっか言ってるけど、もっと気をつけなくちゃいけないことがあるんじゃないか?」
「…へ?」
「何、武蔵野?」
「ズバリ!“送電ストップ”だ」
「「「──!!!」」」

武蔵野の、武蔵野らしからぬ鋭い意見に、皆“ウッ”と息を呑んだ。

「クソ暑い日に、しかも通勤通学時間帯に停電で止まってみ?ただ列車が止まるだけじゃないぜ?クーラーも止まって、あのもわ〜んとした吐き気を催す熱気が車内に」
「……」
「……」
「…確かに…」
「例えば走行に支障がなくても、クーラー自体がぶっ壊れたらそのときは…」

誰もが一度や二度は経験のあること。
悪夢の記憶が蘇り、部屋の中の空気が一気に重くなる。

「…不満、焦燥、苛苛、暴動…」
「…体調不良、クレームの嵐…お、恐ろしい…」
「……」
「……」
「ではここで、この夏の我々の目標を設定したいと思います──目標は──」

 

 

 

「武蔵野―?いる?」
「よう、有楽町か、入れよ」
「おじゃま…今日は暑いねー…って…何、この張り紙?」

東京メトロ有楽町線が武蔵野線の私室に顔を出すと、壁面に真っ白な紙に墨汁らしきもので書き綴られた手書きポスターが1枚。

「あー?コレ?うち(JR)のこの夏の目標、っつーか、スローガン、つーか」
「へー」
「各自、持ち帰って目に付くところに張れって、京浜東北がさー」

「……」
「……」
「…なんかツッコめよ」
「…えーと…いんじゃない…なんかこう…優しさ(?)があって」
「…マジでか…」
「明確な目標を掲げて事業計画を立てることは大切だから、さ」
「……」

 

本日の最高気温、25℃超。
いよいよ暑い季節の到来です。

 

 

 


END

 2008/5/23