腰痛対策 |
<Ⅰ:急性腰痛症> (原因) 発症が急なものであり、重量物を持ち上げたり、体を曲げた際などに瞬間的に起こる腰痛発作(ギックリ腰)と引越しや 長距離運転などを行った翌日頃から起こるものなどがある。 (対策) ①安静 :安静臥床により椎間板の内圧を下げて椎間板の膨隆を減らし神経や周囲の炎症を抑える。 ②冷却 :氷や冷湿布を用い局所の血流を制限し炎症の波及を防止する。 ③圧迫・固定 :コルセット等を用いて緊張した腹壁を作ることにより腹腔内圧を保持し椎間板への負担を減らす。 また、動きを制限することにより腰椎の安静を保つ効果がある。 ただしコルセットの長期装用は腹筋・背筋の筋力低下をきたすため、継続した装用は1~2ヶ月以内 に限るべきと思われる。 (なにか作業を行う際だけに装着するといった使い分けを行う) 【腰椎の前弯を減らす体位】 <Ⅱ:慢性期腰痛症> (原因) 急性・亜急性のものが慢性化したもの及びいつとはなしに起こり、発症の時がはっきり指摘できないもの。 ・重労働や反復動作による筋肉の疲労 ・中腰やあぐら及び仕事上の不良姿勢の持続 ・骨盤の前傾と腰椎の前弯という人間の構造的な姿勢形態からくるもの など 体重負荷や加齢などの退行変性の要素が深く関係している。 (対策) ①温熱 :温めることにより筋の緊張を取り、局所の血流を増加させて、痛みの軽減をはかる。 これにより痛みに対する感受性の閾値を上げることや血行を改善し、炎症の結果生じた有痛物質の 運搬を促進する。 ②日常生活動作の注意点 <睡 眠> ・ベッドはやや硬めのものを選ぶ ・横向きで膝を引き寄せるか、仰向けで膝の下に大きな枕を置いて寝る(図 a,b) ・腹ばいは避ける。どうしてもという時はお腹の下に座布団をいれる(図 c) <座 位> ・腰部を支えるサポートと、手を置くアームレストがあり、120度のリクライニングができる椅子を選ぶ。 ・場合により座布団やタオルを丸めて腰にあてとする。 ・膝関節が股関節よりもやや高くなるように椅子を調節する(図 d) ・椅子が高すぎる場合には足の下に台を置く(図 e) ・極端に低い椅子や柔らか過ぎるソファーは避ける。 ・座位における机の高さは書類書きには胸から腹、手作業には腹から腰とする。 ・仕事中腰を捻ることにならないように机を配置する。 ・長時間の座位は避け、20分に1回は立ち上がり腰を動かす。 ・座りながら時々体重を移動したり、体を前後屈したりする。 ・あぐらや足を投げ出した座り方は避ける。やむを得ない時は、お尻の下に座布団を2~3枚敷く(図 f) <立 位> ・15㎝程度の足台に片足を乗せて立つ(図 g) ・ハイヒールは避け、なるべく底の平たい靴を履く(図 h) ・洗面時は膝を曲げたり足台を用いたりする。 ・台所での調理台は腹から腰の高さのものとする。 <動 作> ・物を取る時や持ち上げる時は腰を曲げないで膝の屈伸を利用して行う(図 i) ・高所のものを取る時は台に上がって取る(図 j) ・荷物は自分の体から離さないように密着させて運ぶ(図 k) ・赤ちゃんの抱っこも同じである(図 l) ・荷物は左右対称になるようにバランスを考えて持つ(図 m) ・引越しなど、物を持ち上げることが多ければ、腰椎コルセットや腰椎ベルトを着用する。 ・重いものは肩にかけたり、担いだりして持つ(図 n) ・掃除機をかける時は腰を曲げないで膝を使う(図 o) ・ベッドのシーツ交換はベッドに上がって膝をついて行う。 ・睡眠のためベッドに上がる時は、まず腰をかけ、それから横に寝るとともに足をベッドに乗せ、 それから仰向けになる(図 p) ・ベッドから降りる時は、その逆にベッドの端で横向きになり、膝を引き寄せ、それから足を下ろすと ともに肘で上半身を起こす。 <運 転> ・座席を前に出して、膝が股関節より高くなるようにして運転する(図 q) ・座布団、タオル、週刊誌などを丸めてback supportにする。 ・arm restを使用する。 ・疼痛時の運転は避ける。 ・長時間の連続運転は避け、1~2時間に1回は休憩して腰の屈伸運動を行う。 ・座席に座る時は、まず足が外に出たまま横向きに座り、それから足を入れるとともに前向きになる (図 r) ・降りる時は、その逆に横向きになり、足を外に出しそれから立ちあがる。 <スポーツ> ・十分な準備運動を行い、急に激しい運動をしないようにする。 ・水泳ではバタフライや平泳ぎは避ける。 ・ジョギングでは底の柔らかい良い靴を選び、硬い舗装道路は避ける。 ・柔道、ゴルフ、テニスなど腰を強く捻る運動は注意して行う。 <その他> ・肥満に注意し過食を避け適度な運動を行う。 ③レクリエーション 精神的ストレス、不安、うつ状態などの精神的因子が腰痛を悪化させ難治化させることは多い。 趣味を持ち、旅行や気分転換を行い、精神的緊張が続かないようにする。 ④体 操 ・Williams体操:骨盤の傾斜と前弯を減らす体操 a:骨盤回旋運動 b:腹筋運動 c:背部拘縮除去運動 d:腸腰筋ストレッチング ・Mckenzie体操:腰椎の前弯を増加させる体操 背筋の筋力低下の強いものや前弯の減少が著しいものに対して行う。 【Mckenzieの腰椎過伸展運動】 ・腹筋運動 必ず膝を曲げて行う。 膝を伸ばして行う上体の挙上や下肢の挙上は腰部に傷害を起こしやすく危険である。 腹筋強化運動の強度 a:軽度 b:軽~中等度 c:中等度 d:強度 手の位置が腰の脇、腹、胸、頭に置くほど強い運動となる ・背筋強化運動のいろいろ ⑤ストレッチング ストレッチされる筋肉 <腰 部> ①背筋 ②腹筋 ③腹斜筋 <股関節> ④腸腰筋 ⑤内転筋 <膝関節> ⑥大腿四頭筋 ⑦ハムストリングス(傷害を起こさないために腰背筋に緊張を保ちながら行うのがよい) <足関節> ⑧腓腹筋・ヒラメ筋・アキレス腱 ※ 反動をつけて瞬間的に筋肉や腱を引き伸ばすやり方は、筋肉や腱に傷害を与えやすく危険である ため、ゆっくりと伸ばしていき最大伸展位で20~30秒ほど保持するやり方で行う。 脊椎疾患保存療法 編集:原田征行 酒匂崇 金原出版㈱ |