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長期の連載にもかかわらず「プロフェッショナル・スチュワーです!!」の単行本は1巻のみ。
僕の計算が正しければ、原稿のストックはあと2冊出せるだけの量があります。
一定の人気があるにも関わらず何故次の単行本が出ないのか、その謎を公式な情報から
探ってみる事にしました。
■過去の通例から考えてみる
白泉社の通例、特にJETS COMICSの通例として「8エピソードで単行本一つ」という基準が
存在するというのは、アニマルの読者ならば半ば常識と言ってもいい知識です。
連載の単位も8話が一応の目安となっており、当初「プロです!!」の連載もこのスタイルを
踏襲した形での短期連載として始まり、連載終了後に単行本化される予定が組まれました。
これが単行本1巻が出るまでの簡単な経緯です。
2002年9月の連載終了後も読者からの要望は多かったようで、同年11月に「特別編」として
読み切りを1本リリースした後、2003年2月に連載を再開、現在へ至ります。
第2部の掲載位置が本誌の中で常に前寄りの位置が多かった事から、その人気の高さが伺えます。
御存知の通り、ここ数年のヤングアニマルの体裁は特殊なもので、エロとか暴力などといった
どうしようもない作品の隙間に、それは場違いとも言えるほど毛色の違う良作を挟むという
スタイルを頑なに継承しており、これが他誌との差別化を図る大きな武器となっていました。
他の項でも書いたように、例えば「愛人[AI-REN]」とか、「吉浦大漁節」など、極めて質の高い
実験的な作品を掲載してコアなファンから好評を博してきた経緯があります。
また、増刊ではこの傾向が更に顕著で、若手の意欲的な読み切りや短期連載などを数多く取り入れ
良いものは順次本誌へ格上げするなど、実に柔軟な体制が敷かれていたように思います。
過去の様々な作品の単行本化の予定を調べて行くと、加筆修正をしなければ翌々月には
単行本の発売が可能のようです。
白泉社の単行本には必ず初出の日付けがありますから、発売日と照合すればこの推論の
裏付けがとれるはずです。
第1巻の巻末にもある通り、「次の刊行予定は2003年夏」とアナウンスされていました。
アニマルは月2回刊ですから、2003年夏は第2部の連載が7話ほど進んだあたりになります。
そこに特別編を加えると全部で8本になるので、これも事前の計算通りです。
短期連載として一度完結している関係から単行本化が若干遅れた可能性はあるにせよ
それ以降予定されていた単行本化の話が動いていないのには何か理由があるのではないかと
思ったのが、このページを執筆する最初の動機でした。
■話の流れから考えてみる
現時点で「プロです!!」は4部構成。
第3部を除き、基本的に一貫したスタイルで作られています。
第1部と第2部、それと最近の連載分は基本的に同じ路線を継承しており、第3部だけが
話の流れもリズムも全く別物になっています。
読者からの要望で連載を再開し、第2部ではその路線を更に推し進めた格好で人気を博して
いたであろう事は誌面の掲載位置からも明白であり、この流れを変更するとなればそれなりの
リスクが伴う事もまた明白です。
雑誌を買ってもらうという面から考えると、人気のあるスタイルをわざわざ改編する理由が
何処にも思い当たらない。これが大きな謎です。
また、原作者の蘭佳代子は作詞家でもある事から、わざわざ話のリズムや台詞回しを崩すような
書き方をするとは思えず、何らかの理由でそうせざるを得なかった、という推測も出てきます。
更によく調べて行くと、第3部の執筆開始と関連のありそうな出来事がもうひとつありました。
■人事の面から考えてみる
2003年の春にアニマルの編集長が変わって、その後誌面の改編が段階的に実施されています。
いくつかの改編の後それまでの特殊なスタイルは陰を潜め、他誌と大して変わらない体裁に
なりました。
他誌と変わらない体裁。つまり娯楽作品専門のスタイル。
今までのように毛色の違う作品を挟んで云々、という凝ったギミックはなくなるという事です。
誌面の改編が順次進んで行く中、従来のスタイルを継承した作品は唯一「プロです!!」だけと
いう状態になりました。
その最中に連載は第3部へ入り、ここで異例とも言える路線変更が行われたのは前述した通りです。
初回から話を追って行けばすぐに分かりますが、路線変更というより別の話になっているのです。
自分の知る限りでは同時期に編集者が交代したという情報はないので、編集者の問題で
単行本が出なかったとか、話の流れが変わったという訳ではないように思います。
また、他の執筆陣で「プロです!!」と同時期に短期連載から長期連載に移った作品がもうひとつあり
こちらは即座に単行本を改訂して巻数表示を追加し、第2巻の発売に対応している事から
単巻扱いを続巻に変更するのは別段困難な作業ではないことが分かります。
人事の面からの流れを追って行くと、どうも編集長の交代が大きなキーポイントとなり
話の流れが変わったり、あるいは単行本が出なかったり、という問題が出ているように見えます。
また、従来の路線が気に入らないか、あるいはエロと暴力だけで売れると盲信しているか
いずれかの理由で毛色の違う作品を避けているのではないか、という推論も出てきます。
一応、毛色の違う作品が売れてしまうと都合が悪い、という子供じみた考えはないものという
前提で話を進めていますが、今の出版業界に一般人の常識が通用するかどうかは怪しいところです。
■読者を無視するような雑誌は売れない
ここで挙げたいくつかの事例はいずれも公にされた情報を基にしており、そこからの推測は
あくまで推測の域を出ないものです。
このいくつかの事例と推論からどのような結果をはじき出すかは皆様にお任せするとして、
製本屋からの視点として言っておきたい事が三つあります。
読者の支持なくして、本は売れない。
売れるものを売るのではなく、優れたものを売り出す事が肝要である。
商売人たるもの、一度公にした約束は必ず守るべきである。
僕は、この三つを守れない書籍や雑誌は一切買いません。
もしそれが判明した場合、たとえ購読途中の単行本であっても躊躇なく廃棄します。
インプレ書くからには必ず書店から新刊を買う。これが我が家の掟です。
どんな本でも金を払って買うからこそ堂々と文句が言えるのであって、雑誌の立ち読みで
インプレを書こうなどという姑息な手段を行使するつもりはありません。
「二次元堂」を終了したのも、アニマルの購読をやめたのも、全ては上の三箇条が鍵となっています。
そして、頼みの綱である単行本が出ないことで、このコンテンツの更新が停まっているのです。
早い話が、文句を言う価値もなければ、買う価値もない、ということです。
過去の通例を覆すからにはそれなりの理由がなくてはなりませんし、予定を公表したからには
出す(あるいは出さない)というアナウンスが必要になります。
原稿が存在する以上、単行本を出さなければ編集部に対する不信は増え続けるでしょう。
意図的にしろそうでないにしろ、もし拡販の努力を行わなかったとすれば、作者に入るはずの
印税収入を間接的に断つ形になり、間接的に作者に不利益を与えていることになります。
それと同時に、発売すると公表した単行本を発売しなかったことで、読者の信頼を裏切り
出版元である白泉社に対して明確な不利益を与えていることになります。
読者の不信を増幅するような真似は本の編集に携る者として許されないことです。