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結核の治療についてのまとめ
死亡率トップの伝染病からの生還


 近年、若年層の間での結核の罹患率が増えている事もあり、もしかすると
 この記事が何らかの形で結核の予防・早期発見の手助けとなればと思い
 ここに再び記録を残す事にしました。

 これは昔書いた記事なのですが、一部加筆修正の上で掲載しています。
 法律や公費補助の項目においては最近の事情が分からないため
 当時の内容をそのまま載せています。
 詳細については医療機関や保健所、関係機関にお問い合わせ下さい。

 (2005.07.11 作成、2010.06.13 一部加筆修正、再掲載)



どんな病気か?
 結核というのは、基本的には空気感染によって伝染を繰り返す伝染病で
 主に患者の咳やくしゃみなどを媒介する「飛沫感染」によって伝染します。

 結核菌の実寸法は長さ1〜4ミクロン、幅0.3ミクロン。
 1回の分裂に要する時間はおよそ10〜15時間。
 外側は丈夫な皮膜によって被覆されており、高い抵抗力を持ち、長期間潜伏する
 事が可能な細菌です。

 発病には二つのパターンがあり、感染初期に病気が進む初感染発病と
 長期間の潜伏の後発病する既感染発病があります。
 ちなみに僕の場合は後者に属し、計算が正しければ幼児期に感染した
 結核菌が27年潜伏していた事になります。

 近年の日本ではあまり感染の話は聞かなくなりましたが、手元の資料によると
 現在でも毎年4万人ほどの感染の報告があり、そのうち3000人前後が死亡しているとのこと。
 伝染病による死亡原因としてはいまだ日本一の病気です。

 結核は高齢者の病気という印象があるのですが実際はその逆で、最近特に20代近辺の
 若年層の発病が、それも大都市圏を中心に増加傾向にあります。
 世界的に見るとアジア周辺で特に罹患率が高く、安価な治療法が確立した現在でも
 感染者はほぼ横ばいの数で推移しています。
 特に日本国内での患者数が一向に減らないのには二つの理由があるのですが
 これについては後述します。



発病と入院について
 発病初期の自覚症状としては、疲労している時に軽い咳が出たり、倦怠感があり、
 ついでそれらの症状が悪化し、ほぼ終日この症状に悩まされます。
 咳の特徴として、気管の中に水分が入り込んでむせかえるような感覚があります。
 あと、普段肩凝りがないにも関わらず、肩凝りに悩まされる事があります。
 僕の場合は初期症状が10月から3月まで続いて、その後発熱や疼痛、食欲不振を
 起こして仕事ができない状態になりました。

 発熱や疼痛については、初期の軽微なものについてはビタミン剤などの補給で
 改善する事も可能ですが、それも一時的なものです。
 更に症状が進行すると39度前後の発熱、関節痛、吐き気、悪寒などが終日続き
 解熱剤がなければ生活が不可能になります。
 この時点で風邪薬が効かない事が判明した場合、できるだけ早く検査を受ける
 必要があります。

 初期の検査では胸部レントゲンと血液検査を行い、これで分からない場合は
 CTスキャナーに乗る事になりますが、これらの検査では結核かどうかの
 判断はできません。
 次いで痰の検査を行い、ここでようやく肺結核と診断されます。
 個人的には痰の検査と胸部レントゲンを最初に行うのが賢明なのですが
 結核の治療実績のある医師は少なく、風邪か肺炎と誤診する傾向が大変多いようです。

 前項で述べた「患者の減らない理由」の一つ目がこれです。
 結核を診た経験のある内科医が少ないため、診断が確定する頃にはかなりの確率で
 菌をバラまいてしまっているのです。

 無意味なたらい回しを避け、罹患の拡大を防ぐためにも、服薬履歴や時系列での
 健康状態の記録を行い、それを元に細かな事情の説明や相談などをやっておく事を
 お勧めします。
 基本的なものでは、以下の5種類が挙げられます。
 起床と就寝の時刻
 トイレに行った時刻とその状態
 投薬の時刻と薬の種類
 検温の時刻と数値
 何か異変があったらその時刻と内容など

 これだけ記録しておけば診察の時の参考になるはずです。

 なお初期診断については、大学病院よりも総合病院や中堅の開業医が最適のようです。
 大学病院が劣っているという訳ではありませんが、感染症の初期診断の選択肢には
 適さないと考えるのが無難です。

 僕の担当医は当初肺膿瘍(肺化膿症)を疑う方向で治療を開始しましたが、幸いにも結核の
 治療実績のある医者であった為、入院と同時に痰の検査とCTスキャンを行いました。
 最悪は結核の恐れがある事を知っていたからです。

 痰の検査は2段階に分けて行われ、培養前の検体を顕微鏡で調べる塗沫検査と
 一週間の培養を経た検体を調べる培養検査の二種類があります。
 原因の分からない伝染病の場合、塗沫検査の結果が分かる迄は個室に隔離されます。
 塗沫検査の結果がシロだと分かれば大部屋へ、クロだった場合は即座に結核病棟へ
 隔離され、しばらく入院する事になります。

 個室では差額ベッド代の必要な病院があり、ここで結構お金が掛かります。
 また入院時に高額な保証金を請求される事例もありますから、普段の貯蓄は大事です。

 培養を待つ間は療養を兼ねて入院します。
 病棟ではパソコン厳禁の所が多く、通信手段は事実上公衆電話だけになります。
 ネット中毒の人、サイト持ちの人は覚悟しておきましょう。

 入院中は主に抗生物質の点滴がメインで、「フルマリン」と「ダラシン」という
 二種類の薬剤を用いて抗菌作用を強化する治療が採られました。
 点滴は朝晩2回それぞれ100ccずつ、一日400ccが注入されます。
 毎回針を刺して注入するのと、使い回しの利く針を刺しっぱなしにする方法があって
 注射が苦手でもない限り刺しっぱなしで使いまわすのが楽でいいと思います。

 フルマリンとダラシンの併用により、発熱や倦怠感などの初期症状は2〜3日で
 治まりますが、万一結核だった場合は咳が治りません。
 体調が良くなったのに咳だけが止まらない場合、結核の可能性があります。



結果が分かるとどうなるか?
 およそ一週間で培養検査の結果が判明し、この時点で病気の正体が分かります。
 シロの場合は肺膿瘍か肺炎。そのまま治療を続行。
 クロの場合は肺結核。即座に治療方針を変更。
 結核の病棟を持っていない病院だった場合は、他の病院へすぐ移ります。
 ただ、培養しなくては見つからないほどの細菌量なので、療養所へ行っても
 入院の必要ナシと言われる可能性が高く、自宅療養を薦められる場合があります。
 結核の薬の処方については近所の薬局でもできますし、精神的な負担も減るので
 個人的には自宅療養を選ぶのが楽でいいでしょう。

 薬局ではとんでもない量の薬を渡され、かなりの出費があります。
 用心の為2万円以上は用意しておいた方がいいでしょう。

 この段階で、医師・病院は結核患者が出た事を保健所へ報告しなくてはなりません。
 法定伝染病であるということと、治療費の補助を受ける為です。

 自宅療養を選んだ場合、病院を出たその足で自宅近くの保健所へ行きます。
 必要な書類は医師から全て渡されますから、それを持って行くだけです。
 保健所では感染経路に関する事情聴取があり、同居している人や勤務先の人について
 全て説明をしなくてはなりません。
 思い出せる限り全て正直に説明しないと、後で感染者が出た時に一生恨まれますので御注意。

 その後、一か月程度の自宅療養になります。
 自宅療養中は仕事に復帰する事はできません。
 薬の服用によりすぐに咳が治まりますが、効果が安定して結核菌の抑制が始まるまで
 およそ2週間ほど必要です。
 この間、外出はできないものと思って下さい。



薬の種類と飲み方
 結核の薬にはいくつかの処方があるようですが、僕が服用していたのは4剤。
 リファンピシン、エタンブトール、イソニアジド(またはイスコチン)、そしてピラジナミド。
 治療初期はピラジナミドを加えた4剤、3か月目からは3剤、以降6か月目まで毎日服用するのが
 基本的な処方です。
 写真左は1回の服用に必要な量、写真右は60日分の量です。
 
 写真左の薬剤の説明
 (左上の白い袋…ピラジナミド 真ん中の黄色の錠剤…エタンブトール 右上の白の錠剤…イスコチン
  真ん中の白の錠剤…副作用防止のビタミン剤 下のカプセル…リファンピシン)

 これらは全て効き目の強い薬ばかりで、大なり小なり副作用が出ます。
 定期的な血液検査と医師の問診を経て、その都度細かな対処を行い
 可能な限り薬の用量を減らさない方向で治療が進められます。
 薬剤アレルギーの人の場合、これらの薬剤の他にアレルギーを抑える薬が加わります。
 アレルギーを抑える薬は内服と外用の二種類があり、その症状に応じて
 適宜使い分けることになります。

 画像を御覧の通り、これだけの薬を欠かさず続けるにはコツがあります。
 市販のファスナー付きのビニール袋に小分けにすること。これが最大の効果を発揮します。
 我が家ではこれを数十枚確保して投薬管理を行い、最終的に投薬を忘れた回数は1回だけ。
 1回あたりの薬は名刺サイズよりやや大きめの袋に入りますので、御参考まで。

 薬の服用を始めたら、医師の許可なく服用を中止する事はできません。
 結核菌には危険な特性があって、途中で薬の服用をやめると耐性を持ってしまいます。
 結核の治療で最も恐れられているのがこのパターンで、患者が勝手に服用をやめて
 しまい、再発を繰り返して耐性菌をバラまいてしまうのです。
 冒頭で書いた「患者が減らない理由」の二つ目がまさにこれで、勝手な判断で
 服用をやめてしまい、いつまでたっても患者が減らないのです。

 もし治療中に耐性を持ってしまった場合、通常の治療では完治が難しくなり
 最悪は一生療養所暮らし、もしくは死亡という結末が待っています。
 自己判断で服用をやめると確実に人生が終わる事を覚えておかねばなりません。

 耐性菌をバラまいて感染者を出した場合、社会的責任は極めて重いものとなります。
 耐性菌による感染は通常の6か月メニューのプログラムでは治療できず、患者は
 精神的にも体力的にも大きな負担を負う事となります。

 一日3回、それを6か月間。欠かさずサボらず薬を飲めば、結核は完治できます。
 毎日欠かさず続ける事が御近所の平和を守ると言っても過言ではありません。



関係者は全員検査!
 自宅療養をしている間、同居する人や職場の同僚は保健所からの通達で
 レントゲン検査と問診が行われます。
 これは感染源の特定と罹患の拡大を防ぐのが目的です。
 同時に、保健所に渡した書類を基に本人の審議が行われ、結核の患者と認定されます。



公費による補助
 これは2002年5月の時点での情報ですが、結核予防法第34条の規定により
 結核の治療に関係する経費の95%が公費で補助されていました。
 対象年齢は29歳まで。
 患者と認定されると、主治医のいる病院へ「患者票」が送付され、治療費の
 再計算が行われます。
 ちなみに結核と診断される前の医療費(入院費含む)は補助の対象とは
 ならないので、再計算しても戻ってきません。
 再計算と確定申告のために領収書は大事に保存しておきましょう。
 大抵の病院は結核の治療実績が少ないので、患者票が届いていても再計算が
 できてない場合が稀に発生します。
 患者と認定されても医療費が減らない場合は、すぐ医事課へ問い合わせて下さい。

 公費による補助の期間は原則6か月。
 治療が長引く場合はその都度申請手続きを行います。
 なお、治療中は国保(あるいは社保)と34条の規定で計算方法が違いますので
 保険の対象と34条の対象で領収書が2枚発行されます。

 なお、結核予防法は2007年に廃止となり、現在は仕組みが変わっています。
 詳しいことは保健所や関係機関に問い合わせる必要があるでしょう。
 参考リンク→財団法人結核予防会
 また、自治体によっては高額医療費を一時的に貸し付けてくれる制度があります。
 自分の住所を管轄する役所で問い合わせてみましょう。 



やってはいけないこと
 治療中、最低限守るべき事が4つあります。
 一つは禁煙、一つは節酒(できれば禁酒)、一つは薬を絶対サボらない。
 最後の一つは、迂闊に人に喋らない。
 保健所で聞いた話では、結核の治療中である事がバレて職場を追われ、転居する
 事態になった例があったのだそうです。
 まあ、これは結核に対する間違った知識から生まれた悲劇ですが、現代の日本では
 いつでもこうなる可能性は十分にあると言う事です。

 あと、血液検査の項目の中に炎症反応を見る数値があって、過度の運動や疲労で
 この数値が目立って増え、病状の回復が遅れます。
 スポーツが趣味の人は治療中の運動はしない方が身の為です。



治療が終わった後はどうなるか?
 6か月の投薬が終わった後、検診を受けて問題がなければ治療完了となりますが
 その後一定期間、定期的に検診を受ける必要があります。
 検診は最寄りの保健所か掛かり付けの病院のどちらかを選び、決まったら保健所に報告します。
 僕の場合、カルテを一括管理でき、必要な情報をすぐ参照できるという理由で
 掛かり付けの病院で検診を受けていましたが、保健所で検診を受けると費用が
 格段に少なくて済むという利点もあります。
 完治してもレントゲン撮影で影が写るのは避けられないので、毎回変な混乱を起こさないという
 意味では掛かり付けの病院を選ぶのが最も賢明な判断だと思います。

 病気の状態によっては、完治しても後遺症が残る場合があります。
 患部が胸膜の近くにあった場合、疲れた時や風邪をひいた時にその部位に
 違和感を感じたり、稀に痛みを発する事があります。
 これについては人によって症状の出方が異なるので、心配な時は必ず主治医に
 相談して、指示を仰ぐと良いでしょう。



医療に関する情報
 最近ではカルテやフィルムの写しを実費で貰える病院が多いですから
 定期検診が終わったら早めに手に入れておくといいでしょう。
 特に胸部レントゲン写真のコピーは定期健診の時によく使います。
 病院によって医事課か主治医のどちらかが窓口になりますので、是非尋ねてみて下さい。
 治療記録の受取人は患者本人に限定されます。受取りの際は御注意を!