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はったりオーディオ研究室
iPodのDockケーブルを研究してみる。

 以前、雑記でiPodのDockコネクターについて書いたことがあった。
 まったくの趣味で市販品に匹敵する機能と外観を持つ変換ケーブルを作った話だ。

 最近サーチエンジンを経由してそういった記事を探しに来る人が増えたので
 ごく簡単に基本的な話をまとめてみることにした。
 詳しい記事は他にいくらでもあるから、我が家がそこまでする必要はない。

 DockコネクターというのはiPodの入出力をまとめた専用の端子で、ごく初期の
 製品とiPod shuffleを除く全製品に装備されている。
 全部で30本のピンが用意され、ライン入出力やデジタル出力、USBやFireWireまで
 多種多彩な信号がこれひとつで扱える。

 検索でここへ来る人の多くは、その中でもライン出力を引き出してアンプへ入力する
 方法を求めているか、あるいはライン出力で直接ヘッドフォンを駆動する方法を探して
 ここへ来ているか、大別するとその二つに分けられる。
 どっちにしても、結果的にDockアダプターを自作することには変わりないので
 ここへ辿り着いてしまうという訳だ。

 さて、この記事を読んで自作に掛かる前に、各自気を付けてほしいことがある。

 Dockアダプターを自作するということは、狭い場所に精密にハンダ付けができることが
 必須の条件であり、これが最大の難関となる。
 僅か15mmの幅に30ピン、つまり0.5mm間隔でピンが並んでいる。
 裏側が互い違いに配置されていても1mm間隔の狭い場所に、コテを握ったことのない
 初心者が正確にハンダ付けをするのは不可能に近い。
 しかもコネクター本体はプラスチック製で、長時間コテを当てると間違いなく溶ける。
 ハンダ付けの手順によってはピンを差し換える場面もあるため、ピンを差し間違えて
 iPodが故障する危険性もある。

 また、この記事は個人が独自に解析した上で自己責任において実験をした結果であり
 記述の内容には間違いが含まれている可能性がない訳ではない。
 これを用いた事により事故や損害が発生しても当方では一切責任を持たないし
 掲示板での初歩的な質問にも一切応じることはできない。
 各自覚悟の上で作業にあたってもらいたい。

 まず、Dockコネクターの30ピンのうち自作で最低限必要なのは、音声関係の2,3,4ピン。
 機種によっては11ピンと15ピンの短絡処理も必要になる。
 充電やデータ転送の機能が欲しければ、更にUSB関連の16,23,25,27ピン。
 クルマの電気系統と直結する場合は19,20ピン、それと29,30ピンが必要だ。



■ iPod ピンアサイン(簡易版)

 2 - 音声・映像のGND
 3 - ライン出力(右)
 4 - ライン出力(左)



 8 - コンポジットビデオ出力


 11 - Serial GND or AUDIO_SW



 15 - GND (-)
 16 - USB GND (-)


 19,20 - FireWire Power +12V DC
 21 - Accessory Indicator/Serial enable
 22 - FireWire Data TPA (-)
 23 - USB +5V DC (+)
 24 - FireWire Data TPA (+)
 25 - USB Data (-)
 26 - FireWire Data TPB (-)
 27 - USB Data (+)
 28 - FireWire Data TPB (+)
 29,30 - FireWire Ground (-)



 11ピンは機種によってSerial GNDかAUDIO_SWになっており、第5世代以降のiPod nanoを
 使う場合はこれと15ピンを短絡しないと音が出ない。
 それ以前のiPodでは短絡の必要がないため、単純に2,3,4ピンのみを結線すれば
 ライン出力の恩恵に浴する事ができるはずだ。

 一部機種では11ピンと15ピンを短絡した後、68kΩを介して21ピンに接続すると
 警告メッセージが出なくなるようだが、我が家では未確認である。
 (未確認なので何の警告なのかは知らない)
 21ピンはアクセサリー類の識別に使われており、用途によって抵抗値や接続が変わる。
 抵抗器は一般的な1/4W型では大きすぎて扱いにくいので、より小型の1/6W型か
 1/4Wの小型仕様を選ぶと良い。

 なお、8ピンにはコンポジットビデオ出力が用意されているが、iPod本体と
 アクセサリーの間で何らかの通信が行われ、接続が確立されないとビデオの信号が出ない。
 信号自体は比較的単純だが、仕組みを自作するには膨大な手間と時間が掛かるし
 解析のための高価な機材も必要なので、おとなしく市販の既製品で
 済ませた方が安上がりになる。

 これらを踏まえて2009年末に初めて制作したのがこのバージョンだ。

 iPod Dockアダプター Ver1.0
 
 画像左側が1ピン、右側が30ピン。
 真ん中の黒い電線で短絡してあるのが11ピンと15ピン。
 ケーブルはJVCの市販品、コネクターは市販の充電用ケーブルから流用。
 使い勝手の良さと美麗な外観を重視して作ったので、蓋を閉めれば誰も自作品だとは
 気付かない。

 しかし、ライン出力を使うと気になるのが、電池の消耗の早さだ。
 連続で7時間か8時間ぐらいが安心して使える限度である。
 こうなると充電機能やデータ転送の機能も欲しくなる。

 そこで、正月早々に同じ充電ケーブルを買って更に機能を追加したのがこれだ。

 iPod Dockアダプター Ver2.0
 
 これひとつでデータ転送と充電、ライン出力の三つに対応する。
 特に充電とライン出力が併用できるので、電池切れの心配がない。


 ここまでやると、今度は小型で軽量なものを作りたくなる。
 iPodのライン出力はヘッドフォンを直接駆動できるパワーがある。
 これを使わない手はないと考えたのだ。

 運良く、基板実装用のヘッドフォンコネクターが手に入った。
 これを使って超小型化を実現してみる。
 手に入らない人は携帯電話のヘッドフォンアダプターなどを探して
 こういった部品をみつけると良い。

 
 Dockコネクターの配線が終わり、配置を決めているところ。
 左上の四角い樹脂のパーツが、今回の鍵を握る。

 iPod Dockアダプター Ver1.5
  
 我が家では通称「直結バージョン」と呼んでいる。
 機能的にはVer1.0を小型化した仕様になり、前述の樹脂パーツが端子の固定と
 目隠しを兼ね、分解が簡単にできるようになっている。
 また、品質の良い配線を極限まで短く使うことで音質への影響を最小限にする狙いもある。

 電線はベルデンの8503、ハンダはkester44を使ってみた。
 たまたま手元にあったから使っただけで、これがどのような影響をもたらすのかは
 分からない。
 Kester44は国産のハンダに比べて流動性が悪く酸化が早いので、温度調節式の
 コテを使うことをお薦めする。

 蓋を閉めた状態。
 
 市販の廉価品みたいな質感とデザインだが、悪くはない。
 むしろ気軽さと使い勝手の良さが見事に表現できた、と思う。
 中の樹脂パーツを白い素材で作って色調を統一したので、市販品のような雰囲気に
 まとめることができた。
 ここが意外と大事なポイントで、うっかり黒い素材を使うと素人の自作品みたいな
 雰囲気になってしまう。


 使用中のイメージ。
 
 とにかく便利。ちょっと使いたい時はいつもこれだ。
 あまりに小さいので時々置き場所が分からなくなるのが問題だ。

 ライン出力は想像以上にパワーがあるので、どうやって絞るのか悩んでいる人も多いが
 ボリューム付きの延長ケーブルで割と簡単に解決できる。
 画像に写っているのはJVCのCN-M30Vと、これまたJVCのHP-FX500。
 可変幅は狭いがこれで結構実用になる。

 こだわる人はオーディオ用の50kΩのAカーブで2連のものを買って、ネットを検索しながら
 試行錯誤すると良い。
 減衰器の作り方のいい勉強になる。



 iPodにはFMチューナーを内蔵する機種がある。
 我が家の5代目nanoもそうだ。
 しかし、FMを聴くにはヘッドフォン端子に何か差さっている時で
 しかも電波が受信できる場合に限られる。
 何とかライン出力でFMの音が出せないかと考え、こんなものを試作した。

 iPod Dockアダプター Ver1.6 5th nano専用モデル
 
 Ver1.5の直結機能はそのままに、FMチューナーも利用可能にし
 さらに外付けだった音量調整を内蔵した。
 アンテナとしての機能を持たせるため、ヘッドフォンプラグのGNDと
 Dockコネクターの2番ピンを接続してある。
 アダプターに接続したヘッドフォンやラインケーブルのGND側が
 そのままアンテナの機能を果たす。
 音声は3,4ピンのライン出力をボリューム経由で出力する。
 ヘッドフォンのL,Rはオープンにしておく。

 電気的には割と簡単だが工作精度がシビアなため、非常に作りにくい。
 紙一枚分でも端子がズレると絶対に差し込めない。

 当初、USBも追加するつもりで作業を進めていたのだが、ケースが狭くて
 自分の技術ではちょっと無理だったので断念した。
 もしかすると、手順さえよく練っておけばUSBのミニB端子ぐらいは何とか
 組み込めたかも知れない。



 (おまけ)
 iPod Dockアダプター Ver0.5
 
 技術試験を兼ねて作った最初のプロトタイプ。
 現在、端子と電線はVer1.6に全て流用されている。