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はったりオーディオ研究室
昔買ったICでアンプを作る。


 

 部品箱の中から昔買ったICが出てきたので、今回はこいつで
 使い勝手の良いアンプを作ってみることにする。

 東芝、TA7232P。
 御丁寧にデータシートまで一緒に入って350円。
 1994年か1995年、秋葉原の千石電商で買った。
 何でこれを買い置きしたかはよく憶えてないが、テレビかゲームの
 音声をステレオ化するのに買ったような、そんな気がする。
 当時、我が家にあったテレビは音声がモノラルだった。

 データシートの解説の通りだとすると、この石はミュート回路内蔵で
 ポップノイズや遅延回路のことを考える必要はなさそうだ。
 我が家には遅延回路を組むための資料や部品がなかったので、ミュートを内蔵する
 素子であれば設計が簡単であり、細かな調整に専念できることになる。

 今回はほぼデータシート通りの設計で目的に近い音質が出ることが分かったので
 試作の基板をそのまま搭載する。
 ただ、音がトゲトゲしく落ち着きがない。
 iPodのヘッドフォン出力ならこれでベストなのだが、ライン出力を直接繋ぐと
 途端に下品な爆音を放ちはじめる。
 この音はたぶん増幅率か入力レベルの問題だろう。後で何とかしよう。

 このICは出力側にケミコンが入る構造になっている。
 最近のアンプでは敬遠されがちな回路だ。
 この手の回路はケミコンをケチるとあからさまに音が貧相になるので
 大容量のOSコンを投入して改善を図ろうとしたのだが、高域の輪郭や
 奥行きの表現が甘くなる問題が出た。
 いわゆるカーテンの掛かったような見通しの悪い音質だ。
 現在はニチコンのMUSE KZに交換。(25V,470μF)

 OSコンは電源ラインで増幅部の直近に配置するのが定石であり
 出力側に配置するのは良くないのかもしれない。


 
 ICはSIP構造で放熱用のタブがついている。
 薄く小さなケースに組み込む関係で、内部もそれを意識した配置にする。
 放熱板は面積を稼ぎつつ高さを抑え、背の高いケミコンは横に寝かせて
 取り付けることで、ケース上部に空間を確保する。

 放熱板は余り物のアルミ板の再利用。
 基板は部品箱で余ってたのが2枚、これを増幅部と電源部で1枚ずつ使っている。
 部品も殆どが半端物の余剰品かデッドストックだ。
 OSコンだけが無駄に豪華に見える。


 
 今回は電源回路を外付けにし、ノートPCのACアダプターを使う。
 入力20V前後、出力12Vの計算で設計している。
 例によってケミコンは前後4パラ。前段35V、後段25V耐圧のものを選択。
 もちろん放熱器は必須。

 

 いつもはタカチのケースを使うが、今回は手元に余っていたテイシンのケースを
 使っている。

 ケースの穴あけ加工は放熱のため。
 穴のレイアウトは方眼紙で決めるのが一番簡単で、ケガキ針でマーキングしたら
 下穴をピンバイスでまっすぐ開け、電動ドリルで所定のサイズに仕上げる。
 見た目や開口部の面積を見ながら段階的に穴を大きくするのがポイント。
 仕上がりに格段の差が出る。
 
 
 全体の様子。
 なかなか良いまとまり具合だ。
 電源と入力を目一杯両脇に寄せるのも、いつも通り。


 組み込みが終わったところで、試作段階で見つかった問題に着手する。
 データシートの数値と聴感上の印象から、増幅率が高いことが音に悪影響を
 及ぼしているのは分かっていた。
 ここは入力側に減衰器を入れて信号を絞るのが早い。
 オーディオマニアはこういう小細工を嫌うし、見た目に綺麗とは言えないが
 出てくる音さえ良ければ何でもありだ。
 良質の金属皮膜抵抗をきちんと選別し、これをいくつか直列にしておいて
 実際の音質を探りながら調整する。

 
 抵抗値には特に決まった値はない。
 ライン入力だと5kを10個使ったり10kを5個にしたり、そんな感じらしいが
 このあたりは手持ちの部品や好みで決めると良い。
 我が家では2.4kを4個使っている。
 試作品がいい感じの音に仕上がったのでそのまま搭載した。

 
 前後のパネルはケース付属の1.5mmのアルミ板ではなく、2mmのABS樹脂を使用。
 金属粉の飛び散りを嫌って樹脂板にしたものの、切削の手間を考えると
 あまり意味がなかったような気がする。
 左から電源スイッチ、電源ランプ、ボリュームの順に配置。
 スイッチは横向きではなく縦向きの方がわかりやすい。

 
 前面パネルの裏側。単なるアンプなので割とすっきりしている。
 VRはテストの結果、20kのAカーブを使っている。
 今回はごく普通の廉価品を使うが、本来は音質を左右する重要な部品なので
 予算があればちょっと高級なものを選ぶのがオススメ。
 VRのツマミは手持ちの20mm径を採用。大きめのものが使いやすい。

 
 電源ランプのLEDは3mm径を使用。2mm穴を開けてホットボンドで固定してある。
 LEDがパネルから飛び出すとみっともないし、あまり明るいと下品な雰囲気になる。
 抵抗値は実測で1kΩに決めたが、これでもまだ明るい。
 もう少し大きな値が良かったかも知れない。


 

 裏面の様子。
 スピーカー端子はスペースの都合でGND側を共通にし、電源はDCジャックを
 経由してACアダプターから給電する。
 文字類は大雑把にシール台紙に手書きで済ませたが、どうせ自分用だし
 裏は誰も見ないのでこれで十分だ。

 さて肝心の音質だが、入力を適正なレベルまで絞ることで
 下品な感じは消え、元気で明瞭な音に変わった。
 16cmか20cmぐらいの良質なフルレンジ一発で十分な音が得られる。

 このアンプ、おそらく減衰量によって音質が大きく変わると見た。
 ジャンルによってはもう少し減衰量を増やした方がいい感じになるかも知れない。
 回路的には単純なアンプが2回路入っている構造のようなので
 入力側にLPFを追加するとか、出力側でNFBを掛けるなど
 様々なバリエーションが考えられる。

 入力がないときのノイズはごく僅かで、スピーカーの近くでも殆ど聞き取れない。
 もちろんポップノイズも皆無だ。遅延回路を入れる必要はない。