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はったりオーディオ研究室
安く使いやすく小さなアンプを作る。


 きっかけは、Macのモニターに使うスピーカーを買ってきたこと。
 そこから全てが始まった。
 
 エレコムの製品で「木のスピーカ」ってやつがあるのだが、あれを買った。
 ネットでそこそこ評判いいみたいなので、これなら何とか使えそうだと思ったのだが‥‥。

 
 試聴してみた印象は、どうにも中途半端で使えない、という感じ。
 低音はいい感じに出ているようだが、他がまるでダメ。
 音の輪郭が甘過ぎるのと、音色が何となく貧相な感じ。
 しかも、かすかにハム音が出ているのが我慢ならない。

 
 分解してみて驚いたのは、電源回路の設計と配置があまりにお粗末だったこと。
 増幅回路の真後ろにすぐトランス。くっつきそうなぐらい近いのには参った。
 過去の経験から考えると、音が貧相なのはトランスの鉄芯が小さいか
 トランス自体の容量が小さいからで、輪郭が甘いのはドライバーか匡体の設計に問題があるからだ。

 この後、電源回路を解析して更に驚くことになる。

 
 増幅回路はまあまあ、量産の安物にしては頑張っている方だ。
 コンデンサーを全部取り替えたら音質が良くなるだろうか、と考えるが
 とりあえず今回はこのままにする。
 そのうち気が向いたら手を入れるかも知れない。

 
 電源回路を解析したのがこの図面。
 今どき素人でも作らないようなビックリ回路だ。
 ダイオードの品質も悪いし、コンデンサーの容量も少なすぎ。ヒューズの配置も容量も間違っている。
 で、除去しきれないリプルがアンプに入り込んで、それがハム音の原因になってしまう。

 
 音が悪いのは電源の問題だと判明した所で、新しい電源回路を設計する。
 コンデンサーを前後4パラにしているのはリプル除去だけでなく、電源のインピーダンスを
 下げて増幅回路本来の性能を引き出す効果がある。
 この回路では整流後の電圧が約22Vあり、前段のコンデンサーの耐圧がやや低い。
 耐久性を考えると前段35V、後段25Vにするか、トランスの二次側で12V出るものを
 使うと安全かと思う。

 図面だけで見れば一見過剰で豪華な設計に見えるが、これで間違いなく良くなる。

 
 部品を買うのはいつも、秋葉原の千石電商。
 店内では、ケースのサイズとトランスのサイズで小一時間悩む。
 秋葉原に部品を仕入れに行くなら日曜の午前中に行くのがコツで、うっかり昼過ぎに
 行こうものなら汗臭いオタクの群れに辟易することになる。

 
 回路図に従って作ったのがこれだ。
 余裕のあるレイアウトのようだが、実は全ての部品が最短距離で配置されている。
 ホットボンドで固定してあるのはネットで見聞きした音質向上を狙ったテクニックだが
 あってもなくても違いはない。(ボンドは後で取ってしまった)
 レギュレーターのヒートシンクは必須。何もないと結構発熱する。

 
 電源基板の裏側。
 部品の大きさや規格の関係で、プラスが外側、マイナスは内側になっている。
 発振防止のセラコンはレギュレーターの直近に配置するのが原則。
 一応、マイナス側の配線は一点アースに準じたデザインにしてある。

 
 元々の基板から電源回路を撤去、そこに電源基板から来た12Vの直流を直結する。
 左右から伸びるケーブルは音声関係。
 できるだけ太い線を使うため、根元をボンドで補強してある。
 基板のパターン面も再配線で容量を稼ぐ。
 あまり細い線で長々引き回すと音が明らかに貧相になるので、こうした改造が必須だ。

 
 加工の終わったケースに組み込む。
 一見余裕たっぷりに見えるが、組み立てや分解をする隙間がほとんどない。
 組み立てにはかなり頭を使う。

 
 組み上がった内部の様子。
 画面上に音声関係、画面下に電源関係のケーブルをまとめた。
 いつもはケースをGNDに落とすのだが、今回は接続していない。
 ノイズループが出来てハム音が出る可能性を考えたからだ。
 アルミケースは加工に手間が掛かるので、プラケースでも良かったかも知れない。

 トランスはできるだけ大きなものを選び、電源を徹底的に安定化し、ケーブルの配置を
 音声から目一杯離すことで、貧相な音色やハム音の追放に成功。
 ヘッドフォン使用中にもノイズは一切聞こえない。
 仕上がりは上々だ。

 
 ケースの背面側の様子。
 本来ならR、Lの配置にすべきところをL、Rにしてしまったのは失敗だった。
 スピーカーの接続がちょっとやりにくいが、まあいいだろう。
 このアングルから、フロントパネルの固定の様子が見える。

 組み立て中にヒューズホルダーと主電源スイッチを追加し、安全対策を強化した。
 主電源を切るとアンプの電源供給が全て停まる。
 長期間使わない時は切っておくと待機電力の削減になり、発火事故も防げる。

 
 ケースの正面の様子。
 フロントパネルは元々付いていたのをそのまま使い、裏側からホットボンドで固定。

 さて肝心の音質だが、激変と言っていいほど良くなった。
 貧相でとらえどころのない改造前とは違い、全域に渡って力強く躍動感のある明瞭な音になった。
 特に、ボリュームを絞っても低音の量感が失われなくなったのは大きな驚きである。
 深夜にJAZZをBGMに流すにはまさにもってこいの性能である。
 じっくり聞き込むと細部の表現が甘いことに気付くが、元々の惨状に比べれば
 僅かな違いでしかない。

 今回は「アンプの自作」というほどの作業ではないかも知れないが
 電源回路の改善によって音が激変した記録として、作業内容を公開することにした。
 アンプにクリーンな電源を用意するのがいかに大事なのか、よく分かるはずだ。
 ケース加工や家庭用の100Vを電源にする関係で誰にでも勧められる改造ではないが
 もし同じ型のスピーカーを廃棄しようとする人がいたら、捨てる前に試してみて
 損はないと断言する。
 次元の違う音に驚くに違いない。