2017年ザ・レジデンツの来日公演を自分の視点からまとめたものです。
掲載写真も私が撮影しました。
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■ ブルーノートで3日間計6ステージ
2016年11月24日、バンド仲間でもある友人からのLINEで、ザ・レジデンツ来日のニュースを知る。
32年振りの来日公演自体にも驚いたが、場所がブルーノート東京で3日間6ステージを行うということにも驚いた。
レジデンツには似つかわしくない場所に思えたからだ。
1985年、レジデンツの初来日でパルコ公演3日のうち頭から2公演に通い、後から3日目だけ観なかった事を後悔した私に今回選択肢は無かった。
「全6ステージ観る。」
きっと判で押したように同じ内容である事は想像できたが、今の自分には「観なかった事を後悔する」より「観た事を後悔する」方がましだった。
ブルーノートからは、目玉人間x4人のビジュアルが発信され、隠れレジデンツ・ファン達が次々と表に浮上し始め驚きと喜びをツイートし、来日を歓迎した。
正直なところ最初は半信半疑だった来日公演が、日が経つに連れ現実味を増してきた。
■ 来日公演のビジュアルは?
レジデンツは来日に向け、新たなショウを組み立てて来ることがわかってきた。
私を含めレジデンツのライブを観に行く人の期待値のおそらく50%は
<動く目玉人間を生で見たい>
という事が占めていると思う。
だが近年の彼らのライブには目玉人間は現れていないのが周知の事実。
それでも
<今回は新たなショーだし、もしかしたら?>
という期待もあった。
しかし来日前に開催されたDOMMUNEのイベントで
『IN BETWEEN DREAMS』
の新たなビジュアルが世界初公開された瞬間、その期待は夢に終わる。
レジデンツは客に媚びること無く、純粋に彼等自身の為の新しいコンセプトを考えていたのだ。
それはアーティストとして正しい姿であり、私は牛男 & ペストマスクたちを素直に受入れることにした。
近年のステージ・キャラクターの中では比較的見栄えも良くインパクトも大だ。
奇しくも1985年と同じ状況。
日本にいる我々は、世界でまだ誰も見た事の無いレジデンツの新たなショウの第一目撃者となる権利を与えられた。
会場のブルーノート東京の入口には、いつものJazzミュージシャンと同じ扱いでレジデンツのサイン入りポスターが飾られている。
本当にレジデンツのライブがここで始まるのだ。
初日1stショウ、整理番号2番の私はいつものように、下手側自由席最前列に着席した。
ここはサウンド的には不利で、ステージも斜めから観る事になるのだが、花道を通るアーティストと最接近出来る場所だ。
ステージ上の下手側には、大きな球状のオブジェが鎮座しており、ステージ背景はプロモフォトで見たペストマスクたちの衣装と同じ、水色と白の菱形模様の布で覆われている。
その布の所々には目玉アイコンが配され、本来Jazzのメッカであるここブルーノート東京が、蔦の絡まる古城のようにレジデンツという異文化に侵食されているかのように思えた。
■ 3月21日(火)初日1stショウ: まずは喜びを噛み締める
会場に流れる不穏なBGMはやはりレジデンツのものか?
照明が暗転しBGMがやや大きめになると、少し間をおいて後方より客席を通って4人のレジデンツがステージに現れた。
その姿はやはり事前に公開された全身牛柄タイツの男とペストマスク3人だが、それぞれステージ用に形状がアレンジされている。
まずは照明が明るくならないまま、球体にプロジェクションが投影され、ライブのイントロダクションが始まった。
数分の語りの後、ドラマティックなキーボードのイントロと共に演奏がスタート。
牛男はボーカル、ちょっとお腹の出たペストマスク男はキーボード、長身のペストマスク男はギター、そしてやや小柄なペストマスク男はドラマーだ。
近年のレジデンツは、このようにドラマーを従えたバンドの形をとって演奏しているところが、1985年来日公演の頃とは大きく異なる。
ドラマーは打ち込みに頼りそうなパートもちゃんと叩いているし、曲によっては右手にある小さなキーボードも操作して音を加えていた。
ショウは、数曲演奏すると合間にプロジェクション投影が行われる形式で進んでいく。
初回はあまり何も考えずに、レジデンツを再び生で観れる喜びを噛み締めようという意識で鑑賞した。
とにかく世界で誰も観た事が無いショウを初めて観ているのだから。
経った時間もよくわからないまま、どうやら本編最後の曲が終わり、メンバーが観客に挨拶する。
いつもであればアーティストはアンコール前には客席を通って一度控室に戻るのが常だが、マスクを被っている彼らは暗い中での長距離移動は避けたかったようで、ステージ下手にあるスペースに一度引っ込んで、観客のアンコール拍手中ここに待機した。
私は往生際悪く
<ここで目玉に着替えて出てくるかも知れない>
と密かに期待したが、ほどなくして同じコスチュームのまま4人が再びステージに登場。
2曲のアンコールを演奏し、1stショウを終えた。
観客の拍手を受けながら控え室に戻るメンバーに向かって差し出した手に、牛男は握手を、キーボードにはスルーされたがギタリストとドラマーはハイタッチをしてくれた。
■ 3月21日(火)初日2ndショウ: 客席にレジデンツ?
初日の2ndショウ。今度はステージを正面から俯瞰して観るべく、センターのペアシートに座る。
ライブ開始前の待機時間、前方から何やら店員にクレームを付けている声が聞こえてくる。
見てみると、レジデンツのライブには不相応と思われるご年配のレディーx4人がいらっしゃった。
目玉を被って出てこない事に対してなのか、ずっとマスクをしてるのでイケメンの顔が見えない事に対してなのか
「ちゃんとあらかじめ説明しておいてくれないと、ねぇ〜」
と他の3人に同意を求めるように、期待外れ感漂う言葉が聞こえてきた。
ここでTwitterに書き込まれていたr_isさんのツイートを取り上げたい。
r_isさんは同行者と「あの4人がレジデンツなんじゃないか?」と話したそう。素晴らしいユーモアだ。
自分以外はレジデンツの可能性があることを付け加えられていたが、言われれば確かにそうだ。
正体不明のレジデンツ、もしかしたら貴方の隣の席でステージを観ていた人が本当はレジデンツかも知れないのだ。
1stショウ前は鑑賞に集中すべく食事はしなかったので、この2ndショウ前にしっかりとスウィンギン・ポテトを頂き、1stショウを反芻する感じで2ndショウを楽しんだ。
構成は1stショウと全く同じだったのは予想通りだった。
1stショウの鑑賞場所では、球体に投影されるビデオが半分しか見えなかったのだが、今回はしっかりと全貌が把握できた。
最初は「Cowboy Dream」というタイトルで、CGで描かれたピエロが、次のパートは「Train wreck Dream」というタイトルで老婆が、「Ballelina Dream」はカウボーイ・ハットの男が自分の見た夢について語るが、どうやら後者はそれぞれマザー・テレサとジョン・ウェインをモデルとしていたようだ。
■ 物販コーナー
物販コーナーでは、旧作品に加え、まだ店頭に並んでいない最新アルバム『GHOST OF HOPE』のCDとLPが販売されていた。
サインを頂くためLPを購入したが、LPには頂けないとのことで、CDも購入。
CDも元々ここで買うつもりで他の店には予約しなかったので、自分としては何ら問題は無かった。
またお馴染み黒の”アイボールT”もあり、並んでいる人のほとんどが購入していた。
見本をさわってみると、昔メールオーダーで購入したものよりしなやかで肌触りの良い生地が使われていたので、結局後日購入することになる。
2日目の1stショウは、再びセンターのペアシート席から鑑賞。
同じ内容のショウを観ていても、毎日新たな事に気が付く。
この時は、曲によってはサウンドが左右にPANされ、空間全体がとても立体的な音響になる事に気が付いた。
どうなってるのだろうと天井を見回してしまったくらい。
いつもブルーノート東京では前の方で観ることがほとんどなので、こんな魅力的なサウンド環境だという事を初めて認識した次第だ。
ブルーノート東京のサイトに初日のレポートとセットリストが掲載されたが、確認してみると最新ライブとしてリリースされている2014年の『SHADOWLAND』からではなく、半分近くが2013年の40周年記念ショウ『THE WONDER OF WEIRD』での演奏曲で構成されていることがわかった。
左:『SHADOWLAND』右:『THE WONDER OF WEIRD』400枚限定2CD
「Loser=Weed/Picnic in the Jungle」「The Man in the Dark Sedan」といったオールド・ファンにとって馴染みの曲もほぼこの時アレンジされたバージョンに近く、後者は知らずに聴いていた時は気がつかなかったくらい原曲とは異なっていた。
SEも含んだ最新シングルからの2曲も演奏。
1985年の来日時にも演奏された「It's A Man's Man's Man's World」とアンコール1曲目の「Theme from an American TV Show」を入れたのは、日本公演を意識してのことであろう。
演奏もスネークフィンガーのギター・プレイを踏襲したもので、"13th Anniversary version"と言っても良いくらいだ。
■ 3月22日(水)2日目2ndショウ: コスチュームをガン見
2日目の2ndショウも整理番号は2番、今度は中央最前列からかぶり付きで観た。
この席だとステージ上の返しの音も良く聞こえ、前述の立体サウンドは背面でうっすら聞こえるという感じだ。
コスチュームもガン見した。
牛男の衣装は、プロモフォトで使っていたのと同じものと仮定すると、細かな改良が加えられている。
元々はスッポリ被って視界ゼロになるマスクは、半分顔が出せるようになっていた。
その顔を隠すためのサングラス、獣の付け鼻と角はゴム紐で顔にかけられている。
手袋では無く衣装の一部として繋がっている手は、右手だけ素手が出せるように、手首に切り込みが加えられていた。
首にはボウタイ、そして腹にはそのセットのカマーバンド。
このカマーバンドはおそらく下着のラインを隠すための目的で着けたのでは無いかと思われる。
足はプロモフォト同様獣の足を履いていた。
ペストマスクの方は、プロモフォトから大幅変更。
演奏をするためにはやはりスッポリと被っている訳にはいかないようで、メンバーは最初に目の部分が開いたマスクを被り、その上から帽子の様にしてペストマスクと白い帽子を乗せている。
目にあたる部分はまん丸のゴーグルのような形状だ。
マスクの色は白だが、やや古く見せるようウエザリングが施されている。
嘴の裏側もちゃんと塞いであり、手抜き感は全くない。
このペストマスクを被った3人は演奏中ほとんど自分の立ち位置から動くこと無く、視線はやはりVoの牛男にいってしまう。
さすがに最前列だけあって、牛男との最接近距離は約40cmだ。とても迫力があった。
初日2ndショウは、拍手のタイミングをつかめない客が多かったようで、明らかに1stショウより拍手の回数が少なかったが、逆に一番盛り上がったのはこの2日目の2ndショウ。
ジェームス・ブラウンのカバー「It's A Man's Man's Man's World」のイントロが始まるや否や、最前列中央で観ていた私の左側からも右側からも奇声のような歓声が上がった。
牛男もこの曲ではJBばりに観客を煽るように歌うのだが、相乗効果でライブ中一番の盛り上がりを見せた。
いよいよ最終日。3日目の1stショウでは撮影の機会を頂いた。
(本レポートのステージ写真は全て3日目の1stショウである)
それまで4ステージを観ており、ショウの構成は把握しているので、撮影タイミングは把みやすいのが幸いだった。
最初は2階の関係者エリアから見下ろすようにステージを狙う。
ステージ背面中央に輝く「Blue Note Tokyo」のロゴを入れたショットを撮りたかったが、ここからだと天井に張り巡らされた構造物で残念ながらロゴが欠けてしまう。
どちらかというと至近距離からの撮影をイメージしていたので望遠レンズは用意してきておらず、ブルーノート東京の公式レポートに掲載されたGreat The Kabukicho氏の写真のような迫力あるショットが記録出来なかったのが残念だ。
せめて200mm以上のレンズを用意しておくべきだった。
前日、最前列で観た時に、至近距離から煽るような構図で背景のロゴを入れた牛男を撮りたいとイメージしたが、そもそもステージ前エリアでの撮影は認められず、ステージ両サイドと、正面と両脇奥の限られたスポットからの撮影となる。
何とか彼らのカッコいい姿を収めたい一心で、ショット数は抑えつつもほぼフルタイム使って全スポットを動き回った。
Great The Kabukicho氏の写真とは被らないよう、クロスフィルターも使ってみた。
撮影していてあらためて気がついたが、レジデンツというアーティストの性格上暗い照明のシーンが多く、納得のいくショットを得るのはなかなか難しかった。
これまで数々のアーティストのライブ・ステージ撮影を経験して来たが、来日アーティストの初めての正式撮影がレジデンツとなったことは自分にとっては最高のプロフィール。
関係者の方々には本当に感謝の気持ちで一杯だ。
■ 3月23日(木)3日目2ndショウ: レジデンツで睡魔に襲われる
最終日2ndショウは、3度ペアシート・センターに座る。座ったままステージを真っ直ぐ観られる席だ。
1stショウは客として座席は確保していたものの、やはり撮影に夢中になり食事は摂れず。
開演前に、ここでの定番となったスウィンギン・ポテトとサンペレグリノを注文した。
うっかりしたが、最後くらいは祝杯のビールにすれば良かった。
これまでの5ステージと同じイントロダクションで6ステージ目、日本での最後のショウが始まった。
観る方も慣れて来たけど、レジデンツの方も回数をこなすにつれ、安定して来た事だろう。
初日2ndショウから、アンコール1曲目に牛男だけ待機コーナーに残るようになった事以外は、ステージングが変わったと気がつくところは無かった。
1stショウでの撮影の緊張感が解かれたせいか、こともあろうにライブ中に睡魔に襲われた。
普通の人が聴いたらやや不快にも思われるかもしれないようなレジデンツの音楽、私は1985年の彼らの初来日を観て以来、彼らの音楽に浸るようになったが、ある日突然彼らの音楽が気持ち良くなった。
よく噂に聞く"ランナーズ・ハイ"のような現象に思えた。
そして今、実際のレジデンツがいる空間で、気持ち良く意識が朦朧とし始める。
生演奏中に...なんと贅沢なことだろう。
これ絶対α波出てる。他にも首をうな垂れて目をつぶっている人もいたくらいだ。
この日の1stショウでは、客はやや大人しめに感じたが、この2ndショウは「It's A Man's Man's Man's World」や「Theme from an American TV Show」で2日目2ndステージ同様、観客が大いに盛り上がった。
そしてついに日本公演のオーラス、牛男が絞り出すような声で叫ぶ「Die! Die! Die!」で幕を閉じた。
ついこう書いたが、実際はステージ幕降りず照明が明るくなって、お辞儀と手を振るレジデンツに観客は惜しみなく拍手を注いだ。
こうして3日間6公演が無事に終了した。
レジデンツ公演の翌週、女性ベーシスト:エスペランサのライブを観に、再びブルーノート東京へ足を運んだ。
フロントで、前週預けてあったレジデンツの『GHOST OF HOPE』CDを受け取る。
期待通りレジデンツは、ちゃんとサインを入れてくれていた。
わざと震えたように書かれた「to FROGFINGER」という文字を見て、本名を入れてもらうより嬉しく思った。
正直なところ、ブルーノート東京で3日間は(レジデンツだけに)さすがに客席が埋らないのでは?と心配していたが、蓋を開けてみれば連日連夜ほぼ満員。
あらためてレジデンツへの関心の高さに驚いた次第だ。
また一人で来ている女性を結構見かけたことも驚きに値した。
今回レジデンツを観ることが出来た観客は、どう受け取ったのだろうか?
感無量だったのか?期待外れだったのか?そのどちらでもない言い表せないような感じか?
私自身は、理性が「レジデンツのライブを生で観ることが出来た」という事実を価値に挙げる一方で、実際は混沌とした状況を引きずっている。
英語の理解力不足もあり、6回観ても彼らがパフォーマンスで表現したかったことを100%理解できたわけではないし、
どちらかというと、謎が多く残った印象だ。
しかしこれは1985年彼らの初来日公演を観た後と似ている。
あの時もわからない事だらけで、そこからレジデンツの過去作品への探求が始まった。
そして今、自分の関心は、買うだけ買ってろくに聴いていなかった2000年以降のレジデンツ作品を紐解くことに向いている。
これらを理解することにより、なぜRandy RoseとCharles Bobuckというキャラクターが生まれ、今回の『IN BETWEEN DREAMS』に至ったのか、全てが解明出来なくても現時点よりレジデンツの真実に近づけると思うのだ。
そしてそれを一通り終えたうえで、今夏公開予定の映画『めだまろん/ザ・レジデンツ・ムービー』を堪能したい。
(終わり)Ver1.2 May 8 2017
本鑑賞記を作成するにあたりご協力いただきましたブルーノート・ジャパン様、お名前を書かせていただきましたGreat The Kabukicho様、ネタをご提供いただきましたDOMMUNE関係者の皆様、ネタを引用させていただきましたr_is様に感謝いたします。
ならびに、このくどい鑑賞記を読んでくださったあなた、そしてザ・レジデンツにも御礼を申し上げます。
ありがとうございました。