この文章は、2011年にハヤブサ・ランディングスからリリースされた
ザ・レジデンツ「アイボール・ショー」ライブ・イン・ジャパン
紙ジャケCDのライナーノーツに「frogfingerのレジデンツ鑑賞記」として掲載された、1985年来日公演のレポートです。
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知名度の低さを十分理解していたからこそ朝刊に載った彼らの来日告知を目にした瞬間には驚嘆せざるをえなかった。
企画の発信地六本木WAVEのビル壁面には目玉人間の巨大な懸垂幕が掲げられ、今まで存在すら知らなかった人たちにもレジデンツへの関心が持たれるようになった。 何といっても日本ではアニメで慣れ親しんだキャラクターとそっくりでもあったから。 ネットも普及していない時代につき、京都公演の内容も知らないまま東京でのレジデンツ公演に2日間足を運んだ。 |
ライヴは、レジデンツの歴史を振り返るように過去の曲がメドレー形式で演奏されていく。
しかしそのほとんどが、歪められてアレンジされており、特徴のあるフレーズや聴き覚えのある歌詞の一部で曲が判別できるような状態だ。
ステージには期待通り、サウスポーのギタリスト:スネイクフィンガーも立っていた。前回のツアー“モール・ショー”に彼は参加していないので、スネイクフィンガーがレジデンツのライヴにジョイントするのは実に9年振りのこと。
随所でEBowを巧みに操り、テルミンのような浮遊感のある音を出しながら、気ままでアバンギャルドなギタープレイを聴かせてくれた。
東京公演2日目は、昨晩のオールスタンディングとは異なり、客席の床一面に座布団が敷かれていた。そう、『アイボール・ショウ』に記録されたこの日、客は床にあぐらをかいてレジデンツのパフォーマンスを観たのである。(まるでアングラ劇場。)
ショーが進むうちに、演奏は一人(+スネイクフィンガー)、ボーカルが一人、そして残りのふたりはダンサーという役割がはっきりしてきた。そしてこのダンサーたちはボディーラインから女性であることもあからさまであった。
さらにボーカリストは、変装をしているものの最後には素顔に近いところまで自らをさらけ出したのだ。
これまで秘密のベールに包まれてきたレジデンツのここまでの露出度には正直驚かされた。
両日共に目に焼きついているのはアンコール最後での演出。
ギター・ソロに入ったスネイクフィンガーは、曲が終わったにも関わらず気が付かないフリをし、目をつぶって自分のプレイに没頭し続ける。そこへ4人のレジデンツがスネイクフィンガーを囲むように集まり、ポンポンと彼の肩を叩きショーの終わりを伝える。
“アイボール・ショウ”はそんなユーモアたっぷりの微笑ましいエンディングで幕を閉じた。
誰がメンバーで誰がスタッフかわからないようにするくらい徹底して正体を隠していると言われていたレジデンツが、ステージ上では極限まで個をさらけ出した。これは彼らのミステリアスな部分にも魅力を感じていた自分にとっては少しショックなことであった。
しかしその状況に直面して理解できた。目玉人間はレジデンツそのものではなく、レジデンツというグループを表す偶像であることを。つまりレジデンツにとって誰が目玉を被っているかなどということは、あまり重要なことではないのだ。こうして彼らの匿名性は維持される。レジデンツは100年でも200年でも生き続けることができる、世界随一のグループなのである。
山本 英 a.k.a. frogfinger(2011/09/05 V3)
ザ・レジデンツ「アイボール・ショー」ライブ・イン・ジャパン HYCA-2050
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後記(2017年3月)
ザ・レジデンツは滅多に来日の機会は無いアーティストです。
今回の来日公演(演奏の無かったプロモーション来日を除く)は、実に32年ぶりです。
私は1985年の東京公演3日間のうち、最初の2日間を観に行きましたが、後から「3日目も行くべきだった」と後悔しました。
仕事でご都合のつかない方、東京にお越しになるのが難しい方、ご家族の都合がある方、さまざまな環境で
「観に行きたくても、いけない」
と嘆いている方も大勢いらっしゃると思います。
無理にとは申しませんし、私は今回の公演の内容を保証する立場でもございません。
しかし少しでも行ける可能性があって、どうしようか迷っているところなら、今回のブルーノート公演に足を運ぶことをお勧めします。
...「後悔先に立たず」です。
2017年ザ・レジデンツ32年振り来日公演、ブルーノート東京にて