『THE THIRD REICH 'N' ROLL』のレコードA面は「SWASTIKAS ON PARADE」、B面が「Hitler
Was A Vegetarian」と題され『MEET THE RESIDENTS』に収められたナンシー・シナトラの「These
Boots Are Made For Walkin'」のように、レジデンツ流に歪められた数々のヒット・ソング(中には
そうでないものもあるが)で構成されている。
ここからその原曲が何であるのか見出すのは、たやすいことではない。
レジデンツの作品にとり付かれた私は、いつしかここに収められた曲の原曲を探し出す「研究」を
始めてしまった。
最初は自分の耳と知識をもとに判断するしかなかったが、1997年頃ファン・サイトに曲名の情報が
掲載され、その原曲を手に入れ、確認作業も行うことができた。
しかしファン・サイトに掲載された情報は、「たぶんこうではないか?」というものも含まれており、
不完全であった。
その研究もすべてを解明できないまま頓挫していたが、久々に探ってみるとWikipediaにファン・
サイトの掲載情報をベースにしたアップデート情報が載っているのを発見。
この機会に研究を再開し、現時点での分析結果を綴ってみることにした。
SIDE A:SWASTIKAS ON PARADE
冒頭、軽快なドラムでスタートする曲は、
●「Let's Twist Again」Chubby Checker
この曲は英語だけでなくドイツ語で歌われたバージョンがあり、レジデンツはこれをそのまま
サンプリングして使っている。
歌が始まろうとした瞬間に挿入される、金属をこするような不気味な音の繰り返し。
私はこれを当初ピンク・フロイドの「Money」のイントロにあるキャッシュ・レジスターとコインの
音のコラージュを模したものと予想していたが、Wikipediaに掲載されたアップデート情報により、
自説が間違いであることが判明した。正解は
●「Monster Mash」Bobby "Boris" Pickett
で、iTunesストアで確認したところオープニングにモンスターの足音とおぼしきサウンドが入って
おり、これが元ネタであると確証できた。
ちなみに収録CDを探して購入してと確認という90年代の作業の煩わしさに比べると、iTunesで
検索してその場で購入確認できるようになったのは格段の進歩だ。
続いてポリネシアン・リズムと共に始まるのは、
●「Land of 1000 Dances」
オリジナルはChris Kennerで、Wilson Pickettの十八番としても有名であるが、印象的な「ワン、 ツー、スリー」が引用されていないことと、ややゆったりめの演奏速度から、ここではCannibal and the Headhuntersのバージョンが元ネタとの説が有力である。
次の展開に行く前に、誰にも語られていないであろう持論がある。
このポリネシアン・リズムの終盤にギロの音が絡んでくるのだが、この入れ方と打楽器の音が、
▲「Thing This All Together」The Rolling Stones
の中盤にそっくりなのである。私はこの曲も構成要素に入っていると確信している。
インディアン・ソングのようなメロディを奏でるピアノから次の展開に移行するが、歌われるのは、
●「Hanky Panky」Tommy James and the Shondells
ピアノのメロディはこの曲をアレンジしてこうなったのか、また違う曲の引用なのかは不明である。
しばらく歌とピアノが繰り返された後、不安定なシンセの音で、
●「Double Shot Of My Baby's Love」The Swingin' Medallions
のメロディが始まると共に、
●「A Horse with No Name」America
の「Na-na-na...」というコーラスが重ねられる。大半が60年代のヒット曲のテーマの中で、
この曲だけが70年代に入ってからのもの。
このコーラスと入れ替わるように、「Double Shot Of My Baby's Love」が歌われる。
この曲は、後にレジデンツのアルバム『GOD IN THREE PERSONS』のメイン・テーマとして再び
取り上げられることになる。
次に戦闘機飛行音のサンプリングをかき消すように飛び込んでくるのが、ダミ声で歌われる
●「The Letter」The Box Tops
エンディングはシンセに引き継がれ、曲は一度ここでブレイクする。
次にちょっと口で歌ってるようにも聞こえるギターのリフで始まるのが、
●「Psychotic Reaction」Count Five
続いて車のスリップ音、クラッシュ音から戦争音のサンプリング、不協和音を奏でるサックスなどの コラージュのパートに入るが、ここはWikipediaに書かれたアップデート情報で、
▲「Revolution 9」The Beatles
となっている。確かにそのように思えなくもない。続いてコラージュの上から、マイナー・コードに 変えられた
●「Little Girl」Syndicate of Sound
が歌われる。コラージュの喧騒が徐々に静まると、少しペースがゆっくりになり、女性の声でドイツ 語の歌が始まる。これが、
●「Papa's Got a Brand New Bag」James Brown
であることは、特徴的なホーンのサンプリングが挿入されることと、「ブーメーラァン」という歌詞 から判断できる。このパートのフィナーレは、原曲の力強さをそのまま反映した
●「Talk Talk」The Music Machine
によって閉められる。
「Talk Talk」の最後のフレーズがラッパのような音で残り、ディレイによりズレを生じさせながら
しばらくコラージュ的にもて遊ばれる。このあたりに
▲「I Want Candy」The Strangeloves
▲「To Sir, with Love」Lulu
が入っているというファンの説があるのだが、この2曲がどう使われているのか、私は未だに
見出すことができない。Wikipediaでもこの説は"Ambiguous"とされている。
女性の声ともシンセの音とも聴こえるメロディは、
●「Telstar」The Tornados
そしてにぎやかなドラムと共に
●「Wipe Out」The Surfaris
も同時に重なっていく。混沌としたサウンドは徐々にフェイドアウトし、リズムボックスとカエルの
鳴き声のサンプリング・コラージュに引き継がれ、遂に長い1曲のエンディングを迎える。
このあたりにもファンの説として、
▲「Heroes and Villains」The Beach Boys
と挙げられているが、私はこの曲との関連性を見つけられない。
ここにビーチ・ボーイズを引き合いに出すなら
▲「Pet Sounds」The Beach Boys
ではないか?リズムとアクセントの入れ方は、ソックリである。持論ではあるがこちらが正解と 確信している。
以上、確定の曲には●、ファン説や自論については▲を付けてみた。