「つまり、『君のためなら、死ねる』なんて言っちゃう男は駄目だね」
「どうして？ あんた、そーゆー寒気のするような言葉、好きじゃなかったっけ？」
「だって、死なれたら嫌だもん」
「そりゃそうだけど、『君のため』だし――」
「それよ、それ！ その独り善がり具合！ そんなことを言う男はねぇ、残された側がどれだけつらいかなんてねぇ、少しも考えてないのよ！」
「独り善がりと来たか……。でも、それは言葉の綾って言うか、喩え話みたいなもので、実際にそんなシチュエーションはないじゃない」
「じゃあ、何か？ ただの口説き文句ってか？ とりあえず、かっこよさそうなことを言っとけば、女はころっと騙されるもんだとか思っちゃってんのか？」
「どうして、そう、ひねくれた方向に考えたがるかなぁ？ 『君の幸せのためなら、何だってしてあげるよ』ってのを、大袈裟に言ってるだけじゃない」
「だったら、なおのこと、『自分が死んで、恋人が助かるなら、はい、死にます』って、そんな表現、頭が悪い証拠だね。死ぬ前に、二人で生き延びられる方法の一つや二つ、探せっての。その方が『君のため』になるわけだし、そういう知的な面で気を惹こうとは思わないのかね？」
「……。そのくらいの切れ者じゃないと、あんたには見合わないと？」
「えぇ、もちろん。自分さえ犠牲になればすむと思ってるような馬鹿なんて、話になんないね」
「そんなこと言ってるから、恋人ができな――」
「みなまで言うな。あたしの周りに切れ者がいないだけの話だ」
「……。そうね」
「…………」
「…………」
「…………。うっ」
「や、ちょっ、泣かないでよ」
「気にするな。自分の発言が、自分で痛かっただけだ」
「……。あぁ、そう」
『形成要因』の時とデジャビュなんですけど、だから、お前、考えて喋れよ！ ということです、はい。
死なれたら、困るんだっつー話で。
ましてや、自分のために死なれたら、罪悪感しか残らないっつー話で。
どうして、こう、男って生き物は（男に限った話じゃないですけど）、かっこつけたがると申しますか、変なムードを作りたがると申しますか……。
いや、あーゆーのって、ファンタジーでしょ？
創作物の中だから、ロマンチックなんでしょ？
『世界で一番愛してる』とか、『俺がお前を守るよ！』とか、『失ってから、大事だったことに気付くんだ……』とか、『君の方が可愛いよ』とか、『君が呼んでくれたら、どこにだって飛んで行く』とか、『人を好きになるのは、君が最初で最後だよ』とか、『あれ？ 目が悪くなったのかな？ 君しか見えないや……』とか、『あなたのいない未来。そんなものなどいらない（花嵐）』とか、『一生一緒にいてくれや（三木道三）』とか、『生まれ変わったら一緒になろうね（松田聖子）』とか、画面の向こうないし、紙の上だからこその魅力でしょ？
リアルで使ったら、ギャグにしかなり得ませんよ。
事実、『あたし、あなたがいなきゃ、生きていけない！』とか、『あなたを想うと夜も眠れないの☆』とか、『他の娘なんか見ないで！ あたしだけを見て！』とか、『あなたを想う気持ちなら、誰にも負けないんですからね！』とか、『二人で過ごした、あの熱い夜のこと、あなたは忘れたって言うの？』とか、ギャグとして使ってますし、僕。
みんな、言ってて恥ずかしかったり、寒気がしたりしないのかなぁ？
まぁ、例によって、言う人によりますけどね。
さぁ、聴かせておくんなさい。
全国のでぶっこさんよ、僕に恥ずかしロマンス純情派な言葉を囁いておくんなさい！
ちなみに、上に列挙した言葉、半分は自作したり、どこかで聞いたようなもの。
もう半分はクラスの友達数人から募集したものです（数人にしか募集しなかったのは、僕が恥ずかしかったからです。いろんな意味で）。
女の子は、割と案を出してくれながらも、
「うわっ！ こんな台詞を思いついてしまった自分が気持ち悪い！」
とか騒いでました。
男の子は軒並み、何も浮かんでこないのだそうで、１つも出てきませんで。
うーん、恥ずかしがってるのかしら？ 心中、お察しいたします。
