ミルクプリンの誘惑



窓の外に降るのは、薄いヴェールで街を霞ませる優しい雨。例えるならば、大好きなミルクプリンのような柔らかさ。
もうすぐ雨が上がることを教えてくれる、薄く日が差した空から降り注ぐキラキラの滴たちは、白いプリンを彩る金色のメープルシロップみたいだよね。だから、もうすこしこのまま・・・ね? とミルク色をした空へ、こっそりお願いをしてみるの。

透明なグラスから銀のスプーンで一口すくい取ったら、ふるふる揺れるながら誘う甘い子を、薄く開いた唇で迎えに行く。
あんまり嬉しそうに大きな口を開けてたら「あんたって、子供みたい」って彼に笑われちゃうから、気をつけなくちゃ。

でもね、夢中になるとそんなこと忘れちゃうほど大好きなんだもの。ふわふわで、とろんなミルクプリン。
ひんやり冷たい感触も舌の熱であっという間に私の一部になる、あの蕩ける食感も好き。
飾らない自然な甘さと、底に隠れているメープルシロップのとびきりなご褒美が、心地良く染み渡るから。


「桐也って、ミルクプリンみたい」
「はぁ? なんかそれ、子供っぽいって言われてる見たいで、あんま嬉しくないんだけど。どうせならビターなコーヒーゼリーとか、ワインゼリーに例えて欲しかったぜ」
「ん〜どれも美味しいけど、ちょっと私の好みとは違うかな。私ね、ミルクプリンが大好きなの。ほんのり甘くて、口の中でふんわり蕩けるんだよ・・・桐也がくれるキスみたいに。だから桐也が大好きだよっていう、最上級の例えだったんだけどなぁ」


ミルク色の白いシーツが音を立てると、両肘を支えに上半身を起こした香穂子が、衛藤の胸へ覆い被さるようによじ登る。まだ汗が薄く残る素肌に頬杖をつきながら、ね?と愛らしく小首を傾げながら笑顔を浮かべれば、ふてくされた子供みたいに眉を寄せる衛藤の頬もゆっくりと緩んでゆく。

持ち上げられた腕に背中を攫われ、もう片方の手で頭の後を抱えられるように、抱き締められてしまうの。胸に乗ったままぴったり張り付くみたいに見下ろしたまま、悪戯に光る瞳に甘い痺れの戒めで捕らわれて。節ばった大きな手が髪の毛をゆるゆると絡めるくすぐったい感触と素肌が溶け合う熱に、頬も身体も再び火照り始めるの。


「つまり、食べたいくらい、俺を好きってこと?」
「うん・・・毎日でも食べたいの」
「速攻で素直に返されると、俺の方が照れるじゃん・・・」
「私も恥ずかしいよ。でもね、本当の気持ちだもん。それにお互い全てを晒すベッドの中で、隠し事は良くないって思うから」


頬を染める赤は、甘酸っぱいラズベリーソース。だからこんなにも胸が、恋しさにキュンとすると思うの。
トクトクトク・・・早く走る鼓動。言葉の変わりに触れ合う素肌で、あなたに届けと祈りながらしがみつく。
呼びかけが同じ鼓動と眼差しで返ってくる驚きと嬉しさに、一歩を踏み出しきれなかった羞恥心も勇気に変わった。


背伸びをするように、香穂子からそっと重ねたキスは羽が掠めるように軽いもの。
驚きに見開いた衛藤の瞳が照れた赤身を帯びながら緩んだものの、すぐに物足りなさを感じて切なげな光に変わる。頭ごと引き寄せ角度を変え、何度もキスを重ねながら身体を腕の中へ抱き込み、ころりと寝返って香穂子へ覆い被さった。


「俺には、香穂子の方がミルクプリンに思えるけどね。あんたが良く、学院のカフェテリアで食べてるヤツだろ。俺もけっこう好きだぜ。昼飯後にするあんたとのキスもミルクプリンだし、胸も・・・ほら、甘くて柔らかい。俺には香穂子の全部がミルクプ「・・・ふぅっ。私も、桐也のミルクプリンなの? 大好きってことだよね」
「好きだぜ、あんたは俺のもの。俺もあんたのものだろ。中に包まれると・・・ヤバイ。あんたが一口食べさせてくれる、あ〜んの一欠片と同じくらい、熱くて蕩けそうになる」


受け止める、心地良い重み。唇を啄み合う無邪気なバードキスは、互いの舌を求めて本能のまま絡まり深まってゆく。

吐息の合間で囁き合い、首筋を辿る唇は胸の膨らみを愛撫して下腹を辿り、覆い被さる衛藤の手は脚に閉じられた秘所へと。羽根箒で掠めるみたく、悪戯に軽く撫でながらくすぐったさを誘い、緩んだ隙に身体を割り込ませ、潤みきった泉へ指を這わせた。


「んっ・・・そこ、駄目だよ。この後お出かけ・・・するんでしょ。もう雨、やんだかな」
「雨? ここからじゃ見えないけど、さぁ・・・どうだろ。あんたのここは、けっこうな大雨みたいだけど? 俺を欲しいって言ってるぜ」
「んぁっ、桐也・・・」


熱くなった彼自身を下腹部を押しつけられ、堅さを直接伝えられて、もうこれ以上限界なくらい頬から火が噴き出してしまう。羞恥心の裏側で期待に求めしまう身をよじらせる香穂子の腰を捕らえ、見下ろしながら「香穂子先輩?」と。
部屋の中に響く雨音・・・響く水音を聞こえるようにわざと立てながら、どこか悪戯に問う余裕の笑顔も、本当は理性の限界を訴えているのだと知っているから。


蕩けちゃう・・・溶けちゃうよ。もっと白く私を溶かして欲しい、あなたを溶かしたい。
「可愛い」とそう言って照れていた笑みは、悪戯な色香を秘めた、メイプルシロップの艶めきに変わる。
一口味わったら、きっと甘く優しいミルクプリンの眩しい白さに、意識も何もかもが蕩けてしまうと思うの。


「なぁ、香穂子・・・」
「・・・っ。なぁに、桐也」
「ミルクプリンにミルクのソースをかけたら、どんな味がすると思う?」
「ミルク+ミルクだよね。あっさりさっぱりしていたミルクプリンに、濃厚なコクが出るんじゃないのかな」


ほら・・・ね、甘くて蕩けちゃうでしょ? 
二人の熱が一つになれば、濃密なひとときに変わる。甘く蕩けるミルク色の光が、私たちを真っ白な世界へと飲み込むの。
とびきり甘美なミルクプリンの海に溺れるほどに、さぁ一緒に頂きましょう?

ふるふるプルンと柔らかくて、最初はひんやり冷たいのに、舌の熱で敏感にその形を変えてゆく・・・身体から余分な力がすっと抜ける浮遊感と、癒される感触。どうしてこんなにシンプルなのに、後を引くほどもっと食べたいって思うんだろうね。