君の全てを奪いたい

部屋に招いた香穂子へ好きな場所で寛いでくれと声をかけたら、ありがとうとそう笑顔を見せて。
くるりと部屋を見渡し俺のベットの端にちょこんと腰を下ろした。硬く冷たいフローリングの床へ直接座らせるわけにも行いかないし、何も無い部屋だから休める場所は限られているのは分かっている。
だがよりにもよって何故君は、いつも来るたび迷わずそこへ行くのだろうかと額を押さえたい気分になった。


香穂子が悪いわけじゃない・・・そう、俺がいけないんだ。
俺だけでなく君も望んでいるのかと、心の片隅で思ってしまうから。
夢の中に現われる君を何度もこの腕の中に閉じ込め、全てを奪った行為が現実のものになりはしないかと・・・。
期待と恐れと動揺が複雑に絡み合い、心の中で欲望という名の炎となって激しく焼き尽くす。

君と過ごせる時間を幸せなものだと感じながらも、俺を失わないように・・・君を壊さないようにと危うい綱渡りを繰り返すのだ。光りと影は常に背中合わせにある、優しさと欲望もそうであるように・・・。


棚から取り出したCDをコンポにセットすると、甘く優しいヴァイオリンの音色が流れ出した。
静寂とぎこちない緊張に包まれた室内に、ほっと一息の安らぎがもたらされたようで、重く沈みかけた気分もふわりと宙へ浮かび上がる。ベットに腰掛けて俺を待つ香穂子は所在投げに部屋を見渡してみたり、白い制服のスカートを整えなおしてみたり。落ち着かないのはどうやら俺だけでは無いようだと、香穂子の元へ歩み寄りながら、少しばかりの安堵感が微笑みと共に湧き上がった。


「隣へ座っても、良いだろうか?」
「うん、どうぞって・・・蓮くんの部屋なのに何か変な感じだね」


見上げて小さく笑う瞳に、そうだろうかと笑みを返しながら、彼女の隣へゆっくり腰を下ろす。きちりと音を立てて沈むスプリングに弾んだ鼓動を悟られないようにと、着ていた制服のジャケットを脱ぎつつ動作で誤魔化せば、隣の香穂子の肩がぴくりと震えるのが分かった。視線を向ければ、頬を赤く染めて身を硬くしている。


「香穂子、どうした?」
「うぅん・・・ごめんね、何でも無いの!」


顔と両手を勢いよく横に振り、なんでもないのだと必死に伝えてくる。こうして返される反応も大きいだけに、嘘のつけない香穂子は何かに驚いたのだと言葉なく告げてくる。ひょっとして警戒させてしまったのだろうか?
普段と同じ何気ない動作なのに怯えさせるほど、君が欲しいという抑え切れない想いが溢れてしまったのか。
胸を内側から締め付ける苦しさに眉を潜めて耐える俺に気付き、不安に揺れた彼女の瞳へふわりと微笑む。


「えっと〜この曲、いい曲だね。ずっと聞いてみたくて探してたんだけど、なかなか見つからなくて。蓮くんが持ってて良かった、譜面があったら今度弾いてみたいな。あっ・・・それと、迷惑じゃなければ帰りにこのCD借りてもいいかな?」
「あぁ、もちろん構わない。譜面もあるから一緒に持ち帰るといい」
「ありがとう、蓮くん!」


一瞬浮かんだ不安や警戒心を吹き消すような笑顔が咲くと、隙間を埋めるようにいそいそと距離を詰めてきた。
肩先へ頭を預けもたれかかる香穂子の肩を抱き、身体をぴたりと寄り添わせ互いの体温を感じながら、流れるヴァイオリンの音色に耳を傾ける。

耳に吸い込まれすっと染み込む穏やかな旋律は、君の微笑や触れ合う肩先から感じる温もりのようだと思う。
そして今の俺と正反対だという事も・・・。無意識に求めて肩を抱く手に力が籠り、俺の方へと強く引寄せていて、腰に回されきゅっとしがみつく香穂子に我に返れば、いつのまにか君は俺の腕の中。
嫌がる素振りも見せず身を任せ、胸に頬をすり寄せながら心地良さに浸り、瞳と頬をほころばせている。

驚きに目を見開き、慌てて身体を離そうとする俺を上目遣いで振り仰ぎ、なおも強くしがみ付いてきた。


「蓮くんの腕の中は私だけの場所だもの、温かくてすごく気持がいいんだよ。ずっとこうして抱き締めていて欲しいの。駄目?」
「駄目・・・ではないが」
「今日の蓮くん、ちょっと歯切れが悪いぞ。ふふっ・・・困っているのかな? だったら余計に離してあげないんだから」


膝の上に身を乗り出すように正面から首に腕を絡め、強くしがみ付いてくる、何時になく積極的な彼女に戸惑うのは俺の方だ。押し付けられる柔らかさと温もりと、指が触れる部分が火を吹きそうな程熱い。
じゃれつく香穂子に体勢を崩されそうになるのを、理性とバランスで必死で耐えるしかなかった。

宥めつつちらりと肩越しに振り返る背中の向こうには、真っ白いシーツの海。
抱きつかれたまま視界がまわったら、嫌だと言っても君を手放せなくなる。自分を抑える事が出来ないだろう。
倒れこんでしまいたい欲望と駄目だと訴える心の狭間で揺れ動き、体が二つに裂けてしまいそうだ。


「やめるんだ、香穂子・・・それ以上はっ!」
「やっ、離さないもん! 蓮くんどうして離れるの? 離れちゃ嫌、もっと・・・ずっとこうしていて」


きっと香穂子が欲しいのもは心と心の深い繋がり、穏やかな抱擁・・・温もりにずっと包まれていたいのだろう。
確かに心地良く幸せだと俺も思うが、それだけでは満たされない・・・彼女と俺では求めるものが違うのだと。
願いが純粋で清らかなだけに眩しすぎて、君の全てを自分のものにしたい欲深さが、とても黒いものに感じた。


俺だけを映している君の瞳・・・俺だけに真っ直ぐ向けられている眩しい笑顔。
直ぐ側にある温もりは、心と体の全てを包み込む。

それだけでも心は満たされ、世界の色が鮮やかに染まって見えたのに・・・足りないと、もっと君が欲しいと思うようになったのは何時からだろうか。手を繋ぎ、抱き締めながら温もりを伝え合い、キスをする。
想いのままに君を求めるようになった自分に戸惑えば、照れたような微笑を浮かべた君が俺に伝えてくれた。


好きならば・・・想い合っているのならば相手を求めるのは自然な事だ思うと。


ならばもう一歩深く踏み込んで、その先の俺たちを望んでしまうのも罪ではないのだろうか。
俺は心だけでなく、この体ごと君と繋がれて一つになりたい。


胸に押し付けていた顔を上げて真っ直ぐ振り仰ぐと、潤む輝きを湛えたひたむきな瞳が俺を射抜いた。


「最近の蓮くん、ちょっと変だよ・・・」
「変? 俺が?」
「手を繋いでいてもすぐに解いちゃうし、くっつけばさりげなく交わしたり、いつの間にか距離が離れちゃう。遊びに来てもリビングで過ごす事が多くて、なかなかお部屋に入れてくれなかったじゃない。今日だって、すごく久しぶりなんだよ? 今までは蓮くんのお部屋で二人っきり・・・一緒にヴァイオリン弾いたり宿題したり、音楽聞いてたりしたのに・・・急にどうして?」
「それは・・・・・・」
「あのっ・・・別にリビングで不都合があるとかじゃないの。そりゃたまには私だって思いっきり甘えてみたい・・・。蓮くんの心の中に入れないような、避けられているような寂しさがあったから。嫌われちゃったのかな、私・・・・」
「君を嫌うなんて、あるはずがないだろう!」
「蓮くん、気付いてる? 私にくれるキスはどっても温かくて優しいのに、唇が離れた後の顔が苦しくて辛そうなの・・・私が代わってあげたいと思うくらいに。ねぇ、何を耐えて我慢しているの? 本当の事を教えて!」


私は知らなくちゃいけないのと、俺の頬を包み訴える香穂子の手は、激しい想いを注ぎ込むように熱さを増してゆく。その手に重ねて想いを受け止めれば、注がれる熱さは触れる頬を焼き心を焦がして・・・押さえていた炎を高く燃え上がらせた。

このままでまいられない・・・想い合うのならば俺も、君も。
求める気持を抑えるあまりに歪んでしまったら、いつか君を深く傷つけてしまうことになる。
そうなる前に、醜い俺を君の前に晒してしまおう。

俺と君がどうなってしまうか・・・どこへゆこうとしているか、先の事は誰にも分からない。
今だけがたった一つの真実。
今の連続が未来へと繋がっていくのなら、偽らずにありのままを自分を君に伝えたい。


「・・・すまない。君を避けていたのは、本当だ」
「・・・っ、どうしてっ!」


驚愕に大きく見開かれた瞳へみるみるうちに涙が溢れ、零さないようにと必死で見開き堪えているものの、とめどなく溢れる雫が一つ・・・また一つと頬を伝ってゆく。


日々新しい君を見つけては愛しさが募るばかり。本当は俺だって、ずっと君を側に感じていたい。
どうか泣かないでくれ・・・俺はただ大切にしたかった。
いきなり重みを背負わせては傷つけてしまうと、そう思ったから。


だがそれは、思いやりという名の衣を着た弱さで、逃げなのだと今更のように打ちのめされる。
自分の不器用さが逆に香穂子を悲しませていた事に後悔と苛立ちを覚え、唇を噛み締め拳を強く握り締めた。


「理由を・・・教えて・・・」
「理由は・・・・・・」
「・・・んっ! んんっ・・・ふうっ・・・」


指先で涙を辿り頬を包むと、香穂子の顔を引寄せ光る雫を湛える目尻に口付けた。そのままもう一度頬を辿りつき、触れるだけのキスを贈る。形を確かめるように輪郭を舌で撫で、唇を挟み甘く吸い付いて。
ここまではいつもと同じ・・・それ以上の先は存在しない、今までのキス。

僅かに唇を離したまま視線を上げれば、戸惑い揺れる瞳が息を詰めてその先を見守っているのが分かった。
一瞬のためらいを覚えたが、もう後には引けない。そう・・この先こそ、俺が君に隠していた本当の理由なんだ。
大人しく身を委ねる沈黙を了承の合図と受け止め、再び唇を重ねると、何かを感じ取った香穂子がぴくりと震える。離れようと引きかける身体を深く腕の中に閉じ込めて、真上から覆い被さるように。


二度目のキスは優しい羽のようではなく、この身に宿る熱い情熱のままに求める激しいキス。
背がしなるほど強く引寄せ頭ごと掻き抱き、呼吸をする暇も与えない激しいものだった。
唇の合わせ目を舌でなぞり空いた隙間から進入して、咥内を余すところ無く貪ると、怯えて奥に逃げる小さな舌を捕らえて深く絡め取る。


「んっ・・・・ふうっ・・・・んっ・・・!」


聞こえるのは互いの口の中から響く水音と、呼吸を求める香穂子の苦しげな甘い吐息。
背中へ強くすがりつく指先に籠った力が引き金となり、もう俺にも君も止められなくて。
抱き締め唇を重ねたままベッドの白い海へとゆっくり身を沈めると、ぎちりと音を立ててスプリングが軋んだ。

ようやく解放した唇から名残と余韻を伝えるように、長い時間絡め合った舌から長く引く、一筋の銀色の糸。
その糸がぷつりと途切れると、反らせずに見つめあっていた視線も新たな繋がりを求めて彷徨い出す。覆い被さった華奢な身体へ体重をかけないように両腕で支えながら、舌と唇は白い首筋を辿り、顔ごと埋めた根元に赤い花を一つ咲かせる。


白いシーツに舞広がる赤い髪と紅潮する頬も、花のように鮮やかに咲き誇り俺を誘う。
浅く早く息を吐いて呼吸を整える肩と胸が激しく上下し、妖しくうごめいているようにさえ見えた。


先ほどまで座っていたベッドを背中に感じて、掴んだ両手をシーツに縫いつけた俺が真上から見下ろしている。自分の身に何が起きたのか咄嗟に理解できず、香穂子は驚きと不安に、ただ呆然と瞳を揺らすばかりだった。
掴んだ両腕から伝わる微かな震えと怯えが俺の胸を痛いほど締めつけ、その先を何とか薄皮一枚で留めている。彼女の見開かれた瞳に、苦しげに眉を寄せる俺が見えた。

次第に震えが治まり落ち着きを取り戻した香穂子は、心配そうに瞳を緩めて見上げながら俺を伺う。
自分の身に起こっている事よりも、どうしてこんな行動に及んだか、見えない言葉を汲もうとするように。
他には何も映らない真っ直ぐなひたむきさ・・・俺が欲しいのはその心ごと、君の全てなのだと思う。


なぜ瞳に映る俺の方が、泣きそうな顔をしているのだろう。傷ついているのは君だけでなく、俺もなのか?
そうか・・・だから、君の瞳も泣きそうなんだな。

受け止めてもらえるとは思わないが、自らの心を切り裂き、もうひとりの俺を君の前に曝け出そう。


「これが、答えだ・・・。俺は君が欲しい、君を抱きたい」
「・・・れん・・・くん・・・?」
「夢の中では、何度もこの場所で君を抱いた。部屋に誘わなかったのは、俺自身を戒める防衛手段だ。傷つけないように・・・俺の欲望で清らかさを汚さないようにと。夢を見た朝は、香穂子に会うのが怖かった」


月森は自嘲気味に微笑み溜息のように囁くと、大きく深呼吸を一つして、引き剥がすように身体を起こした。
力の入らない香穂子の手を取り、背を起こしてベッドの上に座らすと、顔を見られまいと背を背けてしまう。


「すまなかった・・・。今日はもう、帰ってくれないか」
「私、帰らない。蓮くんと一緒に、ここにいる!」
「香穂子! どういう事か分かっているのか? これ以上はどうなってしまうか、俺にだって分からないんだ。君に微笑んでいられるうちに、早く帰るんだ。でないと・・・俺は君をっ・・・・・・!」


肩越しに振り返ると同時に、トンという軽い衝撃を背中に感じた。
強く押し付けられる温もりと柔らかさに香穂子が抱きついて来たのだと知り、瞬きも呼吸も忘れて時が止まる。
背から前にまわして強くしがみ付いてくる力が、帰らない・・・離さないと言葉無く伝えて心の中に熱さをもたらした。これは紛れもない彼女の意思なのか、信じても、いいのだろうか?


「言ったじゃない、離さないって・・・離れちゃ嫌って。女の子って男の子が想うより弱くない、私も同じなんだよ。私だって・・・蓮くんが欲しいもの。ずっと・・・待ってた、でも待つだけじゃ駄目だって、ようやく分かった」
「香穂子・・・」
「私は蓮くんが好き、蓮くんも私が好き。お互い好きなのに求めるのが、どうして悪いの?罪だって思うの? 私には分かんないよ! 大好きな人に触れてもらえない方が、よっぽど悲しい・・・」
「怖くは・・・無いのか、俺が?」
「大人の男の人に見えてびっくりしたけど、怖くはないよ。だって蓮くんだもの、もっといろんな蓮くんを私に見せて欲しい。蓮くんならいいよ・・うぅん、私は蓮くんじゃなきゃ駄目なの」


背中に響く優しい声が波紋を描きながら広がり、暗く荒んだ魂を沈めてゆく。
前に回された腕に温かさを重ねてゆっくり解くと、シュルリとシーツのすれる音を引きつれ、香穂子へと向き直った。戸惑いも怯えも消え去り、真っ直ぐな光りを湛えた瞳がふわりと微笑みかけ、先を託すように静かに閉じられる。今だ炎は熱く燃え盛ったまま、理性という最後の砦を破ろうとしていた。


「もう一度聞く。香穂子・・・君が欲しい。抱いても、いいだろうか?」
「うん・・・・・・」


膝の上で組んだ手をきゅと握り合わせ、瞳を閉じたまま小さく頷いた。
ほんのり頬を赤く染めつつ恥ずかしさに堪える初々しい君が、俺の心を逸らせる。

走り出した想いと身体は止められない、俺にも・・・君にも。
ベストを脱いでベッドの脇に放り、制服のタイを解いて襟元を寛げると、すぐにも激しく掻き抱きたいのを堪えて、腕の中にそっと閉じ込める。優しく抱き締めるのはこのあと暫く出来無いと思うから・・・今だけは。


頬や額、鼻先や唇など何度も彷徨い啄ばむと、緊張での硬さが次第に取れてくるのが分かった。おずおずとキスを返してくれるようになった頃を見計らい、もつれ合うように僅かに震えを残す身体を大切に横たえる。

視界いっぱいに広がったシーツの白さと君の肌の白さに、最後に残っていた優しさも白く弾けて消え去った。




◇◆◇◆◇◆




「んっ・・・は・・・あぁっ・・・・・・」


甘い吐息と微かな息遣いが部屋の空気を揺らす。
日が暮れて薄暗くなった室内で浮かび上がるのは、ベッドの上に折り重なった二つの身体。
月森は香穂子の身体に覆い被さり、白い素肌に埋もれながら赤い花を咲かせていた。


部屋に流れていたはずのCDはいつの間にか止まり、代りに包むのは窓の外から聞こえる雨音と、艶やかな声に混じって口のから響く水音や、内部を掻き回す淫らな水音。外と中に降る二つの雨音に耳を澄まし、胸のふくらみから顔を離し窓の外を見ると、いつの間にか空は暗く雨が降り出していた。

春の雨は白が混じって存在を消すように朦朧と霞んでいる感じがするが、秋の雨は透き通って輝いて見える。澄み渡る青空や空気と同じように、目に映るものの色を鮮やかに浮かび上がらせて。
窓の外に降る秋の雨は、まるで君が浮かべる涙のように・・・とめどなく溢れる蜜のようだと思った。


俺の目の前、組み敷いた体の下には白い肌を惜しげもなく晒した香穂子がいる。
潤む大きな瞳は快楽に咽ぶ涙をいっぱいに溜め、上気した頬と焦点の定まらなさが妖しい色香を添えていた。
何度も夢に見た光景でなく、焦がれるほど望んだ想いが見せた幻想でもなく。

感じる熱さも柔らかさも、吸い付く肌の心地良さも甘い声も、全て俺だけに向けられる現のものだ。


「どうか聞かせてくれ。君の声を・・・俺だけに」
「・・・・・!!」


熱い吐息を吹き込み耳朶を甘噛みすると、ぴくりと香穂子の身体が跳ねて、脳の芯から焼き切れそうな甘い吐息を漏らす。漏らすその声も吐息さえも奪いたくて唇で塞ぎ、飽く事無く舌を捕らえて絡め合いながら。隅々へ愛撫を施す手は肌を下へと這い回り、秘所を探り当てると深く指先を埋めて水音を奏でる。襲い来る快楽から逃れようと身を捩る香穂子の身体を、逃がさないように覆い被さり、やさしく・・・けれども想いまま強く閉じ込めて。

やがて行き場の無い熱に追い立てられ、腕の中の彼女が言葉無き悲鳴と共に弾け飛んだ。


「・・・・・ん・・・っ!」


ベットの上に四肢を力なく投げ出したまま、焦点の合わないぼんやりとした瞳を宙に向け、浅く早く呼吸を繰り返す胸が怪しく上下していた。無防備な仕草が、どれ程俺を焼き焦がす熱い炎となるのか・・・君は知らないだろうな。求めれば熱くなり、最後の理性をも脆く焼き焦がされ・・・。どうなってしまうかなんて、俺にだって分からないんだ。後は残った本能のままに、抑える事も止まる事も出来ずに走り続けるのみ。


「香穂子・・・いいか?」
「う・・・うん・・・・・・」


膝を抱えて開かせると、微かな不安を湛える瞳がゆっくりと閉じられ、シーツをぎゅっと握り締めながら頷いた。
自分の先端を押し当ててゆっくりと埋めていく・・・。だが途中まで受け入れたところで、声無き悲鳴を上げた香穂子の背が大きく弓なりにしなり、強い締め付けに思わず息を詰まらせた。


「・・・・・・・・!!」
「っ・・・!  辛い・・・か?」


ふるふると首を横に振り、決して辛いのだとは言わないが・・・溢れた涙が苦しさを伝えてくる。
すまない・・・何とか優しくしてやりたいが、もう俺にも止めれないんだ。
もっと君の声を聞きたい、俺と一緒に乱れて欲しい・・・熱く一つに蕩け合いたいから。

愛しいから大切にしたい、けれども見守るだけでは満足出来無くて欲しいと強く願ってしまう。触れ合い伝わる熱さが想いの証・・・心ごと、君の全てを。そうすれば、言葉では上手く伝わらないものも分かち合えるだろうか?


何とか気を反らしてやりたくて髪を撫でたり、涙の浮かぶ目尻や頬、唇にキスを繰り返す。やがて落ち着きを取り戻した事を見計らい、最後の優しさを捨て、抱え上げた脚ごと身体で圧し掛かるように覆い被さり、一気に貫いた。





求めて高めて、確かめ合おう。
俺自身がヴァイオリンの弓となって君の身体を貫き奏で、感じるままに紡ぎ出すのは互いの音色。
熱い吐息と息遣いを重ねて生まれる愛しい音楽は、この上なく甘美な痺れをもたらしてくれる。
僅かに動くだけでも包まれる刺激と、唇から零れる吐息に吸い込まれそうだ・・・・。



「れん・・・く・・・ん・・・!」
「・・・・香穂子っ」
「いや・・・嫌っ・・・駄目ぇっ・・・」


激しく揺さぶられながら悲鳴にも似た声が上がり、背を掴みしがみ付く細い指先に込められた強い力。
もっと・・・もっと付けてくれ、跡を残すほどに強く。心にも消えない跡を残して欲しいから。


しがみ付くこの力と君の声や甘い吐息、白い柔肌は一度溺れたらもう手放せない。
君を手に入れようとしている俺こそが、本当は捕らわれているのかも知れないな。

向けられる瞳も、奏でる音色も真っ直ぐなその心も・・・俺は君の全ては俺のものだから。