Silent Night

夜の街に溢れる光の海、輝くイルミネーション。

樹木や植栽をきらきらと彩る光の粒は、まるで夢の欠片のよう。
幻想的な世界に浸る私達に、小さな光の妖精が優しく語りかけてくる。
「あなたの夢も輝いていますか?」と。

もちろん、輝いてるよ。
二人一緒だから、輝きの大きさも二倍なの。
ねっ、そうでしょう?

香穂子はしっかり繋いだ手を支えにしながら背伸びをしつつ、隣にいる月森を覗き込む。
ぴょこんと目の前に現れた笑顔に、月森も見つめる微笑を一層深いものにした。


長く続く広い通りを埋め尽くすのは雪をイメージした、青と白い輝きに溢れた世界。
静けさに包まれ、青い光に彩られた並木道がどこまでも続いている。
浮き立つことなく、冬の冷たい空気にすっと馴染む青色が醸し出すのは、どこまでも広がる深さと温かさを。白色が醸し出すのは真っ直ぐな純粋さ。
暖かさを感じさせる赤やオレンジといったものよりも、静かで落ち着いた感じがする。

青い光が際立てば深い海の底にいるようで。
白さが増せば雪の中にいるみたい。

豊かな沈黙を楽しむ空間・・・なんて贅沢なんだろう。
まさに大人の為の夜。


「凄く綺麗・・・ずっと見ていたいな」
「青と白のイルミネーションは始めて見たが、いいものだな。静かで、落ち着く」
「時間を気にしないでずっと一緒にいられるから、結婚前と違って気持ちにもゆとりがある感じ」
「そうだな、慌しかった気もする。以前は門限があったから、君に会える時間が限られていた」
「また翌日会えるって分かっていても、あの時は寂しい想いをしたよね」

いつも一緒にいると、幸せな毎日につい忘れそうになるけれど。切ない日々を共に乗り越えたからこそ、今がある。夜の光を浴びながら寄り添い、傍にある呼吸と温もりに包まれて、見えない傷跡のように残る遠い日の切なさを互いに癒し合う。


「大好きで大切な蓮と一緒に見てるこの夜景、忘れたくないな。・・・うぅん、きっと忘れられない」
「俺たちの記憶の糸を辿ったら、この夜になりそうだな」
「今夜は、きっと眠れないかも」

目を閉じれば、瞼の裏に焼きついた夜景が、いつでも胸をときめかせてくれるから。
そう言うと繋いだ手を引き寄せられ、肩を抱き寄せられた。頭を少し傾けてきた彼の髪が、ふわりと触れた感触に心地よいくすぐったさを覚えて見上げると、耳元に熱い吐息を吹き込まれる。

「では、眠らなければいい・・・共に、一晩中・・・」


耳朶を甘噛みされるような痺れがぞくりと背中を走り、身体の奥に眠る夜の記憶が呼び覚まされる。
甘い蜜をほんの一口含む・・・そんな想いに酔いしれて。

「夜風は身体に冷える。君が風邪をひいてしまったら大変だ。そろそろ帰ろうか」
「寒くないよ、私は平気」
「時間も遅くなってきた」
「帰るって・・・さっき来たばかりじゃない。一緒にもっと見ていたいよ。それに今は、少しくらい遅くなっても平気でしょう?」


蓮もイルミネーションが綺麗だって、さっき気に入ってくれたじゃない。
見たいって言い出したのは私だし、人ごみが苦手なのは分かっているけど。
早く帰りたいのは、本当に風邪を引かないようにと私の体調を心配しているから?
それとも・・・・・・・・。


ねぇ、駄目かな? 

上目遣いに見上げてねだると、肩を抱く腕に力が込められた。
向けられる瞳の奥が僅かにその色を変え始め、輝く街の明かりよりも強い光を私に投げかける。

「君の瞳に映るのも、君を虜にするのも、俺だけであって欲しいんだ。これ以上の余所見は・・・耐えられない」
「蓮・・・・・・」


私たちを包む青と白が織り成す光の色合いは、限りなく透明で静かさに満ちている。
だけれども・・・熱い。そんな情熱を孕んでいるように感じた。
赤よりも遥かに熱い、青と白い炎。


まるで澄み切った色と私をその瞳に映す、あなたそのもの。
あなたの心の熱さを・・・宿した想いを、夜景が伝えてくれている。
だからこそ、こんなにも私を虜にしてしまうんだろうか。
光に溶け込んで真っ直ぐ伝わる熱さが身体中に駆け巡り、私の心をも焼き焦がす。


「蓮てば、夜景に焼もちやいてる」
「・・・俺が余所見ばかりしていたら、香穂子はどう思うんだ?」

ちょっとだけ拗ねたのか、眉根を寄せて難しい顔をする。

「えっ!? そっ、それは・・・凄く・・・嫌かも。私の方を、向いて・・・欲しい・・・・・・」


言ってるうちに、まんまと彼にはめられたと気づいて、ごにょごにょと口籠もっていく。
赤く染まった頬を隠すように俯く香穂子に、月森は悪戯っぽく笑いかけた。
君も俺の気持ちが分かっただろう?と。
返事の変わりにクスッと小さく笑って、甘えるように肩先へと頭を軽く擦り付けた。


イルミネーションを見るのは、もうお終いかな。
せっかく来たからには、まだ先に続く綺麗な景色を見たいけれど。
この目と心に刻んだから十分満足だよ。想いごと、しっかりとね。


歩き出す月森が、肩を抱いた手を越に回して香穂子を誘う。引き寄せられるままに身を任せ、耳の横にある腕に、そっと頭をもたせかけた。二人一緒にゆっくり足を運びながら向かうのは、イルミネーションが続く通りの先とは反対方向。来た道を再び辿って、家路へと向かう。

寒さを浮き立たせる互いの白い吐息が、目の前で交わり合って一つになる。
溶け合った気持ちや身体のように重なる吐く息の白さにさえ、どこか甘く優しい気持ちを覚えて眺めずにはいられない。ふと視線を上げれば同じように、吐息に視線を注くあなたがいて・・・。
甘く絡んだ瞬間、柔らかく優しい微笑みに変わった。



胸に秘めた二人の恋物語は、夜に隠されているのかも知れない。
夜の街を彩る青と白の輝きのように静かで情熱的なあなたが、いつだって夜を特別なものにしてくれるから・・・・・。