思い切って私から



夜空に浮かぶお星様をたくさん集めたら、とっても明るいランプになると思うの。仄かに照らしながら揺れるキャンドルの灯火の代わりに、ぎゅっと詰まった星たちが、ガラスの中できらきら輝いているんだよ。でもね、お星様には大人しい子や元気な子もいて、仲良しだったり時には喧嘩もしたり・・・楽しくなった彼らは弾けたポップコーンのように、ときどきポンっと外へ飛び出しちゃうの。ね、可愛らしくて楽しいでしょう?

お星様のランプがあったら、一人で過ごす寂しい夜もきっと楽しくなると思うし、心の中まで温かくなるよね。ねぇ蓮くん私ね、星のランプをスポットライトにしながら、夜空の下でヴァイオリンを弾きたいな。そうしたら私の音色もお星様になれるから、お部屋から星を眺める蓮くんにも音楽が聞こえるでしょう?


だからね、私はお星様を集めようと思うの。君は不思議な事を言うんだなと、最初は目を丸くしていた蓮くんだけど、私の話に耳を傾けながらいつしか柔らかく微笑んでくれていた。ほら・・・もうそれだけで、キラキラしたお星様が一つ二つ集まったみたい。見上げる夜空に広がる星へ手を伸ばし、指先で摘みながら手の平へいっぱい集めましょう。見えないよって笑わないでね、心の目を開けば・・・ほら、ほわっと明るく照らしているのが蓮くんにも見えるかな?


「蓮くんほら見て、お星様がたくさん取れたの」
「本当だ、香穂子の瞳のように輝いているな。もし良ければ、俺にも手伝わせてくれないか?」


ほら見て?とお椀型に揃えた手の平を差し出せば、小さな微笑みを浮かべて夜空へ指先をのばし、お星様を一つ取ってくれた。木に実ったブドウの房から一粒を果実を摘むように、煌めく大きな光をつみ取るの。一緒に集めるごとに一つ煌めき、笑顔が重ねればまた一つ煌めくお星様。手の平にいっぱい集まっているから零れないように、そっとそっと気をつけながら欠片を乗せてね。


次はどの星が欲しいのかと問われた嬉しさに、あのオリオン座がいいなとか、こっちのお星様も素敵・・・はしゃぐ私を見つめるあなたの瞳が、夜空に浮かぶ三日月みたいに優しい笑顔で私を照らしていた。吐息が触れ合うほど近くにいた顔がぐっと迫った次の瞬間に、温かく柔らかな温もりがしっとりと唇を包み込む。

幸せに浮き立つ気持と高鳴る鼓動・・・きっと今の私は、三日月の船に乗る金色の一番星だと思うの。蓮くんという月の船に乗ってふわりふわり恋の海へ漕ぎ出すんだよ。


「ありがとう。蓮くんが集めてくれたお星様は、鈴の音色が綺麗に透き通って凜とした輝きをしているの。とっても温かいんだよ、まるで蓮くんみたい。ふふっ、出会ったばかりの頃の蓮くんなら、溜息吐きながら難しい顔していたのにね」
「目に見えないものを集めたり感じるる大切さや、傍にある幸せに気付かせてくれたのは香穂子だ。ところで、集めた星たちはどうするんだ?」
「えっとね、心のランプに移して灯りにするの。ほら、こうやって胸に閉じ込めるんだよ」


手の平を胸に押し当てると、ほら・・・心のランプにいっぱい集まった星たちが、明るい灯になって私の中から照らしてくれる。瞳を閉じれば胸の中に、小瓶に詰まった金平糖みたく、お星様がキラキラしているのが分かるの。手を押し当てた胸の奥から、ポカポカ温かくなってくる。優しく抱きしめてくれるヴァイオリンの音色や、私ごと包み込む温かな腕の中にいるみたい。

蓮くんにも、この幸せを感じてもらえたらいいな。もっともっと集めたいな、蓮くんのお星様を・・・温かい想いの欠片を。
心の中のランプから星が弾けるように、あなたが大好きな私の想いも溢れてしまいそう。甘く締め付けられる胸の苦しさに耐えていると、照れ臭そうにはにかむ蓮くんが急に真摯な表情を引き締めて、心配そうに私を抱き寄せてくれる。


「香穂子、大丈夫か? どこか苦しいのか?」
「心配させちゃってごめんね、私は大丈夫だよ。私の中にたくさん入ってくる蓮くんのお星様を感じていたら、大好きな想いが膨らんで、胸の奥がキュンと締め付けられたの。胸のドキドキを押さえていただけなんだよ」
「そう・・・だったのか、具合が悪くなったかと心配した。香穂子、俺も星を集めたいんだが・・・いいだろうか? 集めた星を胸に抱きしめる君がとても幸せそうだったから、きっと温かくて優しい気持ちになれるのだろうなと思ったんだ。君が感じている景色を、俺も見てみたい」
「本当!? 嬉しいな。お星様のランプが二人分なら、もっともっと心の夜空が明るくなれるよね。じゃぁ今度は私が蓮くんの為にお星様を集めるね」


そう笑みを浮かべて夜空へ伸ばした手を、ふいに躊躇い引き戻した私に、胸の中から星の声が呼びかけてくる。トクントクン・・・ほら、また熱く疼いているの。

想うほどに触れたくて傍にいたくなる・・・この胸に沸く想いを伝えたい、いつも情熱的に触れてくれる蓮くんみたく、私もあなたにキスがしたい。キスをしてくれたときに感じるときめきや幸せを、一緒に分かち合いたい。でも、私もキスして良いかな?って恥ずかしくて言えなくて。そんな私を励ますように、集めた星たちが熱さを増しながら語りかけてくる。これは素敵なチャンスなんだもの、恥ずかしがっていたら駄目だよ。君はひとりじゃない、僕たちがいるじゃないかと力強い煌めきを放つ。


「香穂子、どうしたんだ?」
「えっとね、その・・・私の中にあるお星様が、大きく膨らんで溢れちゃいそうなの。もし良かったら、少しもらってくれるかな?」
「あぁ、構わない。だがどうやって、君から見えない星をもらえば良いだろうか?」
「えっとね・・・その、目を閉じて欲しいな」


目を?と聞き返し、不思議そうに首を傾げた蓮くんにこくんと頷くと、柔らかに微笑んだ瞳が静かに閉じてゆく。睫毛が長いな・・・あぁほら、見とれている場合じゃないの。トクントクントクン・・・鼓動が大きくなるたびに、胸に閉じ込めた星たちもざわめき踊り出すの。お願いだから静かにしてね、呼吸を整えて落ち着かなくちゃ。今度は私のお星様と一緒に大好きな想いを伝えるんだもの。


瞳を閉じたままじっと待つ蓮くんの肩に手を添えて、つま先立ちで背伸びをしながらそっと重ねた唇は、熱くて柔らかくて蕩けてしまいそう。ほんの一瞬触れるはずだったのに、キスをした唇は一つに溶け合いおたがいに離れなくなってしまったの。うぅん、いつの間にか私の背中を抱きしめ支えてくれる蓮くんの腕が、ぎゅっと腕の中へ閉じ込めてしまったから。そっと触れた以上に熱く返されているのだと気付いたときには、もう意識は桃色に染まる霞の中。


名残惜しげにゆっくり離れた唇から、どちらとも無くほうっと甘い吐息がこぼれ落ち、白い綿帽子になってふわり夜空へ空へ昇ってゆく。白い吐息は夜空で溶けたら、心に降り注ぐ星に変わる・・・ほらまた、星の欠片が集まったでしょう?
ふわふわ浮かぶ私が飛んでゆかないように、ぎゅっと抱きしめていて欲しいな。くってりもたれた胸からちょこんと振り仰ぎながら囁くと、強まる腕の力が心地良くて・・・私はあなただけに煌めく星になるの。


「君からのキスが、とても嬉しかった・・・ありがとう、香穂子。これからは香穂子のキスが欲しいときには、夜空に浮かぶ星の欠片を集めることにしよう」
「蓮くん・・・。キスしたいなって私が恥ずかしくて言えなかったこと・・・やっぱり蓮くんは気付いていたんだね」
「香穂子がキスで移してくれた星の光、確かに受け取った。そして胸の中だけでなく、俺の腕の中にも抱きしめた、柔らかなで大切な存在・・・。君の言うとおり、星を集めると温かく明るく、優しい気持ちになれるな。心から熱い輝きが溢れてしまいそうだ」


瞳の奥を射貫くように真っ直ぐ私を見つめながら、熱く擦れた囁き声が耳から染み込み熱さを生むの。導かれるままにコクンと頷けば、背がしなるほど抱きしめられて・・・今度は、あなたからのキスが流れ星のように降り注ぐ。キスは心の中を照らす星になって、涼しい音色を奏でながら金平糖みたく、ガラスの小瓶へ集まっててゆく。


赤・青・ピンク・金色・・・甘いものやミント味まで、想いの数だけたくさんにね。それがらおたがいに共鳴し合うと、蛍見たくほわっと明るい光を灯すんだよ。温かくて優しい星の光・・・キスから生まれた、大好きな蓮くんの温かさがとっても気持ちが良いの。ねぇ、蓮くんも同じ気持かな?


あなたに出会ってからたくさん感じるようになった、ドキドキする瞬間や胸がきゅんとなる瞬間は、この先どれくらいあるんだろう。きっと夜空に輝く星の数だけたくさんあると思うから、二人で一緒にたくさん集めてゆきたいな。ね?いいでしょう? 集めた恋のお星様で明るく温かいランプを作ったら、いつでも傍に感じていられると思うの。だから・・・どんなときも暗闇で迷わないように、自分とお互いを照らそうね。