Love&Poison



甘い物はたいがい身体に良くない物ばかりだって、いう人もいる。食べ物とか音楽に対する姿勢とか、確かに良くない。
でも俺は甘い物が全て悪い物だとは思わないぜ。だって、こんなに気持ちイイじゃん。あんたとするいろんなキスとか、こうして抱き合ったり一つに蕩け合う行為とか・・・香穂子自身がとびきり甘いスイーツだから。

むしろ俺はその甘い物のおかげで、心も身体もすこぶる健康だけど?


「可愛いな、あんた・・・」
「んっ・・・桐也。もうっ、さっきから可愛いばっかり言ってる」
「しょうがないじゃん、俺の腕の中にいる香穂子がすっげぇ可愛いんだから。で、なに拗ねてんの?」
「可愛いって言われるのは嬉しいよ。でもね、そう言いながら、桐也の手は悪戯ばかりするんだもん・・・あっ、やっ・・・」
「ふぅん、悪戯ってこのコト?」


シーツに咲くのは赤くしなやかな香穂子の髪と、はだけたキャミソールから零れる白く柔らかな胸。緩やかに腰を使う度に規則正しく揺れるベッドのスプリングが、キチリキチリ・・・と静かな部屋へ響けば、重ねた唇の中からくぐもった吐息が聞こえてくる。

息継ぎも兼ねて一度唇を離した衛藤に、肩で大きく息を整えた香穂子は、ぷぅと頬を膨らませて拗ねてしまう。悪戯ばかりしては駄目だと、ささやかな抗議を示す真っ直ぐな瞳に「悪戯ってこのコト?」微笑みかけて。はだけたキャミソールから覗く胸をそっと手のひらで包み、緩やかに揉みながら指の間で形を変えてゆく。


抜ける寸前まで一度大きく引き抜いたら、息を詰めて最奥の壁を目指し一気に挿入。柔らかな胸を揉みながら指先で敏感な粒を摘めば、頭の脇に脇に縫いつけていた手が強い力で握り替えされ、嬌声がひときわ高く上がった。甘いと息も嬌声も、受け止める圧迫感と快感の狭間で浮遊する意識を手放さないように、眉根を寄せる切なげな顔がヤバイくらいに可愛い。


「・・・・っ桐也、早くしちゃ、駄目っ。もっと、ゆっくり・・・お願い」
「ごめん。辛いか、香穂子」
「今、桐也に強く揺すられたら・・・すぐにでもイッちゃいそうなの・・・もっとこのまま繋がっていたいから。ゆっくり・・・ね?」
「あんた、マジで可愛すぎるぜ。でも悪いけど、それだけは聞けそうもない。俺も、限界なんだ・・・」
「んっ・・・・・・」


早さを増す鼓動に合わせて揺すられながら、呼吸も上手く出来ずに切なげな眼差しで喘ぐ。上と下から同時に襲う快感を身体の外へ逃がそうと、必死に身をよじりながら腰を浮かせるけれど。そうはさせないとばかりに重みをかけて密着し、膝を大きく開いて突き動かせば、自分自身が強く締め付けられて息が止まりそうになる。


それもこれも、フレンチキスってどんなキスなのかと、無邪気に質問してくるあんたが悪いんだぜ。
カフェで食べた蕩けるフレンチトーストのことも語っていたから、同じように蕩ける可愛いキスだと考えていたんだろうけどさ。案の定当たっていたその考えに溜息を吐いた俺に怒った香穂子が、じゃぁ桐也は知っているのか。知っていたら教えて欲しいと食いついてきたんだ。


フレンチキスとは、舌を絡め合うようなディープなキスのこと。だからこうしてキスしてたんだけど、まぁ・・・火が付いて止められなかったのは、俺が悪いよな。引きずられそうな快感を宥めようと息を潜め大きな波をやり過ごし、眉根を寄せながらゆっくりと息を深く吐いた。


「ねぇ桐也・・・」
「ん? どうした、香穂子。どっか辛いのか?」
「違うの。えっとね・・・その、どうして制服着たまま・・・なのかなって。あっ! 脱いで欲しいとか、そういうんじゃないの。ただね、いつもよりお互いに肌を見せていないのに、今日の方が桐也をすっごく感じるの。イケナイことを秘密でやってるみたいな、ドキドキ感がするからかなそれとも、いつもとちょっぴり桐也の雰囲気が違うから・・・かな?」
「あんたが望むなら、今すぐ脱いでも良いけど。母親がいつ外出から帰ってくるか分かんないんだろ」
「そっか、内緒でこっそり私の部屋へ招いたから、こんなにドキドキしてるのかな」


なるほどと瞳を輝かせた香穂子は、素直に納得したらしい。誰もいない屋上とか練習室でこっそりキスするときに、似てるよねとご機嫌だ。抱え上げられた脚を俺の腰に絡めながら、更に深く密着して。首に絡めた腕を支えに引き寄せ、唇へ
小さなキスを届けてくれる。


太腿を撫で上げながらまくり上げたミニスカートから、すっかり塗れてしまった下着は取り外され、可愛い臍と薄い腹部がひんやりした空気にさらされている。キャミソールの裾や肩紐は着崩され、白い肌を胸まで露わにして、俺を甘く誘うんだ。それに対して自分は制服のベルトを緩めてバックルを外し、降ろした自分自身を取り出しただけ。

俺を感じるのは触れる手と唇と、繋がり合う下腹部だけだから、どうしてもそこを強く意識してしまうのか。なんていろいろ考えても、生まれたままの全てを晒すよりも、脱ぎ乱れた服でいる方が数倍も色っぽさを感じるんだ。


恥ずかしそうに腰をくねらせた香穂子の腰を捕らえて、俺に全てを見せてくれよ・・・と恥じらう瞳へ真っ直ぐ呼びかければ、私ばっかりズルイよと羞恥の熱さが瞳の潤みに変わって滲みだした。


拗ねていると分かっていても、愛しさと、自分の欲深さに胸が軋む・・・。

眉根を寄せて深く溜息を吐く頬を、そっと包む優しい手のひらの感触に目を見開けば、大丈夫?と心配そうに見上げる眼差しがあった。いつもより強引にキスをして抱いたのに、一言も怒らず攻めたりしなかった。深く俺を受け止めたままの、あんたの方がずっと辛いはずなのに・・・な。



「ごめん、本当の理由は別にある。僅かな時間も惜しいほど、すぐにあんたを抱きたかった・・・早く繋がりたかったんだ。久しぶり過ぎて、ヤバイくらいに俺も感じる。あんたが望むように優しくしたいけど、優しく野生の情熱に流されたまま、貪りたいって衝動が押さえきれないときがたまにあるんだ。今日がそんな感じ。」
「えっ・・・!?」
「怖かった・・・よな。あんたの部屋へくるなり、いつもより強引だったかも・・・ごめん」
「・・・びっくりしたけど、怖くはなかったよ。だって桐也は桐也だもん。たっぷり熱いキスからね、大好きっていう想いが真っ直ぐ届いたの。それにね、フレンチキスが、シロップたっぷりのフレンチトーストと同じくらいふわふわだと、勝手に解釈していた私も悪かったの。桐也は悪くないよ、ちゃんと答え・・・教えてくれたし」


俺に組み敷かれたままの香穂子が、内緒話をしようと頬を染めたまま身体を起こすけれど。上手く力が入らず、繋がったままの刺激に甘い声を上げてしまう。脳裏を焼き切る痺れに顔が熱くなるのを感じながら背を支えて身体を起こし、繋がったまま座ったまま向かい合うように座らせる。

こうして向かい合うといつもの桐也なのに、何か不思議な感じがする・・・と。くすぐったそうに微笑む香穂子が、支えを求めて学ランの背に腕を回してきた。ぽすりと胸に顔を埋めるあんたを腕の中に閉じ込めれば・・・手放したくて、もっと欲しくて病みつきになりそうだ。


「甘くてふわわふしそうで、とっても気持ちイイ・・・ねぇ桐也は? 桐也も、ふわふわしてる?」
「あぁ、すげぇ気持ちイイぜ。」
「ふふっ、良かった。甘いものの取りすぎは良くないけど、適度に取る分には心を幸せにしてくれるんだよね。私ね、今とっても幸せだよ。とびきり大きな苺がのったショートケーキを食べるときみたいな感じなの」


もっともっと欲しいけど、食べすぎると動けなくなっちゃうよね。そう困ったように眉を寄せる可愛い顔に、さっそく頂くぜと笑みを浮かべて、キスを啄む。 可愛いあんた自身がとびきり甘いスイーツだから、止まらなくなってもっと食べたくなる。


いつしか俺の中にあんたが溢れていて・・・なるほどね。俺もあんたもお互いが、恋する媚薬を求めずにはいられない中毒。甘く心と脳裏を痺れさせる、恋の媚薬なんだな。


互いに呼びかけ合う名前と、キスの合間に囁く短い愛の言葉たち。
キスは心に宿る伝えたい想いや感じる全てを、触れる唇が伝えてくれる・・・音楽のように。
見つめ合いながら唇を重ね、下半身から込み上げる甘い熱と痺れに突き動かされながら、舌と肌を求め合う。


俺の心を柔らかくしてくれる、あんたの声が、好き。
触れ合う肌と繋ぎ合う手や、そして包まれながら一つに蕩け合う熱く優しい温度も、好き。
唇を重ね合いながら抱き締めていると、安心する。

香穂子の想い全てが、ヴァイオリンの弦みたく空気を震わせて、俺の胸の奥まで届くんだ。


行為の合間に交わす言葉は少ないけれど、早く打つ鼓動と同じスピードで駆け抜けた後に、温かな気持ちが胸一杯に満ちていることに気付くんだ。言葉の数だけキスもある・・・それは俺だけじゃなくて、幸せそうな微笑みを腕の中で浮かべるあんたも、同じだよな。