告白
「大好き!」
「どうしたんだ、突然に」
「別にどうもしないよ。蓮の事が好きだな〜って思ったから、口に出さずにはいられなくて」
シーツに包まったまま、隣に寄り添う彼に視線を注いだままそう言うと、ベットの上に上半身を起こして私に向けていた、裸体の背中越しにくるりと振り返った。横たわる私を見下ろす瞳と口元を、柔らかく和ませながら。
「私ね、蓮の背中が大好き。ヴァイオリンを奏でる手とか、さらさらの髪の毛とか、綺麗な琥珀の瞳とかも、みんな大好きだけど。背中って見ていて落ち着くというか、心がドキドキするというか・・・」
逞しすぎず、華奢すぎず・・・。程よく筋肉がついて、引き締まった広い背中には、肩甲骨が彫像のように綺麗に浮かび上がっていている。まだ乾いていない・・・上半身を薄っすらと覆う汗は、先程までの熱いひと時の名残。闇と甘い吐息に満たされた暗い室内を照らす、ほの明るいオレンジ色の光の中で、まるで水のヴェールを纏ったように光を放っていた。妖しいまでの輝きに瞳が吸い寄せられ、身体ごと心までもが、あなたに惹き付けられてしまう。
普通の背中よりも、汗を纏ったあなたの背中が好きだと言ったら、どう思うだろう?
でも恥ずかしいから、絶対に内緒だけどね。
シュルッと衣擦れの音と共に、少しだるさの残る重い体を、腕を支えにして上半身を起こした。
「それに・・・・」
「か、香穂子っ!?」
「蓮の背中って、つい抱きつきたくなっちゃうの」
シーツがはらりと肌蹴落ちるのと同時に、目の前にある広い背中へと縋りつくように抱きついた。
視界の端で頬を染めて動揺している彼が映り、悪戯が成功したような、そんな浮き立つた気分になってくる。汗をまとったお陰でしっとりと私の肌に吸い付いてくる、ひんやりと絹のように滑らかな素肌の心地良さに浸りながら、彼の香りを感じていたくて鼻先を甘えるように擦り付けた。
こうしていると、不思議と落ち着いてくるの。
肩越しに振り返る彼に合わせるように、私も背中側から肩越に覗き込めば、二人だけの世界を作るカーテンのように、髪がはらりと落ちた。はにかみながら微笑む瞳に、自然と湧き上がる心のまま微笑み返せば、こぼれた髪を一房救い上げて、そっと口付けをしてくれる。
「ねぇ、蓮は私のどこが好き?」
「全部」
「すごく嬉しいけれど、それじゃぁ答えになってないよ。具体的なものが知りたいな」
「香穂子が持っている全てのものが大好きだから、一つ一つ数え上げていたら朝になって・・・いや、また夜になってしまう。何日あっても足りないよ、だから全部」
教えてくれるまで離さないんだから。そう言ってしがみ付く腕に力を込めれば、クスクスと笑って前に回した私の腕を、上から包むように自分へと引き寄せた。背中から直接伝わる振動が、なんだかとってもくすぐったい。
「君を感じて・・・俺もどきどきしているよ。でも、背中というのは、少し寂しいかな・・・」
「蓮?」
「香穂子の顔が、良く見えない・・・。俺が、君を抱きしめられないから・・・・・」
困ったような微笑みを受けて抱きつく腕を解くと、正面を向いた広い胸の中に抱き寄せられて、閉じ込められた。私がすっぽりと丸ごと、包み込まれるように・・・。小さく身動ぎをして見上げると、額に優しいキスが降ってくる。
「俺としては背中よりも、正面の方が良かったかな。こうすれば胸の中に飛び込んでくる、大好きな君の全てを、いつでも抱きしめていられる」
「私はね、何度でも言いたいな。蓮の事を一つ一つ大好きっていう度に温かくなって、やっぱり大好きなんだって、改めて思うの。心が溢れて、もっともっと蓮が好きになれるんだよ」
「では・・・今以上に君を好きになれるのなら、俺も何度でも言おう・・・」
大好きだよ・・・と。
髪に・・・瞳に・・・頬に・・・唇に・・・・。
吐息と共に甘く囁きながら、一箇所ずつ唇が触れてきた。始めは乾いていた唇が、次第にしっとりと潤んで熱く熱を孕んでゆく。
出会ってから見つけた、たくさんの大好き。これから先も、どれだけの大好きが生まれるだろうか。
あなたから大好きって言われると、言葉に出して伝える時以上に、もっと温かくなって自分が大好きになれる。胸にいっぱいに膨らむこの気持ちを、いつまでもずっと大切にしたい・・・そしてあなたに伝えたいし、感じて欲しい。
だって毎日、あなたに恋をしているんだもの。