感触



ふわふわのマシュマロを温めてもっとフカフカにして、ビスケットに挟むと美味しいの。

でも食べる時に大きな口を開けると、蓮が私の顔を微笑みながらじっと見ているから、慌てて視線を逸らしながら小さな口で食べるけど。美味しいそうだなと思ったんだって、そう優しい瞳で言われたらちょっとだけ恥ずかしい。


白い雲みたいにふわふわミルクの綿帽子が乗ったカフェラテ。

気をつけて飲まないと口の周りに真っ白いお髭が付いて、いつも彼を笑わせちゃうの。
「付いてるぞ・・・」って小さく笑いを堪えながらあなたの手が私の頬を包み、指先がそっと優しく拭い去ってくれる。ヴァイオリンの弦を奏でるちょっと堅くなった指先の感触が、とっても気持ちがいい。

子供みたいだよね・・・指先の感覚に浸りながらそう呟いて真っ赤になる私に、何も言わずただ微笑むだけで。
わざと見せるように目の前で拭った指先をペロリと舐めたあなたに、顔に熱が集まる私は更に真っ赤っか。



お茶の時間も素敵だけれど、ふわふわと言えばやっぱり泡のお風呂!

白い泡のシャボン玉がもこもこ膨らむ泡のお風呂も大好きなの。
次々形を変えてぷるんと揺れる泡が可愛いし、ふっと息をかけて風花のようにバスルームいっぱいに散る泡の欠片たちと、高く舞い上がるシャボン玉がとっても楽しいんだよ。


白い大きな泡を手の平いっぱいにすくった所でちゃぷんとお湯が跳ねて、泡の中から出たのはあなたの腕。
あっという間に捕らえられた私は、すぐに広く引き締まった胸に押しつけられ腕の中へ引き戻されてしまった。
あまり夢中になってはしゃぎすぎると、一人で放っておかれて寂しい蓮が拗ねちゃうから気をつけなくちゃ。


抱きしめられたまま上半身を捻ると、ニッコリ笑って振り仰ぐ私に一瞬何かを警戒したけれど。
ふふっ・・・やっぱり楽しい事って分かっちゃうのかな?
私の胸元を包む泡を指先で摘んで鼻の下にちょこんとつけて、白いお髭の出来上がり。

私を抱きしめて両手がふさがっている蓮は、困った顔して難しそうに眉をしかめながら、取ってくれって無言で訴えてくる。一緒に遊んで?って私を抱き寄せたのは、あなたなのにね。楽しいついでに鼻の頭とほっぺにも泡をつければ、お返しとばかりに背中を包む手に力が込められ、更に深く閉じ込められてしまうの。


顔に泡をいっぱいつけた可愛い蓮も見たかったけど本当はね、私をこうして強く抱きしめてくれるあなたの感触が大好きなんだよ。


「蓮、可愛い〜泡だらけ」
「香穂子・・・」
「・・・あっ蓮ってば! ふふっ・・・くすぐったいよ」


顔に付いた泡を取り払おうとして私の肩先や首筋に顔を擦りつけてくるから、くすぐったさに身を捩るしか出来なくて。シャンプーの香りが優しく鼻孔をくすぐる洗い立ての濡れた髪と、軟らかく熱い唇が首筋を掠めなぞれば、背筋に甘い電流が駆け抜けた。

伸ばした指先で頬の泡を丁寧に拭い去り、鼻先にふぅっと吐息を吹きかけると、そのまま忙しなく唇が塞がれ呼吸も何もかもが甘く吸い込まれてゆく。



「ねぇ蓮・・・」
「ん・・・どうした香穂子」
「私ね、ふわふわのものって大好き。柔らかくて楽しいし、優しい気持ちになれるの。ねぇ知ってる? 温めるとふわふわになるんだよ」
「じゃぁ、香穂子もふわふわだな。今日は君のふわふわ日和だ」
「うん・・・私もふわふわ。あのね、私だけじゃなくて蓮もふわふわ」
「俺も大好きという事か、香穂子にそう言ってもらえると嬉しい」
「浮き上がって飛んでいきそうなの、凄く気持ちいい・・・溶けちゃいそう。もっとふわふわになりたいな」


背後から抱きしめる蓮を肩越しに振り仰ぎ、ささやかにねだると唇が覆い被さり、甘いキスで返事をしてくれた。
ちゃぷんと跳ねるお湯の音と小さくふるふる揺れる泡の中で、意識が浮かび上がり身体も溶けて・・・。
あなたの温もりに包まれる私も、ふわふわになってゆく。早く駆け抜ける呼吸と鼓動が熱さを生み出しながら。


でもあっ、駄目っ・・・・。


「・・・んっ・・・!」


触れ合う唇が息づきの間に離れた隙に身を捩り、半ば向かい合うようにお膝へ座る腕の中からするりと抜け出した。引き締まった胸を押し飛ばすように離れた勢いの反動で、バスタブの床でつるんと滑ってしまい、危うく泡の中へドボン・・・! という寸前で大きく水音が跳ねて飛び散り、とっさに伸ばした蓮の腕に抱き留められた。

肩口に顔を埋めながら大きく安堵の溜息を吐くのが、正面から触れ合った胸からも伝わってくる。
ゆっくり離すと諫めるように怖い顔して、じっと真っ直ぐ見つめる視線から反らせずに射抜かれてしまう。


転びそうになって危なかったから、怒らせちゃったのかな?
それともキスを途中で遮っちゃったから、ご機嫌が悪くなっちゃったのかな? 
違うの・・・どうしよう、上手く言えないけど何て説明したらいいんだろう。


「・・・・・香穂子、突然どうしたんだ。バスタブの中とはいえ、転んだら危ないだろう? それに・・・」
「ごめんね、ありがとう。あのね、ふわふわ加減って結構難しいの。マシュマロも、カフェラテのミルクもお風呂の泡も・・・みんな温めすぎると蕩けて無くなっちゃうんだよ。このままじゃ私も・・・えっとね、もうちょっとだけ、ふわふわでいさせて欲しいなって思ったの」
「香穂子は蕩けるのが嫌なのか?」
「そ、そんな事無いよ! もう〜意地悪・・・どっちも選べないよ。ねぇ、蓮はふわふわと蕩けちゃうの、どっちが好き?」
「俺は、蕩ける方」
「んっ・・・あっ・・・・」


くるりと視界が回ったと思えばバスタブの縁に背中を押しつけられて、覆い被さるあなたに唇を塞がれながら、上に下にと身体を這い回る手が私を奏で熱くする・・・。
瞳の奥に宿る熱さに私のふわふわが少しずつ蕩けて滴となり、あなたのふわふわと一つになるの。


「俺の熱さで君を溶かしたいし、君の熱に溶かされたい。一緒に蕩ける甘さと感覚が好きなんだ」


朦朧としかける意識の中で小さく頷くと、私を見つめる蓮の瞳と頬が一瞬緩んだように見えたのは気のせい?



お風呂の泡が溶けたこの後には、二人で一緒にもっと熱くなる次のふわふわが待っているだよね。
ふかふかの真っ白いバスタオルにくるまれて、宙を漂うように運ばれる私がゆくのは、やっぱりふかふかの白いベッドの上。今日は私とあなたのふわふわ日和。


だから、あなたの瞳で・・・身体で・・・熱で・・・もっと私をふわふわにして?