幸せが運んでくれたもの 〜 Clovers・Clovers 〜



オーストリアの首都であるウイーンは、豊かな文化が香る音楽の都だ。ウイーンが持つ独特の空気・・・音楽や美術、博物館やカフェの魅力はこの街に暮らす人だけでなく、世界中の人を惹き付けてやまない。オペラやコンサート三昧の日々を送り、美術館に浸るのも良いけれど、街に溢れる森や流れるドナウ河なども楽しみの一つだと思う。

公園と言っても日本の児童公園とは比べものにならないくらい大きく、広大な森が広がり中には運河も通っている。自宅近くにある大きな市立公園も、散策に訪れる俺と香穂子だけでなくウイーンに暮らす市民にとって、心の豊かさを支える大切な場所となっていた。運河沿いで日光浴をする人もいれば、犬を連れた紳士や手を繋いで散歩する老夫婦とすれ違ったり、サイクリングをする家族やなどもいて・・・。誰もが光と緑の中で、優雅な時の流れを楽しんでいるようだ。


青空と緑の中を歩くと心の中が透明になる・・・洗い立てのシーツになった気分だと言ったのは、澄んだ空気を胸一杯に吸い込んだ香穂子だったな。確かに心も身体も軽くなり、感性が磨かれるような気がする。自然を素直に感じる心から生まれる音楽だからこそ、豊かな音色が育まれるのだろう。

自然の力も大きいけれど何よりも、君と一緒にいるから豊かな景色に見えるのだと俺は思う。小川の流れや小鳥のさえずりに耳を澄まし、緑の輝きを浴びながら君とのんびり散策するひとときは、一人で眺めるのと君が一緒では見えるものが違うから。





生涯を共に歩む約束を、香穂子の左手薬指とダイヤのリングに約束を交わし、生活の拠点を留学先であったウイーンに移してから数ヶ月が経った。家庭を守る傍らに彼女は今まで通り音楽を続け、師事している先生の元へヴァイオリンのレッスンに通い、誰でも通える市民大学の講座でアンサンブルを学でいる。その他にも料理教室やドイツ語の語学学校に通い、異国の生活に早く馴染もうと、夜遅くまでひたむきに努力を重ねていた。


生活環境や語学の違いから、最初は戸惑い落ち込むこともあったが、それでも弱音を吐かずに乗り越え、俺の数年間に追いつこうとしている。乾いた土が水を吸うように知識を求める君は、異国の地で新たな花を咲かそうとしていた。花はか弱そうに見えても冬を越す力を持っており、実はひたむきで力強さに溢れている。毎日が楽しいのだと輝く笑顔と瞳が力をくれるから、俺も頑張らなくてはと思うんだ。


俺は休日だったが香穂子は午前中に料理教室に通い、午後はヴァイオリンのレッスンに出かけている。キッチンにお昼を作っておいたから食べてねと、家事を終えた彼女は行ってきますのキスを頬に残し、慌ただしく出かけていったのは俺がようやく遅い朝を迎えた頃だった。コンサートツアーから帰宅したばかりの昨夜は、明け方近くまで君を抱き締めて離さなかったのに・・・。いつも通りに朝早く起きて家の仕事をこなし、昼食まで用意して出かける君に頭が下がる思いだ。だがどんなに反省しても、腕の中にひとたび君の温もりを感じれば、熱く溶け合うまで手放せなくなってしまうのだけれど。


留学先の音大を卒業し、プロのヴァイオリニストとしての道を歩み始めた俺よりも、主婦をしている香穂子の方が、忙しい生活を送っているのかも知れない。だがいつでも目の前にいて俺を映し、呼びかければ笑顔が返る、泣きたいときには抱き締めて俺の胸を貸すことも出来る・・・ヴァイオリンの音色が聞こえる。今まではどんなに求めていても叶わなかった、君がそばにいるこの幸せと嬉しさを、噛みしめずにはいられない。




柔らかい芝生の絨毯に腰を下ろせば、葉を茂らせた樹が手をかざし強い日差しから守りながら、優しい緑の陰を作り出してくれる。木漏れ日がシャワーのように降り注ぎ、時々そよ風が吹き抜けるから、読書をするにはちょうど良い。座った膝の上に本を広げて読みつつ傍らに広げたのは、空を切り取ったような青い瓶のミネラルウォーターと、香穂子が俺の昼食用にと作ってくれたサンドイッチだ。


天気も気候も良かったから外へ出たくなった・・・と言えば聞こえが良いが、本当の事を言ったら君は笑うだろうか。
香穂子がいないだけで火が消えたように静かな部屋で、一人黙々と食事を取るよりも、少しでも君に近いところで待ちたかったのだと。青いボトルを空にかざしたくなるのは、同じ色だねと微笑む君の声が脳裏に聞こえてきたから。日だまりが溶け水を一口飲めば、身体の中へも煌めきが溢れてくるのを感じる。


ピンク色の小さなメモ用紙に、ルージュのキスマークが添えられているのは、俺が寂しくないようにとの心遣いなのだろう。いただきますとピンク色の君に語りかけ、キスマークにそっと唇を重ねると、香穂子が纏う甘く爽やかな花の香りがした。


青いギンガムチェックの包みを解けば、三角にカットされたサンドイッチが仲良く並び、手作りの具材が食欲をそそる。ウイーンで一番美味しいと評判のパン屋が、リンク内の王宮付近にあるが、香穂子が作ってれるサンドイッチの方が数倍美味しいと俺は思う。真面目に答えたら、君は頬を染めて照れていたな。だが君の作ってくれたサンドイッチを持って出かける、これはもしや愛妻弁当と言うものだろうか。自分で思いついておきながら、顔から火が出そうな熱さが募っている俺は、きっと君以上の赤い顔をしているに違いない。




香穂子と一緒に街を歩いていると、確かにさっきまでは隣にいたのに甘く優し香りを残し、ふと目を離した隙に隣からいなくなってしまうことが良くある。星奏学院に通っていた頃も、結婚して共にウイーンで暮らすようになってからも・・・ファータような君の無邪気さは変わることがない。またか・・・と困った溜息を吐きつつ、慌てて周囲を見渡すのはいつものことだ。
出会ったばかりの頃は、余所見をしないでくれと何度となく君を諫め、きまってその後に手を繋いだのも懐かしい思い出だ。


足下の小さなものから青空を羽ばたく鳥に至るまで、好奇心旺盛な瞳が捕らえれば吸い寄せられてしまうんだ。はぐれないように手を繋いでも、予想もしないタイミングで一緒に引っ張られてしまうけれど・・・君が迷子になるよりはずっと良い。
難しい顔をして心配する俺にごめんねと必死に謝る君は、見つけた素敵な物たちを、満面の笑顔を浮かべて身振り手振り一生懸命話してくれるから。いつしか俺も同じ視線で一緒に眺めて、笑顔を浮かべているんだ。


君の瞳に映る景色や捕らえる視点は、きっと俺とは違う。だからこそ知りたい、君に近付くに連れて俺は変わることが出来たし、互いに成長し合えたのだと思う。香穂子と一緒に歩くようになってから、俺は変わった。例えば歩く速さがゆっくりになり、ゆとりを持って周りを見られるようになった。俺も足下に咲く小さな花の微笑が聞こえるようになったし、空の青さや広さに気がつけた。

世界を広げるのは難しい事じゃない、一本路地が違えば街の景色が変わるように、視点が変われば別の形が見えてくる。たった一歩から、お互いが歩み寄ることが必要なのだと、君が教えてくれたんだ。


ほら、空を見上げてみよう。青一色に澄み渡る、どこまでも広い空には境界線など無い。
俺の空と君の空は、溶け合う音色や心と同じく一つに繋がっているのだから。




「・・・・・・・・・・!」


背後から吹き抜ける爽やかな風が、甘く優しい花の香りを運んでくれる・・・この香りは、サンドイッチに添えられていたものと同じ。香穂子がいつも身に着けている、俺が贈った軽いトワレの香りだ。気持だけが先に届き羽のように俺を包み込んでいるから、息を切らせて駆け寄ってくるの背中でが分かる。君が飛びつくまで、あともう少し・・・。

浮き立つ気持が鼓動を高鳴らせ、すぐにも振り向きたいけれど、楽しみが待っているから少しだけ我慢していようか。緩む頬をそのままに読んでいた本に栞を挟み、膝の上に置いたところで背中にポスンと飛びつく軽い衝撃。しがみつく柔らかな温もりが押しつけられ、勢いのまま押され前へ倒れ込みそうになる。ぐっと堪え立て直すと、首にしなやかな手が回り、楽しげな笑みが耳元をくすぐった。香穂子が来た嬉しさに緩む頬はそのままに、首へ回された手に重ねた。


「蓮、見〜つけたっ!」
「・・・・・っ、香穂子。いきなり背後から抱きついてくるから驚いた。もし俺じゃなかったら、どうするんだ」
「私が飛びつきたい素敵な背中は世界でただ一人、蓮だけなの。大丈夫だよ、心の磁石がピピッとサインを灯したから、蓮だって分かっていたもの。それに蓮だって振り向かずに私の手を握ったじゃない。もし人違いだったらどうするの?」
「俺も香穂子だと分かっていた。風が香りを運んでくれたし、君が抱きつく感触を忘れる筈がない。例え目隠しでも分かる」
「そ・・・そうなの!? 何だか照れ臭いけど嬉しいな」
「レッスンから戻って、すぐこの公園にきたのか? 俺のいた場所が良く分かったな」
「チャイムを鳴らしても返事がないし、鍵を開けても静かだから最初はびっくりしたの。でも書き置きのメモを残してくれたでしょう? 気分転換に散歩へ行ってくる、いつもの場所へ・・・きっと二人でお散歩にくるこの公園だと思ったの」


肩越しに振り返ると、覗き込む君の頬が求め合うようにしっとり吸い付く。膝立ちでしがみついていた香穂子に触れるだけのキスを頬に贈れば、嬉しそうな笑みを綻ばせた香穂子が、ただいまと俺の頬にも小鳥のキスを啄み返してくれた。肩に付いた手を支えに立ち上がると、背中を抱き締めたまま、悪戯にひょいと前を覗き込んでくる。足下にあったミネラルウォーターとサンドイッチに目を輝かせ、お腹空いているのとねだる切なげな瞳。俺は君の頼みに弱いのだと、知っているだろうか。


卵のサンドイッチを一切れ摘み、肩越しに差し出すと、背後からあ〜んと口を開ける香穂子がパクリと食いついた。お昼を食べたが時間も早かったせいもあり、ヴァイオリンのレッスンですっかり消費したらしい。美味しいねと頬を綻ばす君が嬉しそうだから、もっと笑顔が見たくて食べて欲しいと願ってしまう。蓮はお腹空いちゃうよねと、後で気付いた君は泣きそうに瞳を潤ませていたが、俺は心が満たされたから全部食べてくれても問題はない。

一人でピクニックするなんていいなと、羨ましそうに拗ねて唇を尖らす香穂子に、今度の休日になったら二人でランチを持って公園に来よう・・・。そう微笑み約束を告げると、満面の笑みが花開き力一杯頷いた。次の休日が楽しみだな、天気であるように二人で祈ろうか。


「ヴァイオリンのレッスンはどうだった? 学長先生はお元気だっただろうか」
「先生はいつも元気だよ、年を重ねるごとに若くなる気がするの。奥様はね、私がレッスンに来るからだって言ってるけど本当なのかな。ヴァイオリンはね、先週弾けなかった場所も出された課題も、蓮が事前に特訓してくれたから上手く弾けたよ。音色も曲の仕上がりも良くなったって褒めてくれたの。私が蓮に厳しくしごかれたのも、しっかりお見通しだったけどね」


学長先生と呼んで香穂子が親しんでいるのは、俺が留学してた音大の学長で、ヴァイオリンの恩師だったからだ。もう弟子は取らないと言っていたが、音楽の縁で香穂子のヴァイオリンを気に入り、今ではウイーンでの両親として彼女を支える存在だ。普段は穏やかな老紳士だが、指導の厳しさは趣味のヴァイオリンの域とは違い、プロや音大生が受ける以上の高度なもの。香穂子のヴァイオリンの音色が、ウイーンに来て更に深みと艶を増したのは、彼女の努力と先生の指導が良い波長となり合わさったからだろう。


「そうだったのか、また新しい課題を出されたんだろう? 良ければまた、俺にもヴァイオリンを聞かせて欲しい」
「ありがとう、蓮。私の為に本気で叱ってくれるのは、蓮だけだなって思うの。自分に厳しいだけじゃなくて私にも厳しいけど、蓮の真っ直ぐな瞳や気持から、本当の優しさが私に伝わってくる。どうでもいいって見放さずに、私のためにいつでも本気になってくれて・・・大切なことに気付かせてくれるんだよ。胸の奥から沸き上がる熱さが、私の力になるの」
「ありがとう、香穂子。君が俺を必要としてくれた事が、とても嬉しい。それは俺が生きる意味が、もう一つ増えたのだから」
「ヴァイオリンだけじゃなくてドイツ語とかウイーンの街の事とか、冬のウイーンに欠かせないワルツも。蓮に助けてもらってばかりだよね・・・。ヴァイオリニスト月森蓮の奥さんとして、恥ずかしくないように、私もっと頑張らなくちゃ!」
「俺は毎日君が一生懸命頑張っているのを知っている、たった数ヶ月で俺の数年に追いついたのも。全て君の努力の成果だと、いつも言っているだろう。それに料理は香穂子の方が先生だ、俺も教えてもらわねばいけないな。もしも香穂子が寝込んだときに、何も出来ないでは困ってしまうから・・・」


頬に募る熱さを堪えながら、あえて後ろを向かずに言うと、うん・・・とはにかむ小さな声が耳朶をかすり、背中にしがみつくのを感じた。前に回した腕にきゅっと力が籠もり、ありがとうと身体の中へ響いた言葉が、優しい温かさを灯してくれる。
ひたむきな君の姿を見ていると応援したくなるし、俺も頑張らなくてはと想えるんだ。違うからこそ成長し合える・・・香穂子とだからこそ、道の先で寄り添い合った今でも競い合えるし、共に高みを目指せる。それはとても幸せなことだと思わないか?


俺だって香穂子から、たくさんの贈り物をもらっているんだ。温かい気持ちだったり触れ合う温もり、ひたむきに頑張る姿勢やささやかな心遣い、心の栄養でもある毎日の手料理も。どんな時も俺を信じ、見守ってくれる君がいるから頑張れる。俺も香穂子の力になりたと思う。

だが俺は君のために何が出来るだろうか、料理や家事が得意ではないから君の仕事を手伝うわけにはいかないし。君の好きな音楽を奏でたり寛ぐためのお茶を用意したり、街角の花屋で見かけた君のように可憐な花を買ったり・・・そんなささやかな事しか出来ないけれど。表彰したいと想えるほど、君は俺にとって自慢で大切な存在だ。


相変わらず背後から抱きつき俺を包み込む香穂子は、気持が良いね、良い香りだねと嬉しそうに俺の髪へ頬をすり寄せている。君が俺の背中が好きなのは俺も嬉しいが・・・その、薄いワンピース越しに押しつけられる胸の膨らみや、肌の柔らかさを直接感じてしまう。耐える顔を見られないのは救いだが、無邪気に俺の理性を試すのは勘弁して欲しい。どうも香穂子と結婚して以来、理性の導火線に火が付くのが早くなったというか、燃え尽きる早さが増しているような気がするんだ。


「ん〜。でもちょっと探したんだよ、蓮ならベンチに座っていると思ったのに、芝生の絨毯に直接座っているんだもの」
「探させてしまってすまなかったな。芝生の絨毯が気持が良いと、香穂子が言っていたら俺も寛ぎたくなったんだ。地面が近くなるだけなのに、見上げる空がドーム状に広く大きく見えるんだ。心地良いだけでなく世界が広く見える、不思議だな・・・寝ころんでしまいたくなる」
「ふふっ、じゃぁ寝ころんでみようよ。私がお膝を枕に貸してあげるね」
「いや、今は止めておこう。香穂子の膝が心地良くて眠ってしまいそうだから。せっかく香穂子が来てくれたから、二人のだけの時間をもっと楽しみたいんだ。それに・・・その、背後にいると香穂子の顔が見えなくて寂しい。俺の隣へ来ないか?」



うん!と元気良く返事をした香穂子は立ち上がる時に、頭ごとすり寄せて髪を絡め、微笑みの甘い吐息と唇を耳朶に残していった。どうして君は無防備な心へ熱い爆弾を落としてゆくのだろうか。吹き出す炎がやがて君をも焼き焦がすというのに。吹き出す熱さと鼓動を必死に押さえていると、ワンピースの裾を軽やかに翻した香穂子が、俺の隣へ腰を下ろそうとしていた。そうだ、忘れていた・・・俺がずっとここへ座り君を待っていた理由を。

芝生の絨毯へ座ろうとしていた香穂子を慌てて止めると、ほっと安堵の溜息が溢れてきた。良かった・・・香穂子と摘み取る前に、小さな彼らが潰れてしまうところだった。


「突然止めてしまってすまなかった、驚かせてしまったな」
「ねぇ蓮、どうして座っては駄目なの? 芝生の露でワンピースが汚れちゃうから?」
「それもあるが、香穂子が来てくれるのを待っていたんだ。幸せの宝物を見つけたから・・・ここにはありそうだと、以前散歩に来たときに君が言っていただろう?」
「なぁに、何を見つけたの?」


不思議そうに首を捻る香穂子にすまなかったと真摯に謝り、緩めた瞳で微笑みを向けた。宝物だと言う俺に瞳を輝かせ、しゃがみ込むと興味津々に身を乗り出してくる。二人だけの大切な儀式のように、俺の隣に咲いていたシロツメクサの根本を覆うクローバーの茂みをそっと掻き分けると・・・。そこあった二つのクローバーを視線で示せば、息を詰めた香穂子の瞳が大きく驚きに見開かれた。


「一、二、三、四・・・あっ!葉っぱが四枚。 凄い〜しかも小さな四つ葉が二つ仲良く並んでいるよ! 蓮が見つけてくれた四つ葉のクローバーだね。良かった、私が座っていたらこの小さな子たちをお尻で潰しちゃう所だったよ」
「俺も危なかった・・・もう少し座る場所がずれていたら、彼らを潰していたかも知れない。この場所に座り、荷物を置こうと思って草むらを掻き分けたら、花の根元から小さな四つ葉たちが二つ現れたんだ。一つを見つけるのも難しいのに、二つ揃うなんて奇跡だな」
「富、名声、素晴らしい健康、満ち足りた愛・・・四枚の葉が揃って真実の愛だよね」
「誠実、希望、愛、幸運の四枚が揃って真実の愛とも呼ばれている。香穂子が頑張っているから、日本から遠く離れた異国でも幸せになれるようにと、小さな彼らが応援にやってきたのだと俺は思う。四つ葉が四つ葉を連れてくるように、一つの幸せは、たくさんの幸せを運んでくるんだな。香穂子も俺にたくさんの幸せを運んでくれる・・・ありがとう」
「違うよ、この二つは私と蓮の分なの。二人一緒だよ。私たちが心の葉を揃えて四つ葉になったから、新しい幸せの四つ葉がやってきたのかなって思うの。ねぇ蓮、この子たちは摘み取らずにそっとしてあげたいの、良いでしょう?」


白いリングを中心に抱え、健気に咲く小さな四つ葉のクローバーたち。仲良く隣り合う姿はリングをはめた俺たちのようでもあり、香穂子はそっ指先で撫でながら、我が子を見守るように慈しみ溢れた眼差しを注いでいる。煌めく露が木漏れ日を受けて輝いたのは、彼らが喜んでいる声なのだろう。


二つの幸せが更に子供達を生み、もっとたくさんの幸せを運んでくるかも知れない。今は小さなこの二つの幸せが、もっと大きく育っているかも知れない。そう想いを馳せれば夢は膨らみ、きっと楽しいと思うんだ。

摘み取らずにそっと見守り育てたい・・・俺もそう思ったし、優しい君も同じように感じてくれると思っていた。瞳を見つめてそう言うと、四つ葉を撫でる香穂子の手にそっと重ね、握り締めた。唇が触れ合い近さで吐息だけが甘く熱く、重ねた眼差しが甘く溶け合い優しい温もりを心に生み出した。俺たちの心に生まれたのは、小さな四つ葉のクローバー。


幸せを育てよう、俺たちも二人で一緒に。
笑顔が笑顔を生み出すように、俺たちの感じる幸せも、きっと新たな幸せを運んでくれるだろうから。
感じる心を持とう、心のドアを開けて。







夏コミで発行した「Clovers」の後日談的お話しです。表紙を書いて下さったkonzerの泉璃様が、本の表紙とはとは別バージョンで月日イラストを書いて下さいまして!本をお求め下さった方に、そのポストカードを配布しておりました。配布したポストカードからイメージした話でして、合わせてお楽しみ頂けたら幸いですv 連載にも若干絡んでおりますが、読み切りでお楽しみ頂けるようになっております。ポストカードの素敵イラストは こちら です!