低コストで安全、高性能の小型無人航空機が、南極の空の観測を目指している。軽量の模型飛行機の技術を応用し、観測しながら1000キロも飛ぶ。年内には離着陸まで自動化する計画だが、世界的にも珍しいという。実現すれば、災害や事故現場の偵察や調査など、さまざまな利用に可能性は広がる。 南極の昭和基地には昨年2月まで小型機があり、大気や磁場などの観測で活躍した。その後持ち帰り、今は観測船がいる夏季だけ、搭載したヘリコプターが人や物資を輸送している。小型機を常駐させるには操縦士と整備士を越冬させる必要もあり、09年就航の新船を建造中の今、予算の余裕がないという。 国立極地研究所の船木実・助教授らは南極で、磁場の観測で2カ月かけて500キロ歩いたことがあり、「無人機が使えたら、ペンギンや海氷の確認、気象の観測もできるのに」と考えた。だが、無人ヘリコプターは1000万から1億円前後、従来の無人機は数億円もする。そこで目を付けたのが、格安の模型飛行機だった。 ◆1000キロへの挑戦 南極では自動で観測しながら1000キロの長距離を飛ばす。気象観測なら高度7000メートルまで上げる技術開発が必要だ。02年から実験を繰り返し、全長2メートル、重さ15キロの模型飛行機で今年3月、ガソリンエンジンで500キロ飛ぶことに成功した。時速は約200キロ出る。 極地研の研究者は観測機器の開発に苦心した。気象の平沢尚彦助手は、気温や湿度、大気中微粒子の観測機器を担当した。生物の伊村智・助教授は、時間や緯度・経度を記録しながら何百キロも離れたペンギンの営巣地まで飛び、自動で撮影できるよう、市販のデジタルカメラを改造した。 ◆安い部品利用 こうした技術は災害や事故、遭難時にも有効だ。人間が近づくには危険な場所へ飛ばして撮影し、いち早く状況をつかめる。実験で火山の噴煙の採取にも成功した。視界不良時や夜間でも飛べることも利点で関心を集める。 「高価な特殊部品ではなく、普通の安い部品を使うことを重視した」と機体を開発したフジ・インバックの田辺誠治代表。量産できれば1機150万〜数百万円も夢ではない。「災害用に都道府県が備えられるようになるといいですね」 |