知的資産経営を導入する最大の目的は、既存の経営戦略を再確認し見直して、 新たな経営戦略の再構築をすることだと考えます。
知的資産経営の導入が即優れた経営戦略の構築という訳にはいきませんが、
経営理念の確認、
これまでの継続的利益の要因(会社の強み)、
これからどのように強みを伸ばし、
どのように弱みを克服するか、
業界の環境はどうか、
競合他社の動向はどうか、
これらを深く掘り下げて分析することで視点を転換し、視界を広げる効果が期待できます。
経営者様のこれまで培われてきた実務家としての経験に、ほんの少しの経営戦略的な論理が加わることで 「新たな価値を創造する」 その礎が知的資産経営なのです。
【知的資産とはどんなもの?】
私の好きな居酒屋の話です。
板長兼店長の出身地である気仙沼を中心とした産地直送の魚介と福島産の極上川俣軍鶏を中心に、その他創作料理を出してくれるお店です。これだけでも酒飲み人にとっては申し分ないことなのですが、さらに他店と少し違うところがあります。飲み物注文の後、食べたい料理(刺身や焼き鳥、サラダ等)をまとめて注文するのですが、料理がテーブル上に運ばれてくるタイミングが絶妙なのです。
ホールスタッフがとても優秀で卒がなく、終始気持ちよく食べて飲んで店を後にできます。テーブルの料理がダブつく事はありませんし、間を計ったようにテーブルが片付けられ次の料理が運ばれてくる、まるで高級レストランのコース料理か料亭で食しているような気分です。
刺身が出された後、サラダを作り出すタイミングや焼き鳥を焼き始めるタイミング、飲み物の追加の声を掛けるタイミング等、ホールスタッフのサービスに対する意識の高さ(自立した対応)、ホールと調理場の綿密な意思疎通ができていることが評価されます。
ホールスタッフと調理場の情報共有が、よりキメ細やかなサービスの提供を可能とし、私も含めリピーターを増やす結果に繋がっているのです。これは一つの重要な知的資産です。
【知的資産の定義】
技術、ノウハウ、組織力、人材、顧客等のネットワークなど、企業の「強み」となる目に見えない資産の総称を言います。 企業固有の知的資産を認識し、有効に組み合わせたバリューチェーンを認識し、それを意識的に管理・活用し、持続的な利益を確保するのが知的資産経営です。
バリューチェーンとはマイケル・ポーターの著書「競争優位の戦略」の中で用いた言葉で価値連鎖(かちれんさ)と邦訳されます。
知的資産の活用や保護を重視した経営、知的資産経営に取り組み、それを効果的に開示して、企業の価値向上につなげていく。企業は競争力の源泉たる知的資産の活用を重視した経営の取り組みが必要である。
【知的資産経営の活用】
知的資産経営を導入し知的資産経営報告書を作成して活用することで次のような効果を期待することができます。
1.経営者自身が自らの強みや価値創造メカニズムを認識し有効に
活用することができる(経営戦略の再確認、再構築)
1.従業員が企業の経営方針や自社の強みなどを明確に認識するこ
とができる
1.金融機関や株主(将来株主)から適正な評価をうけることができる
1.取引先・消費者・顧客などからの信頼を向上することができる
1.リクルートの効率化を図ることができる
知的資産経営の導入は企業価値の分析精度を高め、企業が持つリスクを評価し、また成長性の高い企業を見抜くことができる。 知的資産経営の報告書を外部へ開示することによりステークスホルダーに対する外部コミュニケーションツールとして効果を得る期待できます。
ステークスホルダーとは顧客(得意先)、仕入先、金融機関、株主、従業員、入社希望者など企業に対して利害関係を持つ人
【経営戦略コンセプトとは】
〓 コンセプトとは本質的な顧客価値の定義です 〓
本当のところ、誰に何を売っているのかということです。
代官山 蔦屋書店は、ご存じ"TUTAYA"が運営している今話題の書店です。店内には、椅子・ソファーがあり、コーヒーを飲みながら無料で本が読めます。また2000人の応募者から選ばれた37人の本のコンシェルジュ(案内人)が居て本に関する情報を提供してくれます。コンセプトは「大人のための空間」で、これまでの本屋のイメージを一変するような本屋です。一見して非合理のように感じますが次なる店舗の計画もあるようなので今後の事業展開が注目されます。
以下は著名な企業の経営戦略におけるコンセプトです。当然コンセプトだけでは戦略の詳細を理解することは出来ませんが、何か気持ちを高揚させる、興味をそそるインパクトがあります。
「画像処理のデジタル化」 リコー
「捨てない人のためのインフラ」 ブックオフ
「狭域情報誌」 ホットペッパー(リクルート)
「モノを売るのではなく、人々の購買の意思決定を助けるサービスを提供する」 アマゾン
「エンターテイメントとしてのショッピング」 楽天
「空飛ぶバス」 サウスウエスト航空
「第三の場所」 スターバックスコーヒー
「買取専門」 ガリバー
【トレードオフの考え】
トレードオフとは「何をやり、何をやらないか」を明確にすることです。特に「何をやらないか」、極端なことを言えば「誰に嫌われるか」を把握しつつ、むしろ積極的に実行する。あやふやにしないということでしょうか。
スターバックスコーヒーの話です。2年前まで私はヘビースモーカーでした。お客さんとの約束時間に早く到着した際は、喫茶店(ドトール等)に入りコーヒーを飲みながら、ちょっと一服。至福の時でした。
スターバックスのコンセプトは「第三の場所」です。家でもなく、職場や学校でもない、第三のリラックスできる場所を提供するということです。リラックスできる場所の提供ですから、ある人にとってタバコの煙や臭いはとても「その目的」を達成することはできません。全席禁煙。スターバックスはスモーカーから嫌われる選択をしました。
実は、タバコを吸わなくなった今でもあまりスターバックスを活用することはありませんが、恐らくそれでも良しとするスターバックスの経営戦略なのでしょう。
参考 「ストーリーとしての競争戦略」楠木 建
【知的資産をめぐる我が国の動向】
2002年 知的資産戦略会議 「知的財産戦略大綱」 知的財産立国宣
言を行った
2004年 「通商白書2004」 知財経営の推進
2005年 「知的資産経営情報開示ガイドライン」 策定・公表
「知的資産経営WEEK」 を全国的に開催、毎年実施している
2006年 「中小企業における知的資産経営中間報告書」 中小企業基
盤整備機構にて策定
「知的資産経営評価チェックリスト」 大阪商工会議所、公認
計士協会近畿会にて策定
2007年 金融庁・金融分科会がリレーションシップバンキングにかか
る報告書を公表、その中で知的資産経営報告書が取り上げ
られる
2009年 「知的資産経営評価融資の秘訣」 経済産業省にて策定
【知的資産経営ポータルサイト】
経済産業省のHP「知的資産経営ポータルサイト」です。
URL
http://www.meti.go.jp/policy/intellectual_assets/index.html
【知的資産経営報告書開示一覧】
経済産業省HP 「知的資産経営報告書開示情報一覧」です。
開示企業の知的資産経営報告書を閲覧することができます。