・映画「潔く柔く きよくやわく」(2016年12月3日)
映画「潔く柔く きよくやわく」を拝見しました。
「罪悪感ってどうやったらなくなるの?」
「あ〜そうか、アレか、オレがなんにもなかったような顔をしているから」
「ごめんなさい、ちがう」
「いっとくけど、なくなんないよそんなものは
一生抱えて生きていくんだよ。」
主人公のロクとかんなの男女はそれぞれ過去に大きな罪をつくってしまっていました。法律を犯していたわけではありません。
ロクは小学生の遠足でつきまとうのぞみをつきとばしてしまい、彼女は車にひかれて亡くなりました。
かんなは高校生の頃、幼馴染のハルタを好きになりきれず、結果的にハルタを交通事故で失うきっかけをつくってしまいました。
高校生になったロクはのぞみの姉と再会し、当時の日記を渡されます。のぞみのロクへのまっすぐな恋心。
「あしたは遠足でたのしみ。たざわ湖へ行く。ロクちゃんいまごろワクワクしているかなぁ」
と、日記はここで途絶えます。空白となった白いページの日記に、絶句しました。
姉にさそわれロクは小雨の中、たざわ湖へ行きます。
ところが姉が渓流に滑落してしまいます。
懸命に助けようとロクが抱きかかえた姉はのぞみでした。ロクは大泣きします。
いとしそうにのぞみにほおずりしながら泣きに泣きます。
まるでこれまで逃げて、避けてきたのぞみを丸ごと自分の中に受け入れるかのように。
スッーとのぞみの姿が姉にかわります。
「生きていてもいいのかなぁ」と、意識を取り戻した姉がロクにつぶやきます。
姉は姉としてのぞみを失うことで家族がぎくしゃくしてずっと苦しんできました。
「お姉さんまで殺したくないよ」とロクが泣きさけびます。
「ロクちゃんが悪いわけじゃない」と、姉はなぐさめます。
ロクははじめてのぞみの命を奪った責任は自分にあると自覚します。姉はロクと心を通わせることで生きる気力を取り戻します。
雨上がりの雲間の光がそんな二人を絶妙に照らします。
そこでは何一つ言葉が語られていません。
スッーと、自然に、伝わってくる何かがあります。
本来の宗教性とはきっとこういうものなんだろうと、ふと、感じました。
「ハルタはたちの悪い化け物だった?
あんたをがんじがらめにして苦しめるひどいやつだった?
思い出してやれよ、ちゃんと、
思い出してやろうよ。かわいそうだよ」
と、ロクはかんなに語りかけ、思い出の場所へ向かいます。
かんなは罪悪感から人を愛したくても愛せなくなってしまっていました。
ここでは現実には見えない魂の視点から物語が進んでいきます。
本来のハルタらしいハルタとかんなが罪悪感の中で見るハルタはまるで別人であり、どっちが本当のハルタなのか?と、ロクは問いかけているかのようです。
かんなはハルタとの思い出の場所をたどることで、本当のハルタなら、今の自分をどのように思うだろうか?と、ハルタと真に向き合いはじめます。
ストーリーはまだ続きますが、ロクを愛するために走り出すかんなを青空からハルタが声ではげます姿には、人を愛するとはどういうことか?
きよく、やわく、語り出されているかのようです。
2016年12月3日 井上嘉浩