第4・5話合併号
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某月某日。
時に、弓達とヒロ兄(といっても「おじさん」なのだが。)、とのやり取りから既に数日が経過していた。
―その夜更け。物音が弓の眠りを妨げる。どうやら父の部屋からだ。
気になった弓は、半ば寝ぼけ眼で立ち上がると、音の出所に向かった。
「お父さん、未だ起きてるの?」
目を擦りながら、弓が話しかける。
「ああ。起こしちゃったか!?」
振り向いた父の楽しそうな顔。どうやら、久し振りにチョロQをいじっていたようだ。
父の表情に弓は安堵した。この数日、父・弓太がずっと物思いに耽っていたからである。
お休みと言いかけて、ふと視線を父の手に向けた弓は、一瞬己の目を疑った。
「お父さん、それは・・・。」
弓太は静かにうなずく。
「コイツの勇姿を再び見られるぞ。」
父が真顔になる。
「弓、このことは母さんには内緒だぞ。」
* * * *
翌朝、いつもどおり登校する弓。奏と合流し学園に向かう。
「キュウ。誰かを好きになったことある!?」
奏の唐突な一言。
「昨日、出逢っちゃったのよ。素敵な少年(ひと)に!!」
はいはいと軽くいなして先を急ぐ。
「ミリタリー調の服装がまた格好いいのよ。」
奏は瞳を輝かせながら言った。
「彼とはまた逢える気がする!」
そして、奏の想いはこの数十分後に現実のものとなる。
二人の通う学園に話題の少年『甲斐座(かいざ) コウ』が転校してきたのである。
「キュ〜〜〜ウ!!!運命って信じる??
私のハートが叫んでいるのよ〜〜〜!!!
この人が私の王子様だって〜〜〜」
奏の黄色い声が教室に響き渡ったのは言うまでもない。
* * * *
その放課後。
弓と奏は、甲斐座 コウに校舎の屋上に呼び出された。
「キュウ、何の用かなぁ!?私に一目惚れしちゃって、『弓さん、オレ達の仲人を引き受けてくれ。』とか何とか言っちゃって!!!」
横で独り暴走する奏。このおめでたい発想は、いつものことながら、一体ドコから湧いてくるのだろう。
果たして、屋上には既に5人の少年少女が待ち構えていた。いずれもコウと同じ制服に身を包んでいる。
「来たか、向江
弓。
いや、ゼロヨンQ太の愛娘『キュウ』!!」
深緑色のベレー帽を正すコウ。
「オレ達はチョロQ特殊部隊『特Qコマンド隊』。」
5人揃って愛車を構える。
これは何の冗談!?
困惑する弓を真剣に見つめるコウ。以前感じた視線のひとつと同じ印象を受ける弓。
「キュウ!!!
オレ達と共に闘って欲しい。頼む!!!」
コウは一方的に『あの日』の顛末を話し出した・・・。
* * * *
「ヤツだ。間違いない!!」
『あの日』・・・。
一週間の捜索の末、とある工場跡地の片隅で、甲斐座 コウはターゲットを捕捉した。
コウと同年代のターゲットの近くにはうずくまって咽び泣く者の姿があった。大方、チョロQバトルで大敗を期したのだろう。
コウは正直、今回の任務は納得できるものではなかった。ターゲットとのチョロQバトルに勝利し、その愛車と共にターゲットを捕捉するのがその全容なのだ
が、バトルしなければならない理由が解せないのだ。組織の重要機密絡みである。手段にこだわらず捕獲するのが当然なのに。
一方で、これだけの強者と闘えることを歓迎している自分がいる。
組織が何を隠していようとオレは任務を遂行するだけだ。コウは気持ちを切り替えると、相棒のシュビム・ワーゲンを構えながら、相手を睨みつけた。
殺気に気付いたターゲットの少年が振り返る。
「次は・・・あなたか。」
少年の手の中で脈うつニュービートル。
・・・アレが例のシロモノか。コウが呟く。Dr.破枷が失踪直前に開発した
『PROJECT-MAGNUM』の最終機体。ただのニュービートルにしか見えないが。
「最強の名を継ぐマシンはひとつでいい。」
少年の言葉にコウもうなずいた。
「新型の力、見せてもらおうか。」
* * * *
交互にマシンを走らせ、3本の合計タイムにより勝敗を決することになった二人。
ただ競うのは面白くないと、コウの提案で床に水を撒く。凹凸(おうとつ)のある路面にあちこちに水溜りができる。
「オレからいくぞっ!!
いっけ〜〜〜!!
マグナム!!!」
唸りをあげて爆走するコウのシュビム・ワーゲン。悪路をものともしない力強い走りで、あっという間にゴールする。初戦からかなりの好タイムを叩き出した。
「よし!!!」
コウはガッツポーズを取った。これで、相手にプレッシャーを与えることができる。
「あなたのもマグナム号なのか?」
少年が問う。
「ああ。だが、お前のとは系譜が違う。」
コウが答える。コウのシュビム・ワーゲン『マグナム・コマンドカスタム』は、『MAGNUM-II』をベースに研究・開発されたものである。オフロード用に特化し、Qボート以上の水上走破能力をも付与された特殊車両だ。コウにとって、有利な条件がそろったバトル。相手が新型とはいえ、負ける筈がなかった。
「次はお前の番だ!」
コウの呼びかけに応じて少年がニュービートルを走らせる。確かにこの悪路をよく走ってはいるが、特段速いという訳でもない。現にゴールはしたが平凡なタイムにとどまっている。
「なんだ。その程度か!?」
毒づくコウ。少年の手にあるライトグレーの機体は、よく見るとクリアがかっているのが分かる。コウはそのマシンに違和感を感じていた。『マグナム』を示すマークがないのだ。
* * * *
果たして、2本目が開始された。
コウの『マグナム・コマンドカスタム』は、その安定した走りで1本目を上回るタイムを叩き出す。このペースでいけば勝利は固い。
「さあ!!
お前の番だぞ!!!」
少年は、スタート地点に立ってゴールを見据えると、ポケットから何やら取り出した。漆黒のコインだ。
「!?」
コウは胸騒ぎを覚える。
「チェンジ・ビートル・・・。」
少年は、ニュービートルのコインホルダーにコインをスラッシュする。
「!?!?」
その刹那、フラッシュする機体。
「!?!?!?」
ボディがスモークに変色する少年の愛機。クリアイエローのヘッドライトが猫の目を彷彿させる。
これがチョロQ?
コウは息を呑んだ。
「行くよ、マグナム。」
少年は優しく語りかけると、黒いマシンを発進させた。
「は、速い!!」
コウが叫ぶ。さっきとは別のマシンのような速度だ。
「だが、このライン取りだと水溜まりに直撃だぜっ!!!」
『黒の弾丸』の目前に巨大な水溜まりが迫る。
その時だった。少年が漆黒のコインを構えたのは。
秘技コインシュート。コインが空を裂き、黒いマシンを弾くと車体の下に潜り込んだ。そのまま水切りの要領で水溜まりをパスすると、ゴールへ飛び込んだ。
「ば、馬鹿な・・・。」
コウは信じられなかった。相手のマシンが己のコマンド・カスタムよりも速いタイムでゴールしただけではない。相手が伝説の秘技の使い手だという事実が、だ。
そして・・・。
* * * *
「僕の勝ちだ・・・」
動揺したコウに最早勝機はなかった。3本目は大差をつけられ、逆転負けを期したのだった。うなだれるコウ。
一礼して立ち去ろうとする少年に、問いかけるコウ。
「何なんだ、そのマシンは!?
それに・・・、何故『マグナム』を示すマークがないんだ!!!」
少年は振り返ると再度コインを取り出した。だが、さっきとは異なる黄金のコインだった。
「ま、まさか・・・。」
少年はもう振り返ることはなく、その場を立ち去った。
「このオレを・・・、オレのマグナムを相手に本気じゃなかっただと・・・!!!」
コウの怒りに満ちた叫びが、天にこだまする・・・。
* * * *
コウも『PROJECT-MAGNUM』の関係者なのか。やれやれ・・・。
コウの話が終り、ため息をつく弓の脳裏に何故か父の姿が浮ぶ。
ヒロ兄の話。コウの、『MAGNUM-II』の系譜の敗北。そして、オリジナルの『MAGNUM-II』をいじる父・Q太の姿・・・。点が線になり、ハッとする弓。
「お父さん!!!」
弓は思わずその場を駆け出した。
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作者:竹下広司さん
注意:本作品はゼロヨンQ太 続編を想定したパロディです。